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人と比べてしまう苦しみ

他人と比べるのはイヤなものです。そういうとき,自分がどんどんイヤな人間になってしまうように思うこともあります。

私たちは基本的に自分が良い状態・優れている・望ましい人物でありたいと望むものです。そして,ついつい他の人と自分を比べて自分がどうかを確かめようとしてしまいます。

それを脱するような達観の境地に至ることができれば良いのですが,現世に囚われた私たちにはなかなか難しいところがあります。


劣った人を探してしまう

自分より劣った人がいると思うことは,自分の評価を高めたり維持することにつながります。「あいつよりはマシ」という感覚です。

とはいえ自分を高めたいと思う気持ちはそうそう収まるわけではありません。ついつい,いつもことあるごとに自分よりも劣った人を探してしまいます。それが常習化すると,自分の評価を劣った人を見つけることで維持しようとし始めてしまいます。ああ,ネットのなかでよく見かける光景かもしれません。

でも,そんなに比較をしない時もあるはずです。不幸な人を見て「かわいそうに」と同情することもあります。

優れた人を見ると

では,優れた人を見たときには何を考えるでしょうか。

「これはすごい」と感嘆することもあれば,「自分はなんてダメな人間なんだ」と落胆することもあれば,「ケッそんなの関係ない」とさらにその人を貶めようとすることもありますよね。

これって,どうして変わるのでしょうか。

上と比べることと下と比べることと

ひとつめのポイントは,比べる相手が自分より優れていると思うか,劣っていると思うかです。自分より上か下か,ということですね。

自分より優れていると思う相手と自分を比べることを上方比較,自分より劣っていると思う相手と自分を比べることを下方比較といいます。

皆さんはふだん,どういう人と自分を比べがちでしょうか。

競争する時

自分がその人たちと競っていると思っているとき,他の人が優れていると落ち込み,他の人が劣っていると嬉しい,ということがよく起こります。

それは経験は,私にもあります。特に,大学院生のときや駆け出しの研究者だった頃は,いろいろな学会に行くと「ああ,こんなつたない発表もあるのだから自分はまだまだ大丈夫だ」と,下方比較をしてしまうのです。

ちなみに比較するときには,走ったり跳んだり勉強したり,何か具体的な活動をしている必要はないのです。人生全体であっても,そこで自分が競争していると認識すれば,ついつい比較してしまいます。「あいつの生活よりは自分の方がマシだ」というふうに。本当,そういうのはやめておきたいですよね。

私自身,もうそんなに研究や職業上で競争をしているという認識もなくなっていますので,今では以前と違い,学会に行っても単純に「この研究おもしろい!」「こういうところに問題はあるけど可能性はある!」と素直に受け止めることができるようになったように思います。

自分の位置

もうひとつのポイントは,自分の立ち位置です。

自分が現在,優れた人に近いと思っているのか,劣った人に近いと思っているのかによって,比較をした後の反応が変わってきます。

自分が比較的優れた人に近いと思っている時には,誰と比べようともあまり自分の評価は揺らぎません。優れた人を見たときには「すごい人だな」と思い,劣った人を見てその人のことは考えても自分の評価はあまり変わりません。上方比較をしても下方比較をしても,自分がどうかということとはあまり関係がないのです。

その一方で,自分が劣った人に近いと思っている時には,他の人と自分を比較することで大きく自分の評価が揺らぎがちです。優れた人を見ると「やっぱり自分はダメだ」と落ち込み,劣った人を見ると「ああ自分はまだ大丈夫」と思えます。上方比較で自己評価が下がり,下方比較で自己評価が上がるのです。

人生全体が競争だと考えて,自分はその中でも下の方だと思う人が多くなればどうなるでしょうか。きっと,多くの人が自分よりも下の人を探して安心しようとし始めるのではないでしょうか。

比べるのをやめる

人と比べても大丈夫になるのは,自分がある程度の実績を積み重ねてそれなりの地位にいることが必要なようです。でも,そう簡単にそういう状態になれるわけではありませんよね。

もうひとつは,競争の中にいるわけではないと考えることです。優劣を競っているわけではないのだと考えれば,そんなに人と比べる必要はないからです。とはいえ世の中がこれだけ「競争しろ」「勝ち残れ」と声高に叫んでいる中で,競争ではないと考えることはなかなか難しそうです。「人生から離脱してしまった」という感覚を抱いてしまう人もいそうです。

自分自身がそういう状態をどうかわしてきたかを思い返してみると,「以前の自分よりは何かしらマシになっているはずだ」と考えることだったように思います。

何かを読んでも,何かを書いても,発表しても,すべてそれは以前の自分に何かを追加して積み重ね,自分を変えることにつながります。そう思い込んでおけば,多少は人生が楽になり,もっと何かをしようと思えるかもしれません。

論文

なお,上方比較と下方比較を実験で検討した古典的な論文はこれです。時間があるときに読むのをチャレンジしてみてください。

Social Comparison, Self-Consistency, and the Concept of Self

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