#36 深まる謎、スティンガーの正体
剛は知多のマンションに着くと、知多がドアを開けて、剛を迎えてくれた。
「どうしたの?早いね」
「ああ。走ってきた」
「何かあったの?」
「…わからない。これから何か起こるかもしれない」
剛は知多を見つめた。知多は不安そうな目で剛を見つめ返す。
「悪い。不安にさせるつもりはなかった」
「とりあえず、上がって」
知多は剛をリビングに招き入れた。剛は壁際にカバンを置くと、椅子に座った。知多は麦茶の入ったグラスを二つ持ってきて、一つを剛の前に置いた。剛は麦茶を一口飲むと話し始めた。
「今日、写真部の撮影に行ってきた。それでこないだの写真を撮った奴を聞いてきた」
知多は剛を見つめた。
「知多と勇が写っている写真を撮ったのは小澤だった」
「小澤さん?」
「E組の、制服を変わった感じで着ている女いるだろ」
「えーと、レースみたいなのを着ている人?」
「そう、そいつ」
「そうなんだ。全然、面識がないけど」
「…小澤はお金が欲しくて、知多を一週間追跡していたらしい」
「それは別の人が小澤さんにお願いしていたってこと?」
「そうみたいだ。おそらく、依頼者はうちの学校にいる奴のようだ。それと…お前と俺の写真を撮った奴は別にいるらしい」
「どういうこと?」
「わからない。もしかしたら、石霧が生きているのかもしれない」
「そんなこと…」
知多は言葉を失う。
「ないとは言い切れないだろ。内田が蘇ったように」
「内田に聞いてみる?」
「何を?」
「人が生き返る方法」
知多は、黙ったまま、剛を見つめる。
「…聞くしかないか」
剛は携帯で、内田に電話をかけた。
「はい。渡橋です」
「内田か?」
「剛様!嬉しい!剛様から電話をかけてくれるなんて…!」
剛は電話口から聞こえるけたたましい声に思わず、電話を耳から遠ざけた。
「相変わらず、うるさい奴だな。知多もいるからスピーカーにしていいか?」
「いいですよぅ」
「今、どこにいるんだ?」
「さっき仕事から上がって、家に着いたところです」
「仕事って何してんの?」
「霊媒師です」
「そうか、ちょうど良かった。頼みたいことがあるんだ」
「剛様の頼みならなんでも聞きますよ~」
「じゃあ、今度の週末に東京に来てくれ」
「お安い御用ですよ。なんなら、明日にでも行きましょうか?」
「え?いいのか?」
「はい。むしろ、土日の方が仕事入っているんで、平日の方が良いです」
「じゃあ、明日の夕方に俺の家に来てくれ」
「了解しました。わ~楽しみ♪じゃあ、東京に着いたら連絡しますね」
「ああ。じゃあ、また明日な」
「はい。楽しみにしてます」
内田との電話が切れた。
「知多…悪い。全然、話せなかったな」と剛は申し訳無さそうに言った。
「明日来るなら、その時にゆっくり話せるから大丈夫だよ。それより内田に何を頼むつもりなの?」
「写真を撮らせてメールをばらまいた奴を探してもらう」
「そんなことできるのかな?」
「わかんないけど、俺らだけじゃ、これ以上探しきれないだろ」
「探さないっていう選択もあると思うけど…」
「お前は知りたくないのか?」
知多は剛の手を掴んだ。剛は知多の手が震えていることに気付いた。
「悪い…怖がらせてしまったよな。今日、兄さんは帰ってくるのか?」
「今日は…夜勤だと思う」
剛は目を閉じて、しばらく考え込んだ。そもそも、知多に伝えても不安を煽るだけだったのではないかと、話したことを後悔した。知らない方が良いこともあるのに、なんでもっと、深く考えなかったんだろう。
「剛…どうしたの?」と知多が言った。
「いや、なんでもない。お前が嫌じゃなかったら、今日、ここに泊まろうかと思って」
「え?」
知多は、きょとんとした顔で剛を見つめた。
「いや、別に他意はないよ。俺がお前を怖がらせてしまったから、夜一人で居るのが怖いんじゃないかと思って」
「怖くはないよ。大丈夫」
「そうか。分かった。じゃあ俺は帰るな。また明日」
剛は椅子から立ち上がり、近くに置いた鞄を拾い上げて玄関に向かった。ドアを開けようとした時に、引っ張られる感覚を感じ、振り向いた。知多が鞄に手をかけている姿が見えた。知多に目線を向けると、顔を背けている。剛は、体の向きを変えて靴を脱いだ。
「今日の宿題で、分からないところがあったから、教えてよ」
剛はリビングに戻っていき、知多は、その後に続いた。