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#28 写真部との契約

3人は鎌倉街道を通り、井の頭通り沿いにあるジョナサンへ向かった。窓際のソファー席に座り、ウエイトレスにドリンクバーとクラブハウスサンドを頼んだ。知多は英語の参考書とノートを取り出す。
「え?勉強するの?」と柴咲は驚いた顔で知多を見た。
「…本当だったら授業受けてたハズだから」
「真面目~。私はやらないよ」
剛はカバンの中から英語の教科書とノートを取り出す。
「えっ?剛も勉強するの?」
「…最近、まともに授業受けてないから、ちゃんとやろうかと」
「わかりましたよ。私もやりますよう」と柴咲は言い、カバンから英語の教科書を取り出した。
「柴咲は大学どこ行くんだ?」
「大学は行かないよ。専門」
「何の専門?」
「美容師」
「へぇ~なんで?」
「頭良くないし、手に職付けたいって思ったから」
「なるほどね」
「剛は?」
「…まだ、迷い中」
「彩世さんと一緒にホストやったら?」
「いや、あの世界は無理」
「今は学生だから行けないけど、来年は行けるんだもんね。彩世さんに接客されたい~」
「行くなら初回だけにしとけよ。俺、ドリンク取ってくるよ。知多は何飲む?」
「野菜ジュース」
「私はアセロラがいい!」
「お前に聞いてねぇよ」
「なんで、貴子には優しくて私には優しくないのよ?」
「普段の行いの違いだろ?」
「うわ~ムカつく。そんなこと言うなら、写真部の件、案内しないよ?」
「分かった。アセロラな」
剛はソファから立ち上がり、ドリンクバーに向かい、野菜ジュースとアセロラジュースとアイスコーヒーをトレイに載せて戻ってきた。知多の前に野菜ジュース、柴咲の前にアセロラジュースを置いた。
「…ありがとう」と知多が言った。
柴咲と剛は、英語の参考書とノートを出して、黙々と勉強を始めた。店員がクラブハウスサンドを机に置いて去っていく。剛と柴咲は1つずつ、クラブハウスサンドを手に取り食べ始めた。
「うまいな。知多も食えよ」
知多は剛に促され、クラブハウスサンドを手に持って口に運ぶ。
「…うん。おいしい」
「話変わるけど、写真部の奴らの写真を抑えるとして、俺のファンクラブの奴がメールを回していたんだよな?そいつの首謀者とか分からないのか?」
「ファンクラブに入っている人は多いだろうし、隠れファンもいるかもしれないから特定するのは難しいと思う。剛が貴子と仲良くしなきゃいいんじゃない」
「他の奴らを気にして、俺らが距離を置くのっておかしくないか?何も悪いことしてないのに…」
「あんたが良くても貴子が傷付くでしょ?」
「…確かに。知多、俺が軽率だった。ごめんな」
「ううん。剛は私を元気づけようとしてくれたって分かってるから悪くないよ」
「そもそも、なんで二人でボーリングに行ったの?」
「知多がずっと勉強ばっかりしてるみたいだったから、息抜きに誘ったんだよ」
「ふーん」
「…あんま不用意に二人きりにならないようにするよ。勇に誤解されても困るし」
「勇は冷たいね。こんな時でも授業でてるなんて」
「それは私が悪いの。勇を悪く言わないで」
「ごめん。貴子が良いならいいよ」
「俺は全然、納得いかないけどな」
「まぁまぁ、後で写真部の人たちと話をしてみようよ」
「そうだな。とりあえず、12時になったら出よう」
3人は会話を止めて、勉強に集中した。12時を過ぎて、サラリーマンのランチ客が増えてきたので、剛たちはお会計を済ませ、お店を出た。高校へと向かって歩き始めた。
「写真部の奴、どこにいるんだ?」
「二年の子だったと思う」
「教室行ったらマズイか」
「う~ん、大丈夫じゃない?」
3人は昇降口に入る。まだ4限目が終わっていなかったので、誰も居なかった。靴を履き替え、2階に向かう。
「何組?」
「A組だったと思う」
ちょうど四限目終了のチャイムが鳴り、それぞれの教室から人が出てきた。柴咲は教室から出てくる人たちを見るが、その中には居ないようだった。3人はA組の教室に向かい、ドアから教室を覗いた。
「あ、あの子」と柴咲が言い、指を指した。
「どれ?」
「窓際にいる眼鏡かけた子…」と柴咲が言い終わらないうちに、剛は教室に入っていく。二年の教室に三年が入ってきたので、教室の中は少しざわついた。
「ちょっといいか?」
「私ですか?」
「うん。写真部の子だよね?」
「そうです」
剛は携帯の画面を開いて、女の子に見せた。
「この写真を撮ったのは、あんたか?」
「…この写真は撮っていないです」
「じゃあ…これは?」と剛は言い、柴咲から見せてもらった写真を机に置いた。
「あ、これは撮りました。写真部はこういう写真も撮りますけど、あくまでも私たちの活動範囲は学校の範囲内なので、学校外では撮影しないです」
「そう。分かった。でも、写真の隠し撮りはやめてくれよな。撮るなら一言、言ってくれる?じゃあな」
剛は教室を出ようとしたが、女の子から呼びかけられる。
「高木先輩!」
剛は振り返って、女の子を見る。
「あの…隠し撮りしていたことは謝ります。本当にごめんなさい。折り入って、お願いがあるのですが、正式に写真のモデルになってくれませんか?」
「他にもモデルになってくれる奴はたくさんいると思うけど?」
「高木先輩の写真が一番売れるんです。写真部は…部費がなくて厳しくて、つい出来心で撮ったものを売ってたんです。売れた分の一部のお金は高木先輩にも入るようにしますから、お願いできませんか?」
「そうだな…50%だったら良いよ」
「50…ですか。ピンクの髪の男の人と一緒なら良いですけど」
「それなら、受けないわ。じゃあな」
剛は教室を出ていき、柴咲と知多のところに戻ってくる。
「写真は撮っていたみたいだけど、このメールの写真は撮ってないらしい」
「え?そうなの?じゃあ、一体誰が…」
「今のところ、誰かは分からないな。とりあえず、気を付けた方が良さそうだな」
「あの…」
3人は振り返った。先ほど、剛が声をかけた女の子だった。
「もう用事は済んだと思うけど」
「先輩たち、さっきのメールにあった写真を撮った人を探しているんですよね?」
「ああ」
「私…それを撮影した人に心当たりがあります」
「マジか⁉誰だ?」
「教える代わりに、さっきの件、引き受けてくれませんか?」
剛はしばらく考えて、答えた。
「一日だけ、放課後の時間で良いなら、引き受けてやる。その代わり、そいつの情報はちゃんと教えてくれるんだろうな?」
「はい。それはちゃんと教えますよ。高木先輩、いつなら空いてますか?」
「そうだな。後で連絡するよ。携帯持ってる?」
「はい」
女の子は携帯を取り出した。剛は赤外線で女の子と連絡先を交換した。
「ありがとうございます。改めて、三崎真琴と言います」
三崎が剛たちに向かって、お辞儀をした。
「既に知ってると思うけど、俺は高木剛。こっちにいる金髪の女が柴咲陽香で、奥に居るのが知多貴子」
柴咲と知多は三崎に軽く礼をした。
「じゃあ、先輩、連絡待ってますね」
三崎は手を挙げて、教室へと戻っていった。
「剛。さっきの件って何?」と柴咲が聞く。
「あ~…写真のモデルになってくれって」
「え?そうなの?」
「これを撮った犯人が分からないと気持ち悪いだろ?早く見つけて、なんとかしないと」
「…剛、大丈夫なの?」知多が不安そうな顔をする。
「大丈夫だって」
「でも、どういう風で撮影するか分からないでしょ?もし…」
剛は知多に言われて、自分の上半身にあるキスマークを思い出した。
「…撮影の条件は交渉してみる」
「何?なんか問題あるの?」と柴咲が剛に聞いた。
「いや、別に」
「もう教室に戻らない?」と知多が言った。
3人は階段を上り教室へと戻った。

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