立法学のわからないーその1 官報の発行に関する法律について(途中だけど) 2024年10月15日更新(法律の施行期日が決まり、官報の発行に関する内閣府令が公布されたことを受けて、手直しをしました。)
官報の発行に関する法律(令和5年法律第85号。以下「官報発行法」という。)及び官報の発行に関する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第86号。以下「官報発行法整備法」という。)が公布され、官報の発行に関する法律の施行期日を定める政令(令和6年9月27日政令第309号)により令和7年4月1日から施行されることになっている。また、官報の発行に関する内閣府令 (令和6年9月17日内閣府令第80号。「以下「内閣府令」という。)も制定されている(施行は、官報発行法の施行の日)。立法学の書籍を準備中であり、当然、そのことにも触れなければならない。ただ、読んでいくとわからないことが出て来た。国会の会議録を見たけれども、そこでは議論となっていないようである。
ジュリスト1598号(2024年6月)の第2特集は、「官報電子化法・法制事務のデジタル化」であり、内閣府大臣官房総務課課長補佐の田中裕太郎氏の「官報の発行に関する法律の解説」(同誌56〜61頁。以下「田中・解説」という。)と原田大樹教授の「官報電子化法の理論的意義」(同誌62〜68頁。以下「原田・意義」という。)が掲載されている。しかし、これらは、以下の疑問に答えることになっていない。以下の疑問は、論じる価値はないのだろうか。とはいえ、私の無知のせいだとしても、こうした疑問を述べることはやはり必要だと私は思うので、ここでなお掲載を続けることにしたい。
まだ、残された疑問があるが、まとまったところまでで公開することにした。今後も、書き足していくこととしたい。
1 第1条の見出し
官報発行法「第一章 総則」は、第1条のみの章であり、第1条には見出しが付されていない。また、「第二章 官報の発行主体」も第2条のみの章で、第2条には見出しが付されていない。その部分は、次のようになっている。
確かに、「章・節等が一条から成る場合には見出しを省略することができる」(法制執務研究会編『新訂 ワークブック法制執務 第2版』(ぎょうせい、2018。以下「ワークブック」という。)186頁)のである。ワークブックは、この場合に、なぜ見出しを省略できるのか、見出しを省略するのはどういう場合かについて説明をしていない。この場合には、章名・節名等と条の見出しが同じとなる場合には、重複を避けるため省略するのだと考えられる。逆に言えば、1条から成る章・節等であっても、章名・節名等と見出しが異なる場合には、見出しを省略しないのである。
実際、1条からなる章であっても、章名と異なる見出しがその条に付されている例がある。例えば内閣府設置法(平成11年法律第89号)の第1章は、次のようになっている。
この場合、第1条の見出しは「目的」であり、第1章の章名の「総則」と異なるし、章名の「総則」では第1条の内容を適切に示しているとはいえないので、そのため第1条に「目的」と見出しを付したと考えられる。
ひるがえって、官報発行法を見ると、官報発行法の第1条は、趣旨規定であり、第1条の内容を理解しやすくするためには「(趣旨)」という見出しが付された方がいいように思う。なぜ、上記のように見出しを省略したのか、わからない。
これに対し、第2条についてみると、第2章の章名と見出しは同じものになることから、見出しを省略したものと考えられる。
第1条と第2条を対比してみると、第1条に見出しがないことについての疑問がさらに湧いてくるように思う。
2 官報発行法第3条第1項(法令等の公布についての規定)がわからない
官報発行法第3条第1項は、次のようになっている。
同項は、法令の公布の方法を定めている規定である。この点がよくわからない。法令の公布については、日本国憲法の制定に伴い、それまで法令の公布について定めていた公式令(明治40年勅令第6号)が廃止されたが、それに代わるものが制定されないままとなっていた。公式令廃止後の政府の対応としては、法制局の意見に基づき、公式令廃止後の公文の方式等に関する件(昭和22年5月1日 次官会議了解)により「法令その他公文の公布は、従前のとおり官報をもつてする。」こととされていたのである。そして、この点について、最大判昭和32年12月28日(刑集11巻14号3461頁)は、法令の官報による公布を正規のものと判断している。この意味で法令の公布を官報により行うとする法律を定める必要はあるといえる。しかし、これは、法令の公布などを含む公文の方式に関して制定される法律で定めるべきことで、官報発行法で定めることではないように思う。少なくとも、「官報の発行に関する法律」という題名の法律で、その趣旨規定が先述のとおりであることからすると、この規定はこの法律の内容にはそぐわないように思う。田中・解説は、「我が国のデジタル化の象徴として官報の電子化を実現した本法〔引用者注、=官報発行法〕は、従前作用法の規定がなかった官報の発行に関する事項について定めるとともに、法令上明文の規定がなかった公布の手段(官報による法令の公布)について成文法としてその根拠を明確に規定したものである。」(56頁)としている。また、官報発行法の題名と総則について「本法は、官報の発行に関する作用法として、官報の発行主体、官報に掲載すべき事項、電子的な発行方法等について定めるものであり、「官報の発行に関する法律」と称する。」(59頁)ともしている。田中・解説は、官報による法令の公布ということと官報の発行とは別の事柄だとしているのは明らかである。では、なぜ、このような形で官報発行法に法令の公布の根拠の規定を置いたのか疑問があるし、その点について説明がないのも疑問である。
確かに、官報の発行に関することと法令の公布を官報により行うことを一つの法律に規定することができないとはいえない。しかし、そうするのであれば、同法の現在の題名と趣旨規定は適切ではないように思う。この点について言えば、田中・解説にもあるように、官報の電子化のために必要な立法だということであり、原田・意義もその表題に「官報電子化法」とあるように、官報を電子化するための立法であることを題名及び趣旨規定で明らかにするべきだったのではないだろうか。とはいえ、この場合には、趣旨規定よりも目的規定とするべきだったようにも思われるが。いずれにせよ、官報の電子化のために必要な事項を定めるとするなら、第3条第1項を規定することは理解できなくもない。しかし、これは、やはり公文の方式についての規範としてのものであるという問題はあると思う。この点は、公文の方式について定めるのであれば、公布書の書式など他にも定めるべき事柄があるが、官報発行法ではそれらについて定めてはいないという問題となって現れている。これは、官報発行法という枠組みからすれば当然のことであるかもしれないが、法令の公布を官報をもって行うことを規定しておきながら、これらの点について規定しないというのは、法のあり方という点で結果として中途半端なものになっているようにも思う。将来、公文の方式について規定する法律が制定されることになった場合、この条文はどうなるのかということも問題となる。この点について、どう考えているのか説明してほしいと思う。
別の問題もある。裁判所規則について、裁判所公文方式規則(昭和22年最高裁判所規則第1号)第2条により、「最高裁判所規則の公布は、官報を以てこれをする。」と定めている(下級裁判所規則については、同規則第4条第1項で準用している。)。また、国家公務員法(昭和22年法律第120号)第16条第2項は、「人事院規則及びその改廃は、官報をもつて、これを公布する。」と定めているし、会計検査院規則についても、会計検査院規則の公布に関する規則第2条により、「官報で公布する」こととしている。問題は、これらの規定と官報発行法第3条第1項は、どのような関係に立つのかである。官報発行法整備法には、国家公務員法の改正はないので、国家公務員法第16条第2項と官報発行法第3条第1項は、併存することと考えているのであろう。この場合、規定の抵触ではなく、同一の内容の規定の併存ということなので、併存しても問題は生じないということかもしれないが、どちらの規定が優先されるのかという解釈問題が生じる以上、このような場合でも規定を整理するのが通例ではないかと思う。なぜ、そうしていないのか。また、人事院規則についてどちらの規定が適用されるのかという点について、国家公務員法と官報発行法とは、前法の特別法と後法の一般法の関係になるので、特別法優先の原則が優先され、国家公務員法の規定が優先されることになると考えられるが、これでいいのであろうか。一方、裁判所規則と会計検査院規則についても、同様に、併存するものと考えているものと思われる。しかし、裁判所規則については、裁判所規則と法律との効力関係も絡んで、併存するとしてその効力関係をどう考えるのかという疑問がある。また、このように法律が定められた以上、会計検査院規則の公布に関する規則第2条の規定を維持できるのかという点も疑問である。いずれにしても、この点についてどう考えるのか説明してほしいと思う。
以上のほか、この条文で公布の対象となるものについての規定ぶりにも、よくわからないところがある。日本国憲法を改正する国法形式が「日本国憲法改正」でいいのか、命令は「法律に基づく」ものに限られているが、それでよいのか、ここでの規則はどこまでのものを指すのか、外局の規則は法律に基づく命令ではないのか等の疑問がある。この点については、官報発行法の制定の基本的な方針については、官報電子化検討委員会の「官報電子化の基本的考え方」(令和5(2023)年10月25日。以下「基本的考え方」という。)が出され、そこでは、現在の官報で公布の対象となっている法令その他の公文について次のように述べている。
その上で、基本的考え方では、「第3章 官報電子化に伴う官報掲載事項の考え方」(基本的考え方23頁以下)で官報掲載事項としての「法令」について述べていくが、そこでは「法令」の範囲については、全く論じていない。これは、現行の官報で「公布の対象となる法令」と範囲が同じであるからだと思う。しかし、それならば、上記の基本的考え方13頁で書かれているように規定すればよいのではないかと思う。しかし、先に引用した官報電子化法第3条第1項は、そうなっていない。以下では、この点について、疑問に思ったところを述べていく。
3 「日本国憲法改正」?
3−1 日本国憲法を改正する国法形式についての問題の所在
官報発行法第3条第1項では、「日本国憲法改正」とされているが、これは日本国憲法を改正する国法形式を示しているのだろうと思う。しかし、日本国憲法第7条第1号が「一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。」とあるように、憲法上憲法を改正する国法形式は「憲法改正」とされているのではないかと思う。先に引用した基本的考え方13頁もそうしている。にもかかわらず、なぜ、官報電子化法ではこのように変えたのか。その理由がわからない。さらに詳しく見ていくこととしたい。
3−2 日本国憲法を改正する国法形式についての通説
小林公夫『主要国の憲法改正手続 基本情報シリーズ18』(国立国会図書館、2014。以下「小林2014』という。)は、日本国憲法を改正する国法形式についても論じている。小林は、憲法改正原案の形式による憲法改正の提言があるが、「これらの題名はいずれも単に「日本国憲法改正原案」とされていることからすれば、国民投票に付される際には「日本国憲法改正案」 と、公布される際には「日本国憲法改正」と題されることも予想される。」(小林2014・7頁)としている。このように、「日本国憲法改正」というと、日本国憲法を改正する法として制定されるものの題名であって、法形式を指すものではないということであろうと思う。そのうえで、小林は、この注(37)で次のように述べる。
なお、上記引用中「樋口ほか 前掲注(16)」は「樋口陽一ほか『憲法 4』(注解法律学全集 4)青林書院, 2004」を、「宮澤 前掲注(13)」は「宮澤俊義(芦部信喜補訂)『全訂日本国憲法』日 本評論社, 1978」を、 「清宮 前掲注(13)」は「清宮四郎『憲法 1(第 3 版)』(法律学 全集 3)有斐閣, 1979」を、「伊藤 前掲注(13)」は「伊藤 正己『憲法(第 3 版)』(法律学講座双書)弘文堂, 1995」を、「佐藤功 前掲注(20)」は「佐藤功『日本国憲法概説 (全訂第 5 版)』学陽書房, 1996」を、それぞれ指している。
ここに見られるように、「日本国憲法を改正する国法形式」は「憲法改正」であるとするのが、憲法学界では通説とされている。憲法の文言上もそう考えるのが自然であろう。逆に、先述したように「日本国憲法改正」は、日本国憲法を改正する法形式である「憲法改正」に付される題名となるとはいえても、法形式を指すことにはならないと思う。この点、官報発行法では、どのように考えて、このような形にしたのだろうか。この点がわからないことの第1点目である。
3−3 官報及び法令全書に関する内閣府令での扱い
この点に関連して、基本的考え方13頁でも「憲法改正」としているのは、官報及び法令全書に関する内閣府令(昭和24年総理府・大蔵省令第1号)は、次のようになっており、日本国憲法を改正する国法形式は「憲法改正」であることを示しているからである。
この場合、官報発行法で、この官報及び法令全書に関する内閣府令の規定ぶりと異なる規定ぶりにした理由もよくわからないのある。
3−4 日本国憲法の改正手続に関する法律での扱い
一方で、小林は、「憲法改正手続法〔引用者注=日本国憲法の改正手続に関する法律〕第 14 条第 1 項第 1 号及び憲法改正手続法による改正後の国会法第 68 条の 2 では、「憲法改正案」とは「日本国憲法の改正案」を、「憲法改正原案」とは「憲法改正案[= 日本国憲法の改正案]の原案」 をいうものとされており、必ずしも国法形式に着目した規定ぶりとはなっていない。」とする。また、この前提として、日本国憲法の改正手続に関する法律(平成19年法律第51号)第1条に、「日本国憲法第九十六条に定める日本国憲法の改正(以下「憲法改正」という。)」とあり、同法では「憲法改正」という用語で法形式としての「憲法改正」を意味しておらず、事柄としての「日本国憲法の改正」ということを意味していることがある。したがって、日本国憲法の改正手続に関する法律第126条は、次のようになっているが、ここでも公布の手続を執る対象は同法で定義された「憲法改正」=「日本国憲法の改正」であって、法形式としての「憲法改正」ではないことになる。
このように、日本国憲法の改正手続に関する法律で、なぜ憲法改正という法形式を無視しているのか、その理由はわからない。また、同法の規定があるからといって、官報発行法で「日本国憲法改正」を公布するとした理由もわからない。
3−5 政府の扱い
3−2で引用した小林の文章からすると、金森徳次郎国務大臣の答弁からは、日本国憲法を改正する国法形式は「憲法」としているようにも思われる。また、小林のいう「今日においても我が国の国法形式・体系を説明する際に「憲法改正」を明記しない文献」として、内閣法制局関係者による文献にもあるということもある。大森政輔ほか共編『法令用語辞典【第11次改訂版】』(学陽書房、2023。以下「『法令用語辞典』」という。)では、「憲法改正」の項目自体がなく、国法形式についての説明もない。「法令」という項目があるが、その説明では、日本国憲法を改正する国法形式については触れていない。法令用語研究会編『有斐閣 法律用語辞典 第5版』(有斐閣、2020)には、「憲法改正」の項目があるが、そこでは憲法を改正することについての説明があるだけで、国法形式としての「憲法改正」については記述がない。法制執務研究会編『新訂ワークブック法制執務 第2版』(ぎょうせい、2018。以下「ワークブック」という。)では、問1として法令の形式について、法令は成文の国内法であるとした上で、「我が国の法制の下における法形式の頂点に憲法があ」り、「日本国憲法は、我が国の法形式として、法律(第五九条第一項)、議院規則(第五八条第二項)、政令(第七三条第六号)、最高裁判所規則(第七七条第一項)及び条例(第九四条)を定めている。」とする(同書1頁)。同書では、憲法が「憲法改正」という法形式を定めているとはしていない。この場合、明示していないということなので、内閣法制局がどう考えているかは明確ではないが、場合によっては、先の金森大臣の答弁から考えられるように、日本国憲法を改正する法形式は「憲法」であるとするのかもしれない。しかし、そうだとすると官報発行法第3条第1項では「日本国憲法改正」ではなく「憲法」とすべきであることになるが、そこでは、「日本国憲法改正」としている以上、憲法を改正する法形式は「憲法」ではないと考えているのであろう。一方で、高辻正巳元内閣法制局長官の『立法における常識<全訂新版>』(学陽書房、1958。奥付によれば、刊行当時、高辻は内閣法制局次長である。)では、「一般に、国の最高法規たる制定法の法形式を憲法というが、我が国におけるこの法形式による制定法は、すなわち日本国憲法である。国法の諸形式は、すべて、この日本国憲法にもとづいて定められる。そして、日本国憲法の改正のための法形式が、すなわち憲法改正といわれるものである。したがつて、憲法に関して立法の観点から法形式を論ずる場合は、形式的効力に関するものを除いては、憲法改正だけを問題にすればよいわけである。」(12〜13頁)としている。この場合、憲法を改正するのは「憲法改正」であることは明確である。しかし、官報発行法第3条第1項では、そう考えていないようである。
このように、内閣法制局がこの点についてどう考えているのかは明確ではない。官報発行法第3条第1項を規定するにあたって、この点は明確にしておく必要があるように思う。いずれにせよ、この点がわからないので、説明してほしいと思う。
その上で、官報発行法第3条第1項で、なぜ「日本国憲法改正」と規定したのか説明してほしいと思う。この場合、内閣法制局を含む政府は、日本国憲法を改正する法形式は「憲法改正」ではないと考えているのかもしれない。では、官報及び法令全書に関する内閣府令では、どうして先に引用したようになっているのか、高辻元内閣法制局長官とは見解を異にするのかという疑問がある。また、日本国憲法を改正する法形式は「憲法改正」ではないとする立場に立ったとしても、日本国憲法を改正する法形式が「日本国憲法改正」であるとするのはなぜかということも問題である。どこにその根拠があるのだろうか。わからない。それでも、もう少し探ってみよう。
3−6 公文方式法案、公文方式令案での扱いとの関係
このように官報の発行に関する法律で「日本国憲法改正」を公布するとしたことには、公文方式法案、公文方式令案との関係もあるかもしれない。これらは、戦後、公式令の廃止に伴い、それに代わるものとして立案されたが、GHQとの協議が不調に終わり結局は制定されなかったものである。この二つの法令案については、国立公文書館のデジタルアーカイブ中に内閣法制局からの移管文書として読むことができる。また、佐藤達夫「公文方式法案の中絶」レファレンス72号2頁以下(1957。以下「佐藤1957」という。)でも論じられており、同論文では「公式法案要綱」(同3頁)と「公文方式令」の案(同3〜5頁)が出ている。
このうち、公文方式法案の第1条は次のようになっている。なお、公文方式令案の第1条も同じである。
公文方式法案も公文方式令も、その第1条では、官報発行法第1条のように日本国憲法という題名を用いているが、その上で日本国憲法「の改正」としており、憲法の改正という事柄を示しているといえる。つまり、法形式を捉えていない。では、なぜ、公文方式法案、公文方式令では、このように法形式を用いず、事柄として「日本國憲法の改正」としたのだろうか。
この「公文方式法案」の文書には、この法案とともに、参照法令として公式令が載っている。したがって、この法案は、公式令を参照して作成されたものと推測される。公式令では、大日本帝国憲法の改正について、次のように規定している。
公式令の前提として、大日本帝国憲法第73条がある。
この大日本帝国憲法第73条では、大日本帝国憲法を改正する法形式については、規定していない。そのため、公式令では「帝國憲法ノ改正」というように、事柄として規定することになったのであろうと思われる。この点は、大日本帝国憲法の改正として制定された日本国憲法に付された上諭でも確認できる。日本国憲法に付された上諭は次のようになっている。
この上諭でも、「帝國憲法の改正を裁可し、ここにこれを公布せしめる』とあるように、公布するものは「帝国憲法の改正」であるとしている。このように、事柄としての憲法の改正としているということであろう。しかし、この場合「大日本帝国憲法の改正」とするか「憲法の改正」とするかならわかるが、公式令で「帝国憲法」の改正とし、この上諭でもそうしているのだが、「帝国」憲法としている理由はわからない。大日本帝国憲法では、単に「帝国憲法」とする用語の用例はないのである。
その上で、このように公式令を参照して立案されたため、公文方式法案、公文方式令案では「日本国憲法の改正」という事柄で規定することになったのではないかと思われる。しかし、この点については、私の推測でしかない。
ひるがえって、官報発行法について考えてみると、公文方式法案、公文方式令案を参考にして、「日本国憲法改正」というのは事柄としての「日本国憲法改正」の意味だとしているということが考えられる。しかし、それならば「日本国憲法の改正」とすべきだったのではないかと思う。それでも、日本国憲法上では「憲法改正」という法形式を規定しているとすると、それを使えばよく、なぜ事柄としての「日本国憲法改正」というのかはやはりわからないのである。やはり、「憲法改正」という法形式はないと考えているからかもしれない。しかし、そう考える理由は、わからない。
4 「法律に基づく命令」?
4−1 「法律に基づく」という限定
官報発行法第3条第1項では、「法律に基づく命令」の公布が規定されている。この「命令」は法形式としてのものを指していると考えられるが、法形式としての命令とは何かについて、『法令用語辞典』は次のように説明している。
『法令用語辞典』は、「法令」の項で「命令は、国法の法形式のうち、行政機関によって制定される法形式をいう」ともしている(『法令用語辞典』712〜713頁)。ここでの「命令」は、この国の行政機関によって制定される法形式であるとひとまず考えられる。この場合、この「命令」の文言の後にある括弧書との関係で規則をどう考えるかが問題となるが、その点については、後述する。
その上で、問題は、「法律に基づく命令」としていることをどう考えるかである。これでは、法律に基づかない命令は官報によって公布されないことになるのではないかという問題である。基本的考え方においても、特に限定なく「命令」は公布の対象となるものとしていたのではないかと思う。特に、政令は憲法で公布が規定されており、法律に基づくかどうかに関わりなく、公布すべきことになっていると思う。この点は従来からそうであったと思う。また、府省令などについても、従来は法律に基づくかどうかに関わりなく、官報によって公布されていたし、これからもそうであるべきだと思う。そのことは、官報及び法令全書に関する内閣府令で、政令などの命令について「法律に基づく」という要件をかけていないことからも理解できるだろう。もっとも、この内閣府令の場合は、掲載する事項を示しただけで、公布するべきものかどうかを区分する意味がないということかもしれない。また、上記の『法令用語辞典』でも、「国の行政機関によって制定される法形式を総称して一般に「命令」という.」としているので、法律に基づくかどうかと関係なく「命令」であることになろうが、この場合公布されるべきは「命令」全般であると思う。では、なぜ、どのような意図で「法律に基づく」という限定をしたのであろうか。
一つの考え方は、政令、府省令など従来から官報によって公布されていた命令は、すべて「法律に基づく」ものであるという考え方である。しかし、どういう理屈でそうなるのかは、わからない。そもそも、命令であればすべて「法律に基づく」ものであるというのならば、「法律に基づく」という限定をする必要はないはずである。原田・意義は、「周知擬制機能・正本機能が及ぶ範囲については、法律と同様の一般的・抽象的な法規律としての性格を持つ条約・府令・政省令等には当然認められる(官報電子化法〔引用者注=官報発行法〕3条1項・2項柱書)。」(63頁)としていて、「日本国憲法改正」について触れていないという問題はあるが、単に「府令・政省令等」としていて「法律に基づく」という要件を無視している。しかし、「府令・政省令等」は「法律に基づく」かどうかにかかわらず、官報で公布されるべきであると考えているとすれば、それは普通の考え方で、やはり「法律に基づく」という要件をかけることが問題であるように思われる。
しかし、条文上、「法律に基づく』という要件をかけている以上、限定する目的があると考えるのが自然である。特に官報発行法第4条第1項第1号に「法令の規定に基づき国の機関が行う告示」という文言があることからすれば、「法律」と「法令」を使い分けていることは明白であり、「法律に基づく」という限定は意味があるはずであろう。
さらに言えば、後述するように「(最高裁判所規則その他の規則で内閣府令で指定するものを含む。以下「法令」という。)」の括弧書きがあり、この法律では「法律に基づく命令」だけが「法令」ということになるが、法律に基づかない命令があるとすると、それは「法令」ではないということになる。なぜ、こうしたのだろうか。
では、どのような意味で限定したのだろうか。逆に言えば、「法律に基づく」という限定を外した場合に、何が問題となるのだろうか。以下では、具体的に「法律に基づく」命令であるかどうかが問題となるものについて、個別に見ていくこととする。
4−2 実施命令は「法律に基づく命令」ではないのか?
この場合、「法律に基づく命令」というと、法律の委任により制定される命令、つまり、委任命令と考えるのではないかということが考えられる。そうだとすると、実施命令(執行命令ともいうが、以下では実施命令とする。)は入らないことになる。もっとも、近年、いわゆる実施規定(執行規定ともいう。)を置くことで、実施命令であっても法律の委任があることを明示的に規定することが多くなっている。とはいえ、既存のものを含めて実施規定によらない実施命令も依然としてあるし、さらにそうした実施命令を改廃する命令も実施規定のない実施命令ということになろう。この場合、実施規定がない実施命令に限って、「法律に基づく命令」ではないことになるのだろうか。しかし、実施規定がない場合に限るとしても、実施命令が官報で公布されないことになる理由はわからない。従来は、委任命令か実施命令かに関わりなく、命令であれば官報によって公布されていたし、これからもそうであるべきだと思うからである。そもそも、同じ命令であるのに、実施命令は官報で公布しない理由がわからない。
この点について、「法律に基づく命令」という文言が出てくる法律がある。例えば、行政手続法である。そこでは、どう考えられているのだろうか。同法第2条を見てみよう。「法律に基づく命令」という文言は、第1号と第8号に出てくる。
第1号の「法律に基づく命令」について、行政管理研究センター編『逐条解説行政手続法 改正行審法対応版』(ぎょうせい、2016。以下「『逐条解説行政手続法』」という。)は、次のように解説している。
では、同条第8号の「法律に基づく命令」の解説も見てみよう。
この行政手続法第2条第8号の解説中の「法律に基づく命令又は規則は、法律の委任を受けて一般的・抽象的な規範(ルール)を定める」ということからすると、「法律に基づく命令」とは、法律の委任を受けて定められる命令のことであり、いわゆる委任命令を指すことになるように思われる。では、いわゆる実施命令は、ここには含まれていないのだろうか。この解説では、明確に除くとはしていないが、含まれていないようにも読める。行政手続法についていえば、実施命令は国民の権利義務に直接関わらないものであり、「国民の権利利益の保護に資することを」目的とする同法の対象とするものではないということかもしれない。一方で、第8号の解説にある第6章の意見公募手続、つまりパブリック・コメントの対象について実施命令は除かれているように読めるが、実際に確認をしていないので何とも言えないは、本当にそうなのかという気もする。もっとも、実施規定があれば対象となるということもあるということもあろう。ここでは、行政手続法の解釈を主題とするものではないので、これ以上この点を論じることはしないが、「法律に基づく命令」には実施命令が含まれない可能性はあるように思われる。
しかし、官報で公布する法令についていえば、委任命令であれ、実施命令であれ、命令である以上、法令として公布すべきものとして考えられているのではないかと思う。そうすると、官報発行法で「法律に基づく命令」として、実施命令を除くというのは問題があるように思う。この場合、実施命令であっても「法律に基づく命令」に含まれると考えるということだろうか。もっとも、どのような理屈でそう解釈するのかは問題である。法律の実施命令も、法律に根拠があるということで、「法律に基づく」ということなのだろうか。「法律に基づく命令」という文言の解釈としてそうなのだとすると、先に引用した行政手続法の解説などとは異なる解釈をとっていることになるのか、それとも、他の法律での用例も同じということなのかもわからない。また、実施命令も含めて「法律に基づく命令」というのであると、4−3で後述するものを除く趣旨であるというのなら格別(その場合も、なぜ除くのかがわからない。)、そもそも「法律に基づく」という限定を付す必要があったのか、その点がわからない。
この点について、近時の行政法学での議論で、政令については憲法第73条第6号の一般的授権に基づき、府省令については内閣府設置法第7条第3項、国家行政組織法第12条第1項による一般的授権に基づき定められる法規命令であると解する考え方が有力になっている(芝池義一『行政法総論講義 第4版補訂版』(有斐閣、2006)115頁、大橋洋一『行政法Ⅰ 第4版』(有斐閣、2019)141頁、宇賀克也『行政法総論Ⅰ 第8版』(有斐閣、2023)317〜318頁参照)。このような考え方によるということも考えられる。しかし、このような考え方については、従来の政府の見解とは整合していないように思う。また、政令については、憲法第73条第6号の一般的授権に基づくものである以上、この考え方にたっても、法律に特に規定がない実施命令である政令は「法律に基づく命令」には含まれないことになる。しかし、そうだとすると、なぜこのような政令は官報により公布されないことになるのかという問題がある。
4−3 その他の「法律」に基づくものかどうかが問題となる命令
その理屈づけをどのように考えるにせよ、実施命令が「法律に基づく命令」に含まれると考えても、なお、「法律に基づく命令」に含まれるのか問題となる命令がある。
(1) 憲法を実施する政令
まず、褒章条例(明治14年太政官布告第63号)である。褒章条例については、政府は、憲法第73条第6号の「この憲法及び法律を実施するために、政令を制定すること」の解釈として、憲法を直接実施するための政令を定めることができるという解釈をとり、法律の委任がなくても政令を定めることができる場合があるとし、したがって、褒章条例は、憲法第7条第7号「栄典を授与すること」を実施するものとして、法律の委任はなくても政令で定めることができる事柄だとしている。そして、このような考えに基づき、褒章条例の改正を政令によって行なっている(昭和30年政令第7号、平成14年政令第278号)。この場合、褒章条例と褒章条例を改廃する政令は、憲法を実施する政令であり、憲法に基づく政令ということになる。ということは、法律に基づく命令ではないことになる。この結果、今後は、褒章条例を改廃する政令は、官報によって公布されないということになりそうだが、本当にそうなのだろうか。
また、勲章制定ノ件(明治8年太政官布告第54号)についても同様の問題がある。
(2) 法律の委任もなく、特定の法律の実施のためのものでもない(?)命令
官報及び法令全書に関する内閣府令は、法律の委任による命令とも、法律の実施のための命令とも言い難いように思われるという問題がある。この場合、憲法を実施する命令とも言いにくい。田中・解説は次のように書いている。
この田中・解説からは、この内閣府令が委任命令ではないことはわかるが、何かの法律の実施命令でもないようにも読める。この点、このような独立命令を制定することができるともいうのであろうか。いわゆる法規命令ではないから、許されるということなのだろうか。そうだとすると、この内閣府令は、法律に基づく命令ではないことになり、したがって官報で公布する法令ではないことになる。そういうことなのだろうか。
政府がこの点どう考えているのかよくわからない。ただ、いずれにしても、官報発行法の施行によりこの命令を改廃する場合には、その改廃をする命令自体は官報発行法に基づくものと考えているのかもしれない。しかし、この場合も官報発行法の施行に伴うものであるとはいえるが、同法に基づくものといえるのか疑問がある。この点は、どのように考えているのだろうか。
このほか、e-Gov法令検索の登録法令件数のページで、「当システムでは、以下の太政官布告4件、太政官達3件を政令に分類しております。」としているものうち、改暦ノ布告(明治5年太政官布告第337号)、裁判事務心得(明治8年太政官布告第103号)、不用物品等払下ノトキ其管庁所属ノ官吏入札禁止ノ件(明治8年太政官達第152号)、大勲位菊花大綬章及副章製式ノ件(明治10年太政官達第97号)があり、これらは法律に基づかない命令ということになると思われる。勅令にも同様のものがある可能性がある。これらは、法律に基づかない政令と考えると、そもそもその効力が失効しているのではないかという問題があるともいえる。とはいえ、いずれにしても、官報発行法の関係では、これらの政令とされているものが、今後、改廃の対象となることは考えにくく、問題とならないといえるようにも思う。
しかし、官報で公布する法令の範囲を定める以上、正確に規定するべきではないのかと思う。問題とならないとしても、それでよいのか。これで正確な規定だというのであれば、それはどのように考えているのだろうか。
(3) 法律の廃止等に伴い、政令を改廃する政令
「ある政令の根拠であった法律が廃止され、又はその一部改正が行われて、当該政令の全部又は一部が根拠を失うこととなったため、当該政令を廃止し、又はその一部改正を行う」(ワークブック165頁)政令について、どう考えるか。法律に根拠がなくなったことによるものなので、「法律に基づく」ものではないことになりそうである。しかし、行政手続法では、これも「法律に基づく命令」に含まれるとしているようである。というのも、同法第39条第1項で「法律に基づく命令」を含む「命令等」の制定に際し意見公募手続をとることとしているが、同条第4項で「第一項の規定は、適用しない」とされているものとして「七 命令等を定める根拠となる法令の規定の削除に伴い当然必要とされる当該命令等の廃止をしようとするとき。」が掲げられている。したがって、同法は、法律の廃止等に伴い、政令を改廃する政令は、「法律に基づく命令」に含まれるとしていることは明らかである。官報発行法の場合も同様に考えるのだろうか。
(4) 政令の委任・授権による命令
政令に委任された事項を当該政令で更に府省令等に委任することは原則として許されないが、「必要やむを得ない場合において厳格に第一次の委任事項の範囲を超えず、その具体的な細目の規定だけを授権するするようなものであれば、そのような再委任が許されないとまではいえないであろう」(ワークブック54頁)とされていることから、政令の委任・授権による府省令等があることになる。例えば、出入国管理及び難民認定法施行令第二条等に規定する伝達の方法等を定める省令(平成24年法務省令第25号)では、その制定文が「出入国管理及び難民認定法施行令(平成十年政令第百七十八号)第二条並びに日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法施行令(平成二十三年政令第四百二十号)第二条第二項及び第三条並びに出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する等の法律の施行に伴う関係政令の整備及び経過措置に関する政令(平成二十三年政令第四百二十一号)第十八条及び第二十五条の規定に基づき、出入国管理及び難民認定法施行令第二条等に規定する伝達の方法等を定める省令を次のように定める。」となっていることからわかるように、政令に基づいて定められたものである。「法律に基づく命令」を文字通りに解釈すれば、このような府省令等は、「法律に基づく命令」に当たらないということになる。しかし、上述の省令も、官報(平成24年6月15日号外第130号)により公布されている。官報発行法が施行されると、このような命令は官報で公布されないことになるとは思われないのだが、この点はどう考えているのだろうか。この点も、わからない。
4−4 「法律に基づく命令」とすることで除かれる命令には、どういうものがあるか
以上のように、「法律に基づく命令」に当たらないと考えられるものを検討してきたが、解釈はともかく、これらの命令を除く必要があるのか疑問がある。一方、ここで問題とならなかった命令で除くべきものがあるのかもしれない。しかし、私には思いつかなかった。そもそも、命令である以上、どのようなものであれ、官報により公布するのではないかと思うのである。「法律に基づ」かない命令として官報により公布する対象とならない命令には、どういうものがあり、なぜそうするのか、示してほしいと思う。
5 「(最高裁判所規則その他の規則で内閣府令で指
定するものを含む。以下「法令」という。)」の括弧
書きについて
5−1 括弧書きは、どの文言にかかっているか?
官報発行法第3条第1項の「(最高裁判所規則その他の規則で内閣府令で指定するものを含む。以下「法令」という。)」の括弧書きは、どの文言にかかっているか。この場合、「以下「法令」という。」という文言があることを考えると、すぐ上にある「命令」にだけかかっているのではないことはわかるが、どのようにかかっているかについては、「及び」「並びに」の接続詞をどう考えるかで、次の2つの考え方がありうる。
A 日本国憲法改正
、法律及び法律に基づく命令(…を含む。以下「法令」という。)
、条約
並びに詔書
B 日本国憲法改正、法律及び法律に基づく命令(…を含む。以下「法令」とい
う。)
、条約
並びに詔書
「通常,法律と命令を合わせて呼ぶとき「法令」という.」(『法令用語辞典』713頁)のであって、そのため日本国憲法改正を「法令」に含めることが考えにくいので、AかBかというとAということになるのではないかとも思う。しかし、及び・並びにの用法からすると、Bも理論的にありうると思うし、実際にもそう考えることも可能のように思う。先に引用した官報及び法令全書に関する内閣府令第2条では「法令全書は、憲法改正、詔書、法律、政令、条約、内閣官房令、内閣府令、デジタル庁令、省令、規則、庁令、訓令及び告示等を集録するものとする。」とし、さらに国立印刷局のホームページでの法令全書についてのリーフレットでは法令全書について「官報に掲載された法令(憲法改正・詔書・法律・政令・条約・省令・告示等)を、月まとめで集録しています」としており、憲法改正を法令に含めていると考えられる。しかし、このように考えると、詔書や条約、訓令や告示も法令に含めるべきことになってしまうので、官報発行法では、このようには考えないということのようにも思う。この点は、官報発行法第4条第1項、第8条第4項、第12条にある「法令」の意味の問題、特に「日本国憲法改正」がこれらの規定にある「法令」に含まれるかという問題となる。官報発行法第8条第4項に「第五条第二項の措置に係る電磁的官報記録のうち法令その他の内閣府令で定める事項」とあるので、内閣府令をみればよいかとも思ったが、この点について規定する内閣府令第18条は、次のように規定していて、この規定からは「法令」に「日本国憲法改正」が入るかどうかはわからない。
5−2 「最高裁判所規則その他の規則で内閣府令で指定するものを含
む。」の意味
「最高裁判所規則その他の規則」の太字の規則は、どういう意味か。この点については、「内閣府令で指定するもの」とあるので、この「内閣府令」を見ればわかる。内閣府令第2条は次のようになっている。
この内閣府令第2条からすると、官報発行法第3条第1項の「最高裁判所規則その他の規則」の太字の規則は、例えば次に掲げるような『法令用語辞典』での「規則」という意味ではないことになる。
このうち、議院規則及び地方公共団体の規則等は、上記の「規則」に含まれるが、内閣府令で除外したということかもしれないが、いずれにせよ、そもそも除外するものであったということであろう。次に、会計検査院規則、人事院規則、委員会及び庁の長官の規則といった国の行政機関の定める規則については、上記の「規則」から除外したのではなく、これらの規則は、この括弧書きの前にある「命令」には含まれるということであろう。4−1で引用した『法令用語辞典』でも、4−2で引用した『逐条解説行政手続法』でもそうであるように、この限りでは「命令」にこれらの委員会や庁の長が制定する規則も含まれるとする一般的な用例にしたがったものであろう。
ただ、内閣府令第2条第2号の「内閣総理大臣が内閣官房の所掌事務について制定する規則であって、法令の規定により若しくは慣行として、又は内閣総理大臣の判断により公布されるもの」は何かはよくわからない。特に内閣法第25条との関係では、わからないところがある。内閣法第25条は、次のように規定している。
このように、内閣法第25条により、内閣総理大臣は、内閣官房の事務に関して、内閣官房令、告示、訓令、通達を発することができる。では、内閣府令第2条第2号の内閣総理大臣が制定する規則とは、内閣官房令、告示、訓令、通達のいずれでもないものであるが、それは一体何か。行政規則だということかもしれないが、法令となりうるものであるとすると、その限りでは行政規則ではないことになる。この点をどう考えるか。また、行政規則だとすると、行政規則一般ではなく、「内閣総理大臣が内閣官房の所掌事務について制定する規則」に限定していることが理解できない。一方で、内閣府令第4条第2号にも「内閣総理大臣が内閣官房の所掌事務について制定する規則」が挙げられ、この場合は官報で公示されることになる。この点からすると、少なくとも、この「規則」は単なる内部的な規範ではないことになる。その反面、内閣府令第2条第2号からすると、この「内閣総理大臣が内閣官房の所掌事務について制定する規則」は、個別の法令に根拠がある場合を除き、内閣法第25条のような一般的な根拠規定も個別の法令の根拠もなく発することができるもののようであるが、このような「規則」、特に法令としての「規則」を発することは、法律による行政の原理からして可能なのか、このような規則は独立命令であり許されないということにならないかという疑問がある。また、この場合、この「規則」を法令とするかどうか、慣行や内閣総理大臣の判断で公布するかどうかで決まるものがあることになっている。この場合、本来法令であるべきかどうかという事柄によって決まるものではなく、こうした慣行や判断で決まるということでよいのだろうかという疑問がある。
こうした疑問について、説明して欲しいと思う。
5−3 「庁令」について
先の太字の規則を『法令用語辞典』のように考えるとした場合に、「庁令」をどう考えるかという問題がある。「庁令」という場合、庁の長としての国務大臣が発するデジタル庁令と復興庁令があるが、これらは府省令と並ぶものとして括弧書きの前の「命令」に含まれるということであろう。ここで問題とするのは、内閣府設置法第58条第4項と国家行政組織法第13条第1項で、各庁の長官は、政令及び府省令以外の「規則その他の特別の命令を自ら発することができる。」としていることから、外局である庁の長官が発する「庁令」のことである。庁の長官が発する庁令としては、現在、海上保安庁令が2件ある。また、宮内庁は内閣府に置かれているが、内閣府の外局でも特別な機関でもないため、厳密に言えば、外局である庁の長官が定める庁令とは別のものということになるが、宮内庁法(昭和22年法律第70号)第18条第1項で、宮内庁長官について内閣府設置法第58条第4項の規定を準用しているので、「庁令」を発することがあると考えられる。ただ、現在のところ、宮内庁令は制定されていないようである。この場合、内閣府令第2条から考えると、括弧書きの前の「命令」に含まれるということだと思われる。
6 告示について(工事中)
告示について、官報発行法は、2箇所に分けて規定している。
告示について、法令用語辞典は、次のように書いている。
告示について田中・解説は次のように書いている。
これによれば、官報発行法第3条第2項第1号の「処分(行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。)の要件を定める告示」と同項第2号の「前号に掲げるもののほか、これに類する告示として内閣府令で定めるもの」が「法規たる
性質を有する告示」だということになる。
しかし、4−2で引用した『逐条解説行政手続法』47頁での行政手続法第2条第8号の解説で「ただし、第一号に定める「法律に基づく命令」については、単に「告示を含む。」とされているのに対し、本号に定める「法律に基づく命令」については、「処分の要件を定める告示を含む。」とされており、「法律に基づく命令」に含まれる告示の範囲が異なる点に注意を要する。すなわち、前者では、いわゆる法規たる性質を有する告示が全て対象となる(第二条第一号の解説参照)のに対し、後者では、そのような告示のうち、処分の要件を定めるものに限定されている。」としている。したがって、官報発行法での「法規たる性質を有する告示」は、行政手続法でいう「法規たる性質を有する告示」のうち官報発行法第3条第2項の第1号及び第2号のものに限定していることになる。