#27 撮影された秘密~スクープとスキャンダルの中の愛~
翌日、剛は寝坊して一限目終了時間に昇降口で靴を履き替えていた。吉見が走ってやってくる。
「剛~!!」
「なんだよ。朝からうるさいな」
「お前、メール見てないの?」
「メール?」
「はぁ…見てないのか。学校でチェーンメールが回ってて、ほら、これ」
吉見は剛に携帯の画面を見せる。そこには、彩世のマンション前で剛が知多に抱きついている画像と勇が知多とラブホテル前にいる画像が映し出されていた。携帯の文章を見ると、『知多貴子は2人の男を誑かす汚らわしい女』と書かれていた。
「な…なんだよ。これ?知多は知ってるのか?」
「今朝、学校でこのメールを見て、教室から飛び出していったんだよ」
「勇は?」
「…勇は教室にいるよ」
「そうか」
剛は、教室に向かう。剛が教室に入ると、一斉にみんなの視線が向けられた。剛はそれを気に留めず、勇の席の前にやってきた。
「なんか用か?」と勇が言った。
「なんで、ここにいるんだ?」
「授業があるから」
「お前が知多を信じてやらなくてどうする?」
「…時間が経てば、知多も戻ってくるだろ」
「お前っ!」
剛は勇の胸倉を掴んだ。吉見が剛の手を放そうとする。
「何してるの?高木くん」
剛がドアを見ると先生が立っていた。剛は掴んでいた手を放す。
「もう授業始まるから、席につきなさい」
「先生、俺、体調が悪いんで、早退します」
剛は教室を出て行った。
「剛!」
後ろを振り返ると柴咲が居た。
「私も一緒に探す」
「助かる」
「何度も電話やメールしてるんだけど、繋がらなくて…」
「柴咲は浜田山方面を探してくれるか?俺は阿佐ヶ谷の方を探す」
「わかった」
この時間にファミレスやカフェに居るとは考えづらかった。剛は公園の方に向かう。善福寺川沿いに緑地が広がっており、広場は遊具で遊ぶ子供たちとお母さんたちが居た。ベンチを見ると、お年寄りが据わっているのが見える。知多の姿は見えなかった。剛は川沿いを右に進んだ。すぐにまた広場が見えたが、知多の姿はなかった。剛は橋を渡り、公園のベンチを探した。百メートルくらい走りながら、ベンチや広場を見回す。善福寺川は右に大きくカーブをしており、剛は道なりに進む。成田下橋を通り、杉並児童交通公園に入る。蒸気機関車の模型を横切り、ベンチを探す。後ろから髪の長い女の子が座っているのが見えた。剛はベンチに駆け寄った。
「知多っ!」
知多は立ち上がろうとする。剛は咄嗟に腕を掴んだ。剛が知多の顔を見ると、目が赤く腫れていた。剛は知多を抱きしめた。
「良かった」
「剛…また写真、撮られちゃうよ」
「別に良いよ。他の奴がどう思っても構わない。知多も気にするなよ」
知多が剛の背中に手を回した。
「ごめん。一生懸命、探してくれたんだよね」
「ああ。あ!そうだ。柴咲に連絡しないと」
剛は柴咲に電話を掛けた。
「柴咲?」
「剛?こっちは見つからない。どう?」
「見つけた。交通公園にいる」
「良かった~。私もすぐに行くね」
剛は電話を切って、知多に声をかけた。
「柴咲もこっちに向かっている」
「迷惑かけて、ごめん」
「俺は良いから、柴咲に謝っとけよ」
剛は手足洗い場を見つけると、持っていたハンドタオルを水で濡らして、知多に渡した。
「目、冷やしとけよ」
「ありがとう」
知多はハンドタオルで目を覆った。剛は、知多の隣に座った。
「…こうやって、あんまり優しくしないで欲しい」
「え?」
「頼ってしまいたくなる」
「お前はもっと、人を頼っていいと思うよ」
「ダメなの。そうしたら、どんどん弱くなっていっちゃう」
「人間、良いときと悪いときがあるだろ。自分の調子が良い時は誰かを助けてあげればいいし、自分がダメな時は誰かに助けてもらって、這い上がればいいと思う」
「剛も余裕ないでしょ」
「お前…結構、直球で言うな。少なくとも、お前よりはまだ余裕あると思うけど」
知多はハンドタオルを外して剛を見た。
「昨日、お前と一緒に居て元気になった。ありがとな」
剛は親指を立てて、グッドサインをしてみせる。知多はそれを見て微笑んだ。
「貴子~!」
柴咲が走ってやってきて、知多に抱きついた。
「柴咲、来てくれてありがとう」
「良かった。そもそも、あのメールは剛のせいなんだからね」と柴咲は剛の方を見て睨んだ。
「え?どういうことだ?」
「あんたは知らないかもしれないけど、あんたのファンクラブがあるのよ」
「へぇ…初耳。俺、そんな目立つようなこともしてないし、部活もしてないのに?」
「去年の秋に体育祭があったでしょ?あんた、リレーで陸上部の人抜かして一位をとって…一気に株が上がったのよ」
「その割にバレンタインとか、なんもなかったけどな」
「その時にあんた、学校来てなかったでしょ?」
そういえば、あの時は新宿の歌舞伎町に居たなと剛は思い出す。
「でも、その後も特に女子から騒がれている感じはなかったけど」
「…それは……あんたが女子に興味がないと思われてるからよ。ほら、これ」
柴咲は写真を数枚出して、剛と知多に見せた。そこには学生服姿の剛と私服姿の彩世が写っていた。
「え?これってどういうこと?」
「裏で写真が取引されてるの。剛単品は300円、剛と彩世さんが写っているのは500円」
「誰かが俺の写真を隠し撮りしてるってこと?」
「まぁ、こういうことをするのは写真部かなと思うけど」
「柴咲は何で、これを持ってるんだ?」
「あ、今度、彩世さんにあげようと思って…」
「そう。俺に断りなくね」
「…私も剛のファンクラブの話は聞いたことある。確か、たれぱんだの会って」
「そうそう、剛がたれ目だからね~」
「なんか、全然嬉しくないな。それよりも…昨日の写真も撮られている可能性が高そうだな」
「何?昨日も一緒に居たの?」
「昨日、二人でボーリング行って、ご飯食べて帰ったんだけど」
「それはマズイかも…」
「柴咲、写真撮っている奴の目星はついてるんだろ?教えろよ。直接、話に行くから」
「そうだね。お昼休みに会いに行ってみようか」
「分かった。とりあえず、学校に戻って図書室にでも行くか」
「え~、もう三限目始まったから、どっかでご飯食べようよ」と柴咲が懇願する。
「……じゃあ、ジョナ行く?」
「行く行く~、剛の驕りでね」
「おい!今日は割り勘な」
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