立法学入門コラム 六法と恋愛
ストーカー行為等の規制に関する法律(平成12年法律第81号)第2条第1項は「つきまとい等」という言葉を定義しているが、その中で、「恋愛」、「怨恨」という言葉が国の法令で初めて使われた。どういう形で規定されているかは、条文を見て欲しい。その上で、なぜ、同法で「恋愛」、「怨恨」という言葉が使われているのかについても考えてほしい。その後「恋愛」については、消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54号)により加えられた消費者契約法(平成12年法律第61号)第4条第3項第4号で用いられている。一方、新しく入った「怨恨」については、ここ以外では使われていないようである。なお、「恨」の字については、津波対策の推進に関する法律(平成23年法律第77号)前文第1項の「痛恨の極み」という文言で使われている。
かつては、六法に恋愛という文字はないといって、司法試験受験生の試験勉強に恋愛は邪魔になるということがいわれていた。また、黒田了一「法律家と詩情」ジュリスト130号30頁以下(1957)31頁で、「秋の夜をひたすら学ぶ六法に、恋という字は見出でざりけり」という自身の歌について書いている。もっとも、六法には載っていないかもしれないが、「恋」の字は、法律で「嬬恋」という地名を引く中で結構昔から使われている。また、「愛」という字も、「平和を愛する」(日本国憲法前文)などの例があるほか、「愛知」、「愛媛」といった地名を引く中で使われている。
というわけで、いまや、「恋愛」という2文字は、六法にあるということになる。ところで、ストーカー行為等の規制に関する法律は平成12(2000)年の秋に成立している。したがって、2001年からの六法、つまり21世紀の六法には「恋愛」という文字があることになる。21世紀の六法と20世紀のそれとは、「恋愛」の有無で異なるのである。
ついでに、e-Gov法令検索で調べた国の法令上の語句について述べてみよう。まず、「愛情」という言葉は身体障害者補助犬法(平成14年法律第49号)第21条、児童福祉法施行規則(昭和23年厚生省令第11号)第1条の35第1号、第36条の42第2項第1号にある一方、「人情」という言葉はない。ただし、「人情」で検索すると「個人情報」が検索されてくる。確かに、個人情報の中には、人情にかかわる情報も含まれている。「友人」という言葉は、出入国管理及び難民認定法施行規則(昭和56年法務省令第54号)第19条の3第2号、船員法施行規則(昭和22年運輸省令第23号)第6条第1項に出てくるのに、「友情」という言葉はなかったりする。また、「夢」はあっても、「幻」はない。「夢」は「家庭や子育てに夢を持ち」(少子化社会対策基本法(平成15年法律第133号)前文第3項、第2条第1項、第6条)というように使われているが、「幻」の字は、「幻覚」「幻灯」などの言葉の一部にはあるが、「まぼろし」という言葉としては使われていない。最後に、ここは○×で書くが、阪神○巨人×ということになる。阪神ファンは、気持ちがいいだろう。しかし、阪神ファンにも悩みはある。e-Gov法令検索において、「虎」で検索すると「臘虎」(ラッコ)が出てきてしまったり(臘虎膃肭獣猟獲取締法(明治45年法律第21号))、「トラ」で検索すると「トラ退治法」(酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律(昭和36年法律第103号)の略称)が出てきてしまったりするのである。