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わりとね
実家は駅から離れた場所に家がある。タクシーに乗った。
随分と変わってしまった故郷に少し寂しさを感じる。
「あの公園なくなっちゃうんですね」
「ええ。マンションが建つとか聞きましたよ。今やベッドタウンですからね。」
よく遊んだ公園がなくなる。
「そうなんですか」
初めて逆上がりができた場所。サッカーを猛練習した場所。あの子と初めてキスをした場所。
僕の思い出と淡い青春はコンクリートに姿を変えはじめている。
「早いですね。移り変わりが。」
「早いですね。よく遊びました。」
「いいですねぇ、私も思い出話をするとその時誰といたかとか思い出しちゃって余計に懐かしく思えちゃうんですよねぇ」
「あー、わかります。誰といたかって案外覚えてるもんですね」
思い出しくないことまで思い出してしまう。
だから、家を出て一人暮らしを選んだ。
夢ばかりの人生でもどん底ばかりの人生でもない。ただずっと水準以下の生活をずっとしているだけだった。
思い出はいいものなのか悪いものなのかこの歳になってもまだわからない。
大人になるというのは過去をうまく忘れて前に進むということ、それに見切りをつける。それが大人というものだと思っていた。
「運転手さんは結婚とかされてますか?」
突拍子な質問に自分でも驚いてしまった。
「やっぱ忘れてください」何を聞いているんだと思った。
「いいえ、結婚してますよ。今年で30年になりますかね。」
と優しい声と少しはにかむような表情をしていただろうか。
「長くいる秘訣は何ですか」と聞いた。車窓からは高校生の頃よく寄り道をしたコンビニは住宅に変貌してしまった。
うーん、と少し考えて言葉を選ぶように
「ずっと一緒にいると、なんて言うかいるのが当たり前でそれが揺るがないものみたいな感じするじゃないですか。でもさっきの公園とは違いますけどいつかは消えてしまうじゃないですか。そういうことを考えると大抵のことはどうでもよくなってしまう気がするんです。」
上から目線ですみません、と謝る。
とんでもないです、と言い
「なるほど。いつかは消えちゃいますか…」
高校生の時はこの坂がとても急な坂だと思っていたが、タクシーは悠々と登っていく。
厚木街道を少し外れた道でタクシーを降りた。