入院日記~検査~

前回のあらすじ「入院日記~プロローグ~

健康診断から数カ月、しばらくは月に何度か病院へ行っては検査をする、ということが続いた。
安静にしての採血、薬を投与しての採血、MRI、おそらく医者としてもだいたいのあたりは付けているんだろうな、という感じで、手際よく次はこの検査、次はこの検査、といった具合に何度か通院したのち、おそらく「原発性アルドステロン症」ではないか、という結論が出た。

なにその病名。

生まれて初めて聞く病名だ。なんだよ原発性って。怖い。怖すぎる。
と、最初はかなりビビっていたが、医者の話を聞いたり、自分でいろいろ調べたりしているうちに、そこまで大袈裟に悲観するほどの病気ではないことが分かってきた。
簡単に言えば、腎臓の上に副腎という臓器があり、そこからアルドステロンというホルモンが分泌されることによって血圧がコントロールされているのだが、そのアルドステロンの分泌が過多になっているのだという。
(『原発性アルドステロン症について』)

なるほど。病名は分かった。次はその対処法だ。
医者が言うには、大きく分けて二つ。副腎を切除してしまうか。血圧を下げる薬を飲み続けるか。
ただし副腎は腎臓と同様に左右に一つずつあり、現時点ではどちらの副腎からアルドステロンが分泌過多になっているか分からないので、まずはそれを調べなくてはいけないこと。そして、もし両方の副腎が分泌過多であれば、もう切除はできないということ。また、副腎を切除したとしても、すでに血管そのものが劣化していれば血圧は下がらないということ。ただ、それでもアルドステロンの分泌過多は抑えられるので、できれば切除した方が良いということ。
ひとつひとつ、丁寧すぎるぐらいの説明を受け、けっきょく、切除することにした。
だって、そんな病気を抱えたままこの先生きていくなんて怖すぎるもの。

というわけで、左右どちらの副腎が分泌過多なのかを調べるため、まずは昨年11月に検査入院をしたのである。
検査の方法は"副腎静脈サンプリング"という、左右それぞれの副腎の近くから直接採血して、アルドステロンの値を調べるもの。
入院も2泊3日程度で済むという話だし、軽い気持ちで検査に挑んだのだが、これがまあ、大変だった。
いや、検査自体は本当になんてことなかったのだが、なにが大変だったって、その、あれである。

尿道カテーテルというやつである。

実を言うと尿道カテーテルは初めての経験ではなく、25年ほど前に一度経験はあるので、今回もまあ大丈夫だろうと高をくくっていた。
ところが、である。
挿入の段階からもう痛い。むちゃくちゃチンコが痛い。「大丈夫ですか」と聞かれて即答で「大丈夫じゃないです」と答えるぐらいに、とにかくチンコが痛い。「しばらくしたら慣れますから」という言葉を信じて頑張ってみたが、いつまで経ってもチンコが痛い。
こうなるともう検査どころじゃない。
局部麻酔をしたり太ももから管を入れたり、事あるごとに「ちょっとチクッとしますよー」なんて言われるが、そんなのは全く問題じゃない。
なんせこっちはチンコが痛いのだ。
とはいえ、いまさら止めるわけにもいかないので、とにかく耐えた。
アフリカで貧困に苦しむ子供たちに比べたら全然大したことない、と自らを奮い立たせて、なんとかチンコの痛みに耐えた。
検査が終わって「どこか痛むところはないですか?」と聞かれたので、チンコが痛いことを訴えたが、看護師さんは「いやそうじゃなくて」とでも言いたげな苦笑いを浮かべるだけだ。

チンコが痛いまま病室まで運ばれ、別の看護師さんが付いてくれたので、改めて訴えてみた。
「あと2時間ぐらいで外せますので」
2時間もこの痛みが続いたら確実に発狂する。
「10段階でどれぐらいの痛みですか?」
8と9の間だ。限りなく9に近い。
「いますぐ外して採尿器(尿瓶)にしますか?」
ぜひともそうしてほしい。
「じゃあいまから外しますけど、2時間は安静にしてないといけないので、オシッコしたくなったらナースコールで呼んでくださいね」

助かった。
尿道カテーテルを抜いたあともチンコの痛みはもちろん続いていたが、それでも10段階で6ぐらいまでには落ち着いた。
だが、ここから別の戦いが始まる。
1時間ぐらい経ったころ、急激に尿意が襲ってきたのである。ナースコールすればいいだろ、と思われるかもしれないが、無理を言って尿瓶に変えてもらった以上、それに頼ってはなるまい、というまったく無意味なプライドがあったのだ。
男性諸君なら誰しも経験があるだろうが、尿意を抑えるときは股間を押さえる、というのが定石である。
だが、それができない。
10段階の6に下がったとはいえ、強く押さえるのを躊躇するぐらいには、まだチンコが痛いのだ。
そして、安静にしている間はなるべく足を動かさないように、とも言われていたので、第二手の「モジモジして耐える」も封じられているのである。
こんなことならカテーテルの痛みに耐えればよかったか?いや、その痛みに比べれば尿意の方がマシだ。ていうか、そもそもナースコールしろよ。
などと逡巡しているうちに、なんとか1時間耐えてみせた。

ちなみに、チンコの痛みはその後一週間続いた。

そして、左の副腎を切除することに決まった。

入院日記~手術~」へ続く

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