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記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

『青のフラッグ』に食らった話

どうしても感想を書きたくて

最近、タイトルの通り『青のフラッグ』という漫画を読みました。火曜の夜に読んでいま土曜日、丸3日以上は余韻を引きずってしまうほど食らいまくったので、その食らいをぶちまけたくて設置だけして放置していたnoteアカウントを引っ張り出しました。

事前注意を置きますが、ネタバレありとなっておりますのでご注意ください。

あらすじ

高校3年生の春、いわゆる陰キャグループに属しパッとしない日々を過ごしていた主人公 一ノ瀬太一(いちのせ たいち)は、陽気で外見もよく野球部主将、学校中の人気者である幼馴染の三田桃真(みた とうま)、引っ込み思案でいつもおどおどしていて、なんとなく苦手な女子の空勢二葉(くぜ ふたば)と同じクラスになる。
ある日太一は二葉から桃真への恋心を打ち明けられ協力してほしいと頼まれる。
(桃真は作中表記にならい「トーマ」と表記します)

第1巻の表紙↓でいうと、真ん中のツンツン黒髪が太一、左がトーマ、右が二葉です。距離のせいで分かりにくいですが、トーマは185cmぐらい?太一と二葉が155cmぐらいの身長らしいです。

ネタバレにならない部分の魅力

とにかく絵がうまいの

まずとにかく絵がうまいです。キャラの表情やちょっとした動き、姿勢、視線で、キャラたちの感情がひしひしと伝わってきます。
恋愛ものなので感情描写が豊かというだけで面白さが加速するのは間違いないのですが、この作品の題材との噛み合い方が素晴らしく、説得力を増しています。
そんな感情表現でも最初は本当にさりげないのでなんとなくスルーしてしまいがちではあります。しかし、読み進めて物語の核心に触れた後、「ひょっとしてあの時のアレって・・・」と思い読み返してみると、キャラの気持ちが一回目にもましてドバドバーっと流れ込んでくるようでやばいのです。
画像で引用したいのですが、どこまでやっていいもんなんですかね。幸い1巻分(5話)は無料なので、とりあえず読んでみてもらえたらと思います。

全8巻だし、とりあえず読んで

既に完結済みで、しかも全8巻というボリュームも手ごろで読みやすいです。ジャンプ+自体でも読めるほか、各種電子書籍プラットフォームでも提供されていますので、お手持ちのデバイスですぐに読み始めることができます。さあ!

普通の恋愛マンガじゃね?

絵がうまいっていってもあらすじを見る限り普通の三角関係かなんかのよくある恋愛マンガじゃないかと思われるかもしれません。しかし連載誌は「ジャンプ+」、SPYxFAMILYやダンダダン、【推しの子】など一癖もふた癖もある作品ばかり。この「青のフラッグ」もひとひねり効いています。

以下 ネタバレ

物語の起爆剤となるネタバレを知ったうえで読んだ、さらにこれを知らなければ読んでなかっただろうという作品なので、ここまでで既に読み始めていないという方はそのネタバレだけでも見ていかれてはどうでしょう。

ネタバレそのものではなくなんとなくほのめかした表現をするとすれば、二葉はトーマのことが好き。太一は二葉がトーマの好みのタイプに近づくように協力する。じゃあ、トーマの好みのタイプってどんな人…?
といったところでしょうか。

というわけで物語の起爆剤となる事実のひとつについてネタバレをします。これ以降基本的に全部ネタバレを含みます。

二葉が思いを寄せている人気者のトーマ。そのトーマが好きなのは主人公の太一なんですね。二葉→トーマ→太一、とそしてまあお察しの通り太一も二葉に協力していくうえで二葉に惹かれたりするので二葉→トーマ→太一→二葉→トーマ・・・という無限ループ三角関係が出来上がるわけです。

その描き方よ

そして冒頭にも書いた通り、とにかく表情描写がうまく、またすべてを語らない仄めかしのやり方がうまいわけです。
なんとなく描かれたようなトーマのコマのようで、その視線の先には太一がいたり、太一が何気なく放った一言に対するトーマの一瞬の表情だったり。

中学時代にトーマが太一に自分の好きなタイプを話すシーンで、トーマは「身長は高めでスラーっとしてて…大人っぽくてスポーツができて、明るくて豪快に笑ってハキハキ話して、黒髪……ロングのストレートで巨乳」と、河川敷を歩きながら打ち明けていました。この中で「黒髪…」の部分、切なそうなトーマの表情と、その視線の先にある、とぼけた顔をした黒髪の太一と。これが4話、SNS民が大騒ぎした5話の前だというのだから、意外とわからないものなのでしょうか。ネタバレ踏んだうえで読んだからなのかもしれませんが、トーマがめちゃくちゃ嬉しそうに太一の話をするところとか、授業中のトーマの視線とか、そこそこ仄めかされているんですよね。

さらに「叶いっこないだろーけど…」というトーマの言葉を聞いて太一は"気づいて"しまうんですね、太一の好きな人は兄嫁のアキコであると…

リアリティ

登場人物の感情の流れが、少なくとも自分にはとてもリアルだなと。実際作者さんもそのように書かれていたとあとがきで言われていますし。
太一のトーマに対するコンプレックスやそれのあらわれ方、二葉への接し方、トーマの周りにいる陽キャ軍団を避ける感じだとか諸々。あとは二葉の友達の真澄が、普段過剰なほどにクールに理知的に、時には相手を理詰めで追い詰めたりしてしまうような真澄が、二葉の言葉を聞いていたたまれなくなって逃げだしてしまうシーンなんかもうね。
そして物語の後半、とうとうトーマの想いがひょんなことから学校中にバレてしまうわけですが、そのことに対するモブのリアクションがいかにも無責任で。更衣室に入ってきたトーマに「太一もいるんだから気使えよ」とか、ぽっと出の二葉が邪魔、トーマのために消えてくんないかなとか。あー高3っつっても、っていうかなんなら大人だってこんなもんだよなぁ…という、エグみのあるところまで実にリアルに描かれているわけです。
(とはいえ二葉のキャラだけなんとなくファンタジックに感じるのは自分の観察範囲のせいか、あるいはあくまでジャンプ作品に残された「夢」の部分なのか…)

メタ貼ってくる

あとがきでも触れられていましたが、本作が連載開始した2017年あたりからLGBT、多様性、認めていこうねというような雰囲気が世間に満ちてきました。そんな中で書かれた、その方向性から書かれた作品で終わっていないところも本作が評価される所以ではないかなと思います。
7巻に収録されたやり取り2つが際立っていました。一つはトーマの周りの陽キャたちの会話。多様性を認めろという「正しさ」に対する疑問、「好き」「嫌い」の良し悪しって自分にとっての都合の良し悪しでしかないのでは…という視点が盛り込まれつつ、キャラが納得して終わりというわけでもないという、どの視点も視点として尊重されているのが好感が持てました。
もう一つは、これもまあネタバレなのですが、真澄は二葉のことが好きなんじゃないかとマミに気取られたとき、マミから「まあ気持ちはわかるけどさ」みたいなことを言われたのに対して真澄は「解るわけないでしょアンタに」と突き放すんですね。でもマミは自分が特別だとでも思ってんの?「普通」の人を見下してわかろうとしてないのはあんただろ、わかってほしかったら言えよと。

かわいいのよ

完全に好みの問題ですが、太一がまあとにかくかわいい。でも美少年だとか中性的だとかそういうかわいさじゃないんですよね。黒目の小さい四白眼だし、デフォルメされても目つき悪いし。
小柄であり、そこに対して多少のコンプレックスを持っている男性が好き(歪んでるな…)というのもありますが…トーマの目を通して太一のことを見るたびに、愛しさが募っているのかもしれませんね。

最終話の賛否

読み終わってすぐ、SNSやWebで本作の感想を検索して読み漁りました。そうすると割と最終話の賛否についての話が出てくるわけです。
本当に、本作を読み切った人向けという前提で書きますと、どうやら太一はトーマとくっついたっぽいんですよね。っぽいというのは断定的なことはかかれていないものの、まあほぼ間違いなくそうだというものです。しかも単に付き合っているというのではなくトーマの苗字が太一の「一ノ瀬」になる手続きがなされているレベルです。
批判というのは、①なんだ結局BLが書きたかったのかよというものと、②トーマとそこまでの関係になるに至った経緯が一切書かれていないことの大きく二つがあるようです。
①については確かに最終話の直前まで一貫して異性愛者として書かれていた太一がそういう結末を迎えるのは、単に作者がそうしたかったからで脈絡のないものに思えるかもしれません。また、②8巻かけて丁寧に丁寧に心情を書いてきた作品だからこそ、一気に5年も飛んで何の説明もなく結末という落差への驚きもあったのだと思います。
ただ、それこそ作中でずっと書かれてきた何がその人にとっての幸せなのか、その人がどう思っているのか、なぜその選択をしたのか、簡単には他人からはわからないというメッセージなんじゃないかなと思います。何なら、作者はわざと、意図を持った表現として過程をあえて書かなかったのじゃないかなとも。自分も批判意見のような気持ちを確かに感じたものの、ふと客観的に見てみるとそれこそトーマや二葉に向けられたモブたちの雑な声そのものなんじゃないかと思わされたので、もしそれを意図的にやられたんだとしたら脱帽です。
ただ、自分がトーマにすごくシンパシーを感じて強く感情移入をして読んでいたので、その視点としてのハッピーエンドだったからという加点もあるでしょう。(もっとも「そんなさくっと報われてなるものか」とも思いますが。。。)

さいごに

文字ばっかりで読みづらいものになってしまいましたが最後までお付き合いいただきましてありがとうございます。
さすがにここまでの分量のものは度々かけないと思いますが、これからも好きな漫画やアニメについて語ることができたらなと思います。


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