
【毎週ショートショートnote】『会員制の粉雪』
「あっ雪だ…」
真冬の夜。澄んだ空から降る雪は一段と綺麗に見える。
それを眺める凛の横顔は、瞬く星よりも舞い落ちる雪よりも綺麗だった。
2回目のデート。イルミネーションが見たいと言った彼女のためにここを訪れた。
雪と光の共演を見て目を輝かせる凛。
今、この瞬間に雪が降ってきたのは、偶然ではない。
世はまさにサブスクの時代である。
月額費を払い会員になることで、様々なものが好きなタイミングで利用できるようになった。会員制の虹、会員制の流れ星、値は張るが会員制のオーロラだってある。
翔斗は会員制の粉雪『パスノー』を利用することで、最良のタイミングで雪を降らせたのだ。
感動を隠せないでいる凛。
今しかない。
翔斗はそっと腕を上げると、凛の肩に手を置き、そのまま軽く引き寄せた。凛の顔を下からのぞき込み、唇を近づけた。
その瞬間、顔が押しのけられる。
戸惑う翔斗に、凛は言った。
「ダメよ、翔斗…。だってキスはまだ会員になってないでしょ?」(420字)
たらはかに(田原にか)様の企画に参加させていただきました。
*『パスノー』には『パウダースノー』と『パス』の意味が込められています。
**毎週ショートショートnoteでは久しぶりとなってしまいました。珍しくすんなりオチまで思いついて、方向性を変えずに書ききりました。