【毎週ショートショートnote 裏お題】『 メガネ冠婚葬祭』

　普段から眼鏡をかけている人の眼鏡には、魂が宿ると言う。曰く、本人の代わりに景色を見つめているからだと。
　
　薄暗い部屋の中、男は老女の話を聞いていた。
「一度儀式が始まると、もう後戻りはできない。それでもいいんだな？」
「はい」
「死者を生き返らすと言うことは、この世の摂理を崩すこと。当然それなりの代償を覚悟せねばならん。災いは、お主に降りかかるんだぞ」
「承知の上です」
「それなりの覚悟があるようだな…では始めよう」
　
　死者に再会できる。そんな噂を聞いて訪れたのがこの場所だった。死者の魂が宿っている物があれば、死者と再び会えるというのだ。

「まずはその眼鏡をかけなさい。そして想像する。眼鏡と眼鏡の持ち主が、婚礼の場、葬儀の場、祭りの場にいるところを……。日本古来の儀礼には魂を呼び戻す力がある…」

　話を聞きながら男は自然と目を閉じていた。
　そのまま数分の時が流れる。
「さぁ目を開けなさい」
　目を開ける。
　その先に待つモノを、男はまだ知らない。（422字）

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たらはかに（田原にか）様の企画の裏お題に参加させていただきました。
＊本来は、表お題で思いついたネタだったのですが、表お題は別の案を思いついたので裏お題に行ってもらいました。