戦いの女神・稲妻と風を司るヤンサン
ヤンサンはとても有名な神様です。サンバの女神クララ・ヌーネスの“A Deusa dos orixas(オリシャーたちの女神)”で歌われており「Eparrei !!(エパヘイ)」というヤンサンの呼びかけを聴いたことがある人は多いでしょう。マリア・ベターニアも「稲妻と風の女」というタイトルで歌っています。
ヤンサンは赤に身を包み、戦いに向かう女性神です。稲妻と風、嵐を司り、激しい稲妻から人間たちを守ります。ブラジルで海岸沿いの家にいた時、「今日はヤンサンの機嫌が悪いから、風が強くて海が荒れてる」と家の人が言っていましたが、このようにブラジルでは人々の暮らしの中に神様たちはぽっと現れます。
ヤンサンを守護神に持つ人は頭が切れ、独立していて、大仰、勇気があると言われます。ヤンサンのシンボルは剣と、馬の尻尾でできた「エルケレー」というハエ避けで、これで死んだものの精神を遠ざけます。ヤンサンとオイアーは同じ神様の違う呼び名ですが、ヤンサンは「9人の子どもの母」という意味で、雷の神様シャンゴーとの子どもが9人、そのうち最後の一人は死を司るエグングンでした。ヤンサンの大事な役割のひとつは、あまり知られていませんが、死んだ人の魂を別界へ導くことなのです。
ヤンサンは不妊を嘆き子どもが欲しくて引き換えに牡ヤギを生贄にしたため、牡ヤギは食べませんが、雌ヤギと雌ニワトリを食べるのが好きです。供物はささげ豆をデンデー油で揚げたアカラジェー。「エパヘイ」と挨拶し、茶色、赤と白、7番で水曜日の担当です。背景に水牛がいるのは…実は水牛に変身できてしまいます。
今回はオグンの妻だった時のおはなしをご紹介します。ヘジォナウナウド・プランヂさんの絵本「シャンゴー」を拙訳したものです。
風を吹き火を燃やす女の誘拐
オシャギアーは、エジボーに王として暮らしていました。ふたつ、熱中していることがあって、ひとつは戦争をすること、もうひとつは[イニャーミのピューレのパパ]とあだ名がつくほど、イニャーミ芋のピューレを食べることが好きでした。戦争においては、いつも勝者であり、あらゆる敵から恐れられていました。
オグン・鍛冶屋(フェヘイロ)、イレーの王様の友達でした。
オシャギアーの終わりなき戦争で使う武器を製作していたのはオグンでした。
イファー・預言者のいうところによれば、武器の製作が遅く、それは炎に鉄が溶けるのに時間がかかるからだといいます。
オシャギアーは戦いを終えるのに急いでいました。
ヤンサン・恐れ知らず、はオグンと暮らしていましたが、彼女が鍛冶場に息を吹きかけると、炎は強く燃え盛って、鉄は速く溶けるということがわかりました。
より速く刀やナイフなどの型取りができて、武器が鍛冶屋の家から仕上がって行きます。
ヤンサンはオグンの鍛冶場で息をふうふうと吹きかけ、オグンはオシャギアーの武器を作り、そしてオシャギアーは戦に勝ちました。
ヤンサン・恐れ知らずは、美しく勇敢な女性でした。戦士にとってはこれ以上ない連れ合いです。
ある日、オシャギアーはオグンからヤンサンを奪い、自分の妻にしました。
その後すぐに、オシャギアーは、次の戦に出なければならなくなりました。
いつものように、オグンに武器を準備するよう頼みました。オグンはエシューを呼んで、「ヤンサンの息の吹きかけがなければ、鍛冶場が燃えない。燃え盛る炎がなければ、戦の武器がない。戦のための武器が必要ならば、私の妻を返せ」と伝えました。
オシャギアーは、ヤンサンを返したくありません。ヤンサンに、オグンの鍛冶場に息を送るように頼みました。鍛冶場が他の国と、遠いというのに。しかしヤンサンはオグンの家に向かって息を吹きました。ヤンサンのひと吹きは空を抜け、長い領土を抜けてオグンに届きました。その途中で、ひと吹きは葉を散らし、暑さを吹き飛ばし、髪の毛を乱れさせ、ほこりを巻き起こしました。ひとびとはそのあたらしい現象に慣れて、それを「ventoヴェント(風)」と呼びました。もっと強い風になると「ventania ヴェンタニア(暴風)」と呼びました。製作が急を要するようになると、ヤンサンはより強いひとふきをふきかけ、そのひとふきは怒りをもって空気の中を駆け抜け、多くの事故を起こしました。
その息は鍛冶場の炎を燃え盛らせました。ヤンサンの強いひと吹きは樹々を倒し、ひとびとの家の屋根をひきはがし、危険な砂塵を巻き起こし、植物をダメにするような雨を引き起こしました。ひとびとはこの新しい現象を畏れをもって「tempestade テンペスタージ (嵐)」と名付けました。
人生は続き、
こうして風と嵐ができました。
オグン・鍛冶屋は、武器を製り、
オシャギアー・パパ・プレー・ジ・イニャーミは戦をします
ヤンサン・畏れ知らず、は暴風をコントロールします。
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