#5 何を見える化するのか?- 数字で描く「意思決定の地図」が企業を変える -
松島ゆーきです。銀行員および中小企業診断士として、さまざまな企業の意思決定の現場に立ち会ってきました。
前回は、迅速な意思決定が企業の成長機会を左右する重要性を説明しました。今回は、迅速に意思決定をするために必要な要素である” 数字の見える化 “ について解説します。
1.なぜ数字なのか?
「売上は伸びているのに、なぜか資金が回らない...」
「どの商品が儲かっているのかわからない...」
こんな声をよく聞きます。ある人材派遣会社の社長は、前年よりも年間の売上高が3億円増加したにもかかわらず、資金繰りに四苦八苦していました。
「ゆーきさん、売上は伸びているのに、資金が足りません。なぜ資金が足りないのか分からないんです。利益もでないんです...売上伸ばせば何とかなるって思っていたのに。」
このような悩みを抱える経営者は少なくありません。利益が出ず、必要な人や設備に投資もままならず、成長の機会を逸してしまうのです。
実は、この会社には2つの課題がありました:
- 資金の出入りが見えていない
- 派遣単価ごとの採算が不明確
この状態では、的確な判断ができるはずがありません。
数字には客観性と説得力があり、感情論を排除して冷静に判断ができます。つまり、数字を見える化することで、社長や経営陣が同じ方向を向いて進むことができます。
2.資金繰りと採算の見える化で経営判断がスピードアップ
私がサポートしたのは、資金繰りと採算を見える化したことです。
まず、資金繰り表を作成しましょう。売上、仕入れ、人件費、家賃など費用項目として大きいもの、そして、税金や社会保険料などを集計。実績から将来の予測をします。月単位で把握することで、資金の状況が一目瞭然に。
「あれ、ここで○○円足りなくなる。ここは大きな支払いがあるから、資金調達を考えないと」
こんな気付きを早めに察知することが可能になります。
金額の大きさも重要です。10,000円足りないのか?10,000,000円足りないのか?では、アクションが変わるからです。定期預金を解約すれば済むのか、金融機関から融資を受けないと無理なのか…今回の場合は、手元の保険の解約と金融機関からの資金調達を行い、資金繰りを回しました。
しかし、これだけだと、いずれ資金が減少していくことが、資金繰り表によって見える化されています。
次に取り掛かるのは、採算管理表の作成。
会社の収益力を上げるために、何が儲かっていて、何が儲かっていないかを見える化して、改善のポイントを絞ります。
「あれ、この商品、売上は良いけど利益率が低いんだ。見直すべきかもしれない」
こうした気づきが生まれ、適切な販売価格の検討や生産方法の変更、コストの削減などにつながります。
そして、この積み上げが会社の資金繰りの安定、利益計上に繋がります。
3.数字は経営陣の共通言語
数字を見える化することで、経営陣全員が同じ土俵で議論できるようになります。
これまでは、
- 営業部門:「売上拡大に注力しましょう」
- 管理部門:「リスク管理を徹底しましょう」
といったように、意見が平行線をたどっていたり、抽象的で結局何をするか決まらなかったり…。
しかし、資金繰りや採算が見える化されると、何をどれだけ改善しないといけないかが明確になります。
- 「この商品の利益率が低いから、販売価格○○円見直しが必要」
- 「今期は○○月に資金繰りがタイトになる想定なので、○○円の設備投資は来年○○月に延期しよう」
など、具体的な数値や時間軸に基づいて議論ができるようになります。
こうした共通言語を持つことで、経営陣全員が同じ方向性を持って迅速に意思決定できるのです。
4.銀行との対話も容易になる
数字の見える化は、銀行との対話にも役立ちます。
例えば、よくある話だと、設備投資の融資を検討する際、
- 投資の効果
- 返済計画
といった点について、数値で説明できれば、銀行も判断しやすく、融資の可否が3倍は早くなります。 逆に、数字が見えていないと、
- 投資の効果が見えない
- 返済計画が立てられない
つまり、銀行の担当者が審査部門へ書類を書けないのです。
私は、数字の見える化が、経営者と銀行がWin-Winの関係を築くための重要なカギだと考えています。
5.まとめ
数字の可視化は、経営陣の意思疎通を促し、迅速な意思決定を後押しします。前回の「意思決定の地図」に加えて、今回は資金繰りと採算管理の重要性をお伝えしました。
次回からは、「資金繰り表の具体的な作り方」「採算管理の具体的な方法」を説明していきたいと思います。Excel テンプレートの無料配布も考えていますので、お楽しみに!