やわらか装置で、明日をつくる。
人の人による人のためのデザイン。
お話を聞いたのです。インターフェイスデザイナーの八田晃さんに。
京都に拠点を構えるデザインコンサルティングファーム、ソフトデバイスを代表取締役として率いておられますが、グラフィックなら任せてとのたまう世に数多あるデザイン会社にあらず。専門とするデザイン領域は、ヒューマン・インターフェイス。世の中のさまざまなモノや情報と人との心地いい対話や快適な関係性をインタラクションの中に生み出すデザインワークに特化されています。社名を話された時に“やわらか装置”と添えられたのですが、聞けば聞くほど、名は体を表すと思い知ることになります。スタートは80年代でプロダクトから歴史は始まるのですが、時代をパラダイムシフトさせたi-mode第一号機のUIを始めとして、TVの電子番組表、音楽プレイヤー等の黒物家電、そして冷蔵庫等の白物家電と、時代の変遷とともにインターフェイスを創造する場は移っていき、現在はクルマや医療といったフィールドで、ソフトウェア/ハードウェア、サービス/プロダクトの隔てなく、新たに人が出会うスムースな接点やエクスペリエンスの在り方について探究されています。
作れよ、されば開かれん。
その手法として徹頭徹尾貫かれているのが、プロトタイピング。ソフトデバイスがメーカーと併走しながら多く手掛けるのは、クルマで言えばコンセプトカーのような「先行開発」。未来を占うデザイン、とも言えるかもしれません。人間中心設計プロセスで言えば、ユーザをしっかり観察して、可視化して課題抽出し、その解決案となるモデルを作って、評価にかけていくわけですが、八田さんは言います、“未来は観察では出てこない”、と。で、PCの父とも呼ばれるアラン・ケイの名言をオマージュした社是の如く掲げられる言葉がイカしてるのです。“Predicting the Future by Making.” 翻れば未来を予測する最良の道は、つくることだよ、と。と同時に、警鐘を鳴らしてくれるのです、ものづくりで議論の空中戦ばかりしてもどこにも辿り着かないよ、と。だからこそソフトデバイスでは、まだ話が柔らかいプロジェクトの上流域でできるだけプロトタイピングするべく仕事に取り組まれています。完成形をイメージするためのプロトタイプでなく、そのイメージを考えるためのプロトタイプ。考えるために、試作するわけです。
Just make it.
昨今、プロトタイピングの意味が拡張していると八田さんは語られます。その方向性は2つで、「スケッチ」と「シーン」。前者で説かれるのが、デザインプロセスの上流でどんどんラフにプロト化&ラフに検討することの有用性。ラフだからこそEditableでCollaborativeで、その場で自在に変えられて非デザイナーも参加できるので建設的に検討が前進するんだ、と。後者はUXど真ん中の話で、製品やサービスの利用シーンを演じて写真や映像を活用しながら疑似的に環境再現することの実効性。まさに、サービスデザインのプロトタイピング。考えるために、つくる。その解像度を上げるために、つくり方を進化させていく。これは造形構想研究科で学ぶ自分には本質そのもので、造形だけでも構想だけでも欠落があって双方をイテレーティブに行き来しながら価値創造に取り組むクリエイティビティこそが大事なんだと改めて得心します。そんな現場を積み重ねてきた八田さんの話しぶりは非常に冷静沈着なのですが、ふと言われたフランクな言葉が心をロックオン。「考えてばかりいないで作ってみたらいーじゃん!」・・・豊かな未来はそこから始まると信じてやみません。
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論/第5回/八田晃さんの講義を聞いて 2021/5/10