肥満の人はうつ病リスクが高い?
クレッチマーの体格ー気質関連説(体格ー性格関連説)という理論が,心理学の教科書のパーソナリティの話の中では必ずと言っていいほど登場します。
◎細長型(やせた体型):統合失調症に対応,神経質で物静かでまじめ
◎肥満型(太った体型):躁うつ病に対応,社交的で温厚で善良
◎闘士型(筋肉質の体型):てんかんに対応,秩序を好み熱中しやすく几帳面
クレッチマーの説は,今から100年ちょっと前に,気質(今でいうパーソナリティ)の研究に科学的な方法を持ち込んだという意義があります。入院患者の体格を調査し,統合失調症患者には細長型の体格が多く,躁うつ病患者には肥満型の体格が多いということをデータで示しました。
もちろん当時は,結果を示すときに年齢や性別やその他の変数を統制するという統計手法もありませんし,コンピュータもありません。素朴な分析の中で結果が示されていますので,今の方法だとなかなかうまく結果は出せないでしょう。
肥満と抑うつ
ところが,クレッチマーの研究から100年以上経った現在でも,「肥満は抑うつのリスクになる」という話を耳にするのです。うつ病の病歴がない人を対象として,肥満の評価から数年後にうつ病を評価した縦断的研究を集めたメタ分析の研究があるそうです。その結果によると,肥満の人はそうではない人に比べて,うつ病になる確率が約55%高くなるという結果なのだそうです。
社会全体で考えても,肥満率の増加そのものは心身の健康に悪影響を及ぼし,経済的にも大きな損失をもたらすと言えます。
交絡する変数
クレッチマーの体格と精神病理との関連が,年齢や社会経済的地位やその他の変数を加えると関連がなくなっていってしまうと予想されるように,体重とうつ病との関連もさまざまな変数によって影響を受けると考えられています。うまく余分な変数をコントロールすることで,はじめて本当に関連があると主張することができそうです。
そこで,比較的多くの変数をコントロールしている先行研究を集めて,レビューとメタ分析を行い,肥満がうつ病のリスクを高めると言えるのかどうかを検討した研究を見ていきましょう。こちらの論文です(Obesity as a causal risk factor for depression: Systematic review and meta-analysis of Mendelian Randomization studies and implications for population mental health)。
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