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悪意と善意,警戒と弛緩 <インド#3 アーメダバード>

グジャラート州のアーメダバードに来た。

日本から観光で来る人は、デリー、アグラ、バラナシといった北東インドやジャイプールやジョードプルなどの北西インド、ケーララなどの南インドに行くことはあっても、グジャラートに行く人は少ないのではないだろうか(仕事ならあるかもしれないが)。

グジャラートは今のインドの首相ナレンドラ・モディの出身地であり、安倍元首相もモディ首相と一緒に訪問した場所である。

どうやら、アーメダバードとムンバイを結ぶ高速鉄道の計画は日本の協力で進んでいるようだ。インドにとっては都市間移動がスムーズになるし、日本にとっては鉄道が輸出でき大きなビジネスになる。

アーメダバードはコンパクトな街である。空港から市内中心部が30分くらいで、混雑時には空港まで1時間以上かかるバンガロールに比べると街がスリムな印象を受けた。

スリムな街の中で、南北を流れる川を境に、西側が新市街、東側が旧市街になっている。旧市街は街全体が世界遺産になっている。

アーメダバードは、インド6番目の大きさの都市ではあり、世界遺産でもあるが、私が滞在していた限り、外国人はほとんど見かけなかった。

そのせいか、人々には純粋さがあった。

旧市街の城門の近く。何か煙が出ていたり、情報量が多い写真。

北インドのバラナシ、アグラ、デリーなどに行くと、日本語で声をかけられることも多い。詐欺にあって高額のツアーを組まされた事例が多く報告されている。

ガイドブックでも、日本語で話しかけられても応じないように、との注意が喚起されている。

未知の状況に対してリスクをどうコントロールするかは、旅人にとって重要である。

100%の警戒であれば、騙されたり事故に遭うことはほとんどないだろう。突き詰めてしまえば、リスクを取りたくなければ海外になど行かない方がいい。

けれども、私達は、何かを見たり経験したいという欲求を満たすために、ある程度のリスクを許容して旅をしている。

旅だけではない。人生においてリスクを取らないことは、得られる経験や快楽を諦めることに等しい。

だから、私達は、環境に対して、どのくらい警戒して、どのくらい自分を緩めて、どのくらい踏み込むかを常に考えないといけない。

山における環境への踏み込み

自分は旅以外ではトレッキング(ハイキング)が好きなのだが、旅とトレッキング(ハイキング)には共通点がある。

旅は、街から街へ移動し、人々の生活に触れ合うものである。トレッキング(ハイキング)は、山から山へ移動し、自然に触れ合うものである。その意味では、登山という言葉は、登頂を目指すイメージが大きく、ここでの意味には少しそぐわない。自分が好きなのは、縦走に代表されるような山から山に歩いていくものである。なので、ここでは、もう少しイメージに近い、トレッキング(ハイキング)という言葉を使う。

最近のトレッキング(ハイキング)のジャンルに、ULハイキング(ウルトラライトハイキング)というものがある。形だけを説明すれば、パックウェイト(水や食料を含まない荷物の重量)を4.5kg以下にするという考え方である。

元々は、アメリカのロングトレイルのような長い距離を歩くための実用的な方法論として生まれている。

でも、一番重要なのは、日本のULハイキングの第一人者である土屋氏が言うように、荷物が軽い分、山に踏み込むことができ、「自然との一体感を楽しむ」ことができるという部分にあるのではないかと思う。

ULの本質は単に荷物を軽くすることではなくて、軽くした先にあるのは自然との一体感を楽しむためなんです。

ハイカーズデポ土屋さんに聞く「ウルトラライトハイキング」の魅力 | UL入門(前編)

”警戒”と”弛緩”のバランス

何かに踏み込むことで一体感を楽しむことができるかどうかは、旅においてもまったく同じに思える。

バラナシはたしかに印象深かったが、もう一度行きたいかと言われると、そうは思わない。

きっとそれは、自分が終始警戒モードで、バラナシに踏み込むことができなかったからだと思う。

アーメダバードでも、何度も現地の人に声をかけられたが、バラナシで勧誘してくる人のように警戒する必要がなく、純粋な好奇心から外国人である自分に話しかけてきているように思えた。

だから、自分も踏み込みことができた。

日本でインド観光を考えている人にバラナシかアーメダバードのどちらに行きたいか聞けば、ほとんどの人はバラナシだろう。

でも、観光地を見るのではなく、現地に踏み込むという観点では、アーメダバードはとてもいい街だと思う。

きっと安倍首相もモディ首相の出身であるグジャラートへ行くことで、インドに踏み込み、インドとの間で国家レベルでの関係を深めることができたのであろう。

リキシャのおじさん。勧誘はまったくしつこくないし、この人のリキシャには結局乗っていない。


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