ここひと月に渡るヤスデとの攻防
画像はイメージです。
そろそろあの野郎のシーズンも終わりが近いので、せっかくだからと書き留めてみる事にする。ソニックの話とかしておいて次の記事がこれかよと我ながら思うが、今現在の自分がそういう類の事を長々語ろうとすると、最終的に全世界のファンについての話に移っていき、おおよそnoteに載せるにはふさわしくない、むしろはてな匿名ダイアリーとかそういう地獄みたいなネットの掃き溜めに放り込むべき内容になりかねないので自制している。そもそもそういう自身の外方向に向けた愚痴やお気持ち表明みたいな文章自体に強い嫌悪感を抱いているので、あんな場所自体にも嫌悪感を抱いているし、今後使う事も決して無いだろう。でもクソデカ羅生門はコロンブスの卵的な発想の天才だと思う。
『(就職してからまた引っ越す事を考えると)家具家電を買い揃えるのが面倒』という理由からレオパレスの物件を借りて大学生活を始め、かれこれ4年以上が経過した。というか経過してしまった。本来は4年で契約終わるはずだったんだけどなんでやろなぁ……(遠い目)
他にも何時ぞやの建築基準問題で「やっぱ大東建託とかにしとくんだった…」とか後悔しつつも、好きなものに囲まれているという充足感に包まれて自分は平穏に暮らしていた。
もうすぐ梅雨入りも見えてくる頃合いの6月頭の頃。その頃SwitchでFF10を遊んでいた自分は、久々に歯ごたえのあるRPGを遊んでいる事に楽しみを感じていた。その夜もそこそこ進めてセーブして電源を切り、さて横になるかと椅子を立ったその時、部屋に何か違和感を覚えた。
なんだあのデカくて黒いゴミは。いくら面倒くさくてあまり掃除機かけないとは言え、あんなに大きいホコリとか糸くずはそう出ないはずだ。しかもよく見るとなんか動いてる。更によく見てみると、なんか黒々と光る長い身体にビッシリと生えた小さな脚がワサワサ動いている。その時は特にどうとも思わず、とりあえずいつものように2枚重ねにしたティッシュで掴んで粉砕し、ゴミ箱に叩き込んだ。
これがあの野郎との初めての出会いだった。
次の日も、その次の日も、あの野郎は部屋の床を這っていた。しかもなんかトイレの床にまでいやがった。約4年間住んできてこんな事は初めてだったので、Twitterで「最近なんかムカデの幼体みたいなのが出るんだけど」とつぶやいてみると、生き物に詳しいフォロワーから「それヤスデじゃないすか」と反応があった。「あっ、あれがヤスデって奴なのか!」という発見をしたと同時に自分の無知っぷりが露呈した瞬間だった。しょうがないじゃん、今までゴキブリとかムカデとかゲジとかは実物見て露骨に眉間にシワを寄せていた(どうも自覚が無いが、自分は感情が露骨に顔に出るタイプらしい)が、ヤスデなんてまともに見た事なかったんだもん。
調べてみるとあの野郎はどうも梅雨時に大量発生するらしい。ムカデのように毒を持った牙で噛んでくるなんて事は無いが、体液にはそれなりの毒性があるので取り扱いには気をつけろ、ともあった。しかも隅っこで集団が団子状になって固まってる図なんてのもあって身の毛がよだつ。
とはいえ部屋に出たのがまだこのちっこい野郎でよかった。もしこれが自分が最も忌み嫌う害虫であるゲジだったなら、とても成人男性とは思えないような声を上げ、何重にも重ねた紙類ですら触れられず、誰にも助けを求められぬまま部屋の外でビクビクし腐っていただろう。誇張表現とかじゃなくて真面目に。
とにかくこの始めの頃は、まだあまりあの野郎の事を深刻には思っていなかった。というのも、こういった類の奴らには嫌々ながらそれなりに慣れてはいたのだ。福島の実家ではちょくちょくゴキブリが出てくるのを見ていた(基本父や祖父が処理していた)し、こっちに来てからも稀にではあるが生死問わず奴らを目にする機会はそこそこあった。何よりかつて自分が虫取り少年だった事もあり、そういうのを見つけても(その時は驚いてビビりこそするが)「あ、いるのか」というくらいの心情でしかなかった。ゲジ以外は。
しかし本格的に梅雨のシーズンが始まり、あの野郎を目にする機会が増えると徐々にフラストレーションが溜まっていくようになる。
なにせ本当に毎日出てくるのだ。部屋に、廊下に、トイレに、床に、壁に、天井に、カーテンに!時には天井の照明の中に入り込んで熱にやられて勝手に死んでいたり、時にはバイト帰りの夜に灯りを付けると全部で5匹くらいウヨウヨしていたり、時には寝起きにふと目をやると、寝坊助の主人公を起こしに来た家が隣の幼馴染か何かのようにすぐ傍の壁に張り付いていてこっちを見ていたり!!ざっけんな!!!
そして自分はそれらを見つける度に、クッソ嫌な顔をしながらため息をついてティッシュを取り、あの野郎を捕まえ、潰…さずにトイレに叩き込み、そのまま勢いよく流していた。
先程も述べたように、ヤスデは毒性のある体液を体内に持っている。潰してうっかり手のひらに付いてしまっては大変だろう。水道代は多少余計にかかりそうだが、この方が安全面でも、そして精神面でもよっぽど良いだろうという判断によるものだ。これだけ数が多いと、その1匹1匹を捕まえては潰してゴミ箱に放っておく…というのも、害虫だからこそ、或いは害虫でもなかなかに嫌なものがある。いちいちトイレに流すのも精神的にどうなんだって言うのはナシで。
そうしてあの野郎を見つけ次第トイレにぶち込む日々が続くある日、自転車で帰ってくるとある事に気づいた。部屋の外にもあの野郎の群れや死骸が大量に転がっているのだ。
さすがにこれにはイラつきを越えて不気味さを覚えた。前にもミミズが大量に干からびて死んでいる光景を同じロケーションで見た事はあるが、これはいくらなんでも異常だ。どうして今年はこんなにあの野郎が?足りない頭で原因を考えてはみたが、結局は思いつかなかった。
それから一時期『ヤモリくんを1匹捕まえて部屋に放ってみるか?』と考えた事もある。
彼らは自分がこちらに来た時からの数少ない親友であり、夏が近くなると夜になってから部屋の窓の網ガラスにやって来る。本物の彼らを見たのはこっちに来てからが初めてだったり、部屋の明かりにつられてやってきた羽虫などを食べたり尻尾を動かしたりする様子がどこか愛おしく思えたりと、いつしか君付けするくらいには愛着が湧いていたのだ。真正面から顔を見たことはないが。
そんな彼を部屋に放てば、ゴキブリに対するアシダカグモのように見つけ次第食してくれるのではないかと考えたのだ。が、そもそも借りてる部屋がペット禁止である以上、野生の爬虫類とはいえ意図的に部屋の中に入れたら普通にいかんでしょという事と、もし万一うっかり踏んづけてしまえば害虫以上に悲惨な事になる危険性を考慮し断念した。
最近犬や猫を飼い始めたフォロワーを見る度に、「部屋の中で自由にさせてれば害虫が出ても退治してくれるんだろうな…」などと身勝手な視点から羨望の眼差しを向けたりする時もある。
そして1週間ほど前の6月末。いつものようにバイトから帰ると、また部屋の至る所に5匹ほどのあの野郎が我が物顔で跋扈している。それを見た瞬間、あの野郎に対するフラストレーションはそれ以外の様々なストレス要因と重なり遂に限界を突破した。
もう限界だ。いいかげん何とかしなければ今後の生活にも影響が出かねない。そう考えた自分はすぐさまレオパレスの管理センターに電話した。壁が薄いだのネット回線がうんこたれだのなんだのとアレな所が目立つレオパレスだが、鍵の紛失時や設備の故障時なんかの対応を迅速にしてくれるのは非常にありがたく思っている。他のとこでもやってるかもだけど。とは言えその時はもう夜遅く受付も終了していたので、翌朝起きてすぐに電話して業者の方を手配してもらえる事になった。(ついでに最近浴室の水捌けが悪いので一緒に直してもらう事にした)
業者の方が来る当日。目を覚ますといつかのように寝床の傍の壁にあの野郎が這っ付いていた。最悪の目覚めに嫌な顔になりつつも「こんな思いするのも今日が最後だ」と思い直し、やる事(主にTwitter)やりながら訪問時間を待つ。
そして夕方頃、チャイムを鳴らして業者の方がやって来てくれた。まずは浴室の方をサクッと直してもらい、次に部屋全体を見てもらう。こんなにあの野郎が入ってくるのは、恐らくどこかしらにデカい隙間でも空いてるからなのだろう、と考えたからだ。
しかし結論から言うとそんなに目立つ隙間は無く、また業者の方も特に何か処置をしてくれた訳でもなかった。
マスクをしながら色々と話してくれたのだが、まず『隙間は無限にあるからそれらを潰そうとしてもキリがない』という事。建物の構造やコンセントや設備などの都合上、隙間というとのはどうしても出来てしまうものらしく、見えないように塞ぐ造りはしているがそれでも虫は小さいのでそこから入ってきてしまうようだ。
次に『1階に住んでいる以上、どうしても虫は湧きやすくなる』という事。まぁ考えてみれば当然の事である。高層マンションの上の階なんかは滅多に虫が湧かないものだ。
業者の方曰く、木の高さ(建物で言えば5階くらいの高さ)よりも上だと、気圧やら何やらで一気に虫は減るらしい。だから虫などを極端に嫌う人はなるだけ高い階の物件を探すといいだろう、という話を聞いた。
そして『周辺の環境にも依る』という事。あまり詳細に話すと特定されかねないが、確かにこの部屋の建物周辺は緑がそこそこ多く、元から虫なども多い土地ではあった(ヤモリくん達がやたら来るのもそのためだろう)。
そしてこの話を聞いて思い出したのだが、約半年ほど前に近くにあった廃屋が解体され、その手付かずの跡地が小さな森のように鬱蒼とした環境になっていたのだ。もしかして去年まで全く見なかったあの野郎が湧くようになったのって…。業者の方も否定しなかった。
ある意味、今回の現象は必然だったのだろう。そしてそれは、そういったリスクがあるといった事を一切考慮せずに、或いは知らずにこの部屋を借りた自分にも問題があるのだろうと感じたのだった。
最後に「虫はとにかく色んな隙間から入ってくる。特に換気扇なんかそうだが、常に回して換気すれば入ってくる数はグッと減るはず。現に自分はそうしている」と教えていただき、業者の方は次の現場へと向かっていった。早速キッチンの換気扇を付けっぱなしにする事にしたが、結構うるさい。とはいえ隣の部屋のアジア人世帯の喧しさがそこまで気になってない自分にとっては大した問題じゃない。これであの野郎が来なくなる…事は無くとも減ってくれるなら安いものだ。
この1ヶ月、とにかくあの野郎に悩まされる日々だった。調べたところあの野郎のピークは7月上旬までらしいが、もうすぐ終わりなのだろうか。出てこなくなるならそうなるで越したことはないが…何故だろうか。あんなに嫌っていたヤスデなのに、どこか寂しい気持ちも僅かに……いややっぱクソむかつく。二度とそのツラ見せるな。今度目の前に現れたらまたトイレにぶち込んで流すからな。
業者の方を外まで見送り部屋に戻ろうとすると、地面にヤスデの死骸が5つほど転がっていた。そしてそれと同時に脚にシマカが止まった。即座に叩き潰した。
梅雨明けと夏は近い。
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