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【毎週ショートショートnote】『 だんだん高くなるドライブ』

「ありがとう」
 運転中の翔斗に缶コーヒーを渡すと、表情が和らいだ。
「あれ? 爪、大丈夫だった?」
 最近ネイルを新しくした。すでにフタが開いたコーヒーを見て、心配してくれたようだ。そんな気遣いが本当に優しい。
「もうすぐ山頂だよ」そう言ってコーヒーを口へ運ぶ翔斗。その横顔をじっと見つめた。こんな時間が一生続けばいい。そう思う。2人とも夜の山が好きで自然とドライブデートが多くなった。山で見る星空は綺麗で、都会では味わえないほどの美しさだった。

 山頂を越え、車は山を下り始める。
 さぁ、そろそろだ。
 さっき缶コーヒーを開けたとき、こっそり入れた睡眠薬が効いてくる頃だ。前々回も前回も失敗した。薬が効く前に山を降りきってしまったのだ。だから今回はもっと高い山に行こうと言った。

 翔斗を見る。今にも意識が途絶えそうだ。そう思った瞬間、車体が向き変えた。目の前に崖が迫る。
 あぁこれで、こんな時間が"一生”続くんだ。
 そう思えた。(410字)

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たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。
*今回は割とストレートに『だんだん高くドライブ』してみました。
 そして今回はちょっとした趣向をこらしています。本題も裏お題も、それぞれ単体で1つの作品ですが、合わせて読んでいただけると幸いです。(それにしても、こんなこと410字でやることではないなとつくづく感じました。)



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