アジ・ダハーカの箱 第10話:罪なき罰
「ま、待ってくれ!俺が悪かった!やめてくれ!やめろッ!やめ」
無視だ。俺はクソ野郎の口に鉄板入りのブーツをブチ込んだ。加減の無いサッカーボールキック!歯が何本も砕け、飛び散り、口唇がちぎれ飛んだ。
「ぐわッ!がッ!ああああッ!」
嗚咽、悲鳴。振り子のように揺れる芋虫。無様な姿だ。だが俺の心は冷えている。気を失われると面倒なので、次はそのたるんだ腹に一撃おみまいしてやった!全裸で縛られたクソ野郎は逆さまに吊られたまま嘔吐した。
「がぼッ、ごぼぼッ」
「……」
「うぐ、ぐぐぐ……す、すまなかった。俺が悪かった。だ、だから……」
「……」
「もう、許してくれ……サンダウナー」
「……いいや、駄目だ。まだまだだ。お前にはいろいろ喋ってもらうぞ」
逆さまの顔にくっついてるケツの穴から吐かれた名前、サンダウナー。俺だ。俺の名だ。あからさまな偽名。本当の名前?そんなものはもう無い。ああ、うんざりするぜ。
「もう一度聞くぞ。お前が俺をハメた理由は何だ?情報を扱ってるお前みたいな奴は信用が一番だってわかってるだろ」
吐瀉物を撒き散らしながら、俺を裏切ったクソ野郎……かつてのキャラバンのバーの店主、髭を蓄えた男、デイヴィッドが懇願する。
「そ、そうだ!そうなんだ、サンダウナー!俺だってあんなことはしたくなかった!脅されてたんだ。仕方なかったんだ」
「そうか」
「へへ、そうなんですよ。そう、ていうか……あんた、あんたさあ……本当にサンダウナーか……?俺が知ってるサンダウナーは俺より年上のはずだ。あんた、奴の息子か、あるいは、歳の離れた弟じゃないのか?だったら、奴のためになぜこんなことを」
俺は余計なことを喋りだすデイヴィッド・カーター氏の尻にデカいステープラーを押し当て、勢い良く針を突き刺した。
「ぎゃあああああああああ!」
バチン!バチン!バチン!何度も突き刺す!ミニマルな血しぶき。ケツに深々と刺さる針。当然の悲鳴だが、耳障りだ。
「黙れ。殺すぞ」
「あああ……」
文房具は良い。こんな終末世界でも変わらず便利だし、拷問器具にもなる。
「次はペニスを閉じてやろう。で?ええと、なんで俺を売ったんだっけ?」
「えっ、す、すみません!脅されたなんて嘘です!カネです!カネを受け取りました!」
「カネ?カネだと!」
思わず吹き出してしまった。こんな時代に、こんな世界で、カネだってよ。尻を拭くぐらいにしか使い道がないような紙切れで、こいつはこうなるリスクを背負ったってのか?
「おいおい、はは、ははは。お前みたいな奴こそカネの無価値さを知ってるだろう。なあ、本当はなんだ?どうして俺を売った?それとも、やっぱりステープラーで尿道を閉じた方が良いか?」
俺はステープラーを奴の尿道に押し当てる。ジョークじゃない。
「待て待て待て待て待て!頼む!本当なんだ!カネだよ!カネを受け取った!確かに、確かにだ!俺らみたいな下々の人間にとっちゃカネなんざ使いどころがないが……あの方々と取引するときに必要なんだ!」
俺はステープラーを閉じた。
血飛沫、絶叫、悲鳴、嗚咽。
そして間髪入れずナイフを首に押し当てる。
「うるさいぞ。だまれ」
「ひっ、ひいっ、痛ぇ!いてえよお!ひいい、許してくれ、もうやめてくれ。殺さないでくれ!」
「そうじゃない。今のはそうじゃないんだ。さすがに"ヤツら"が来ちまうだろう。そうなりゃ俺もお前もヤバい。意味はわかるな……?」
「はあ、はあ、はあ、あ、ああ、ああ」
「シーッ」
頸動脈に押し当てたナイフに力を込める。ひと筋の血液が細く流れ、逆さまの顎から顔に伝って行く。
「あの方々ってのは誰だ?」
「殺さないでくれ、頼むよ」
「ああ、わかった。わかったよ。喋ってくれたらな。約束するよ」
嘘をついた。殺す。こいつは必ず殺す。見せしめのためにも惨たらしく徹底的に拷問してからブチ殺す。最初に生きたまま皮を剥ごう。拷問の基本は飴と鞭。そんなドス黒い真意を微笑みで隠し、優しく語りかける。
「よ、よ、良かった!サンダウナー、いや、サンダウナーさん!俺が喋ったってことは誰にも言わないでくれ。頼む」
「ああ、そうしよう」
これは本当だ。誰にも言わない。どの道殺すからな。こいつの死体はここに捨てる。そんな俺の心の内をまったく知らないデイヴィッドは呼吸を落ち着かせて話し始めた。
「フー、わかった、わかった。ああ、あの方々ってのは……軍だ。軍人と、そいつらを操ってる政治家たち。あいつらと取引するにはカネが要るんだ。集めたカネで何をしてるかは知らんが、とにかく連中の価値観はまだ崩壊前の旧世紀のままなんだよ」
軍人……これはハーディングたちのことだろうな。死の都ロサンゼルスへの突入作戦を決行したバカども。なるほど。あのときハーディングが言ってた通り政治屋も絡んでるってのは本当のようだ。ってことは、俺の存在は、少なくとも死ぬ前の俺についての情報はそいつらに認識されてるってことだ。軍と終末政府気取りのジジイどもに知られてる?まいるぜ。最悪だ。
「お、俺は連中のおこぼれを頂戴しようとしただけさ。銃や、食糧、それからドラッグを仕入れるためにな」
「……」
「へへ、サンダウナー、さん。サンダウナーさんよ、あんたを狙ってる奴は星の数ほどいる。あんたのことを売ってほしいって組織もたくさんあるんだ。俺は誰にだってそうすることができた。その中で軍人どもを選んだのはマシなほうだぜ」
「……」
「たとえば、ドラゴンのタトゥーを……いや、正確には、頭が竜で体が人間のバケモノのタトゥーを入れたマフィアって知ってるか?あんたが二人ほど下っ端を殺したとか噂が流れてて、そいつらも」
「……」
「な、なあ、サンダウナー、さん……?聞いてるか?」
「……来た」
「えっ」
突如として襲い来る激しい頭痛……!
「"ヤツら"の気配がする!」
あいつらが来た。間違いない。
「ドラゴンだ」
俺の呟きを耳にしたデイヴィッドが青ざめる。察したようだ。次にこのクソはパニックを起こした。
「ひいい、ド、ドラゴン?ドラゴンがくる!ドラゴンがくる!」
デイヴィッドのヒゲ野郎もドラゴンの存在を感じたらしく、吊られたままバタバタと体を動かす。俺はその姿に率直に嫌悪感を覚えた。醜い豚野郎だぜ。
「クソが。お前にはまだまだ聞くことがある。アリアンナの死体をどこへやった」
「ひっ、ひ、ア、ア、アリアンナ?し、死体?俺の店で死んだアリアンナ・パーガトリー?そうだ。アリアンナの死体は他の奴らが来て、そ、それから、ああ!降ろしてくれ!頼む!助けてくれ!」
「もう黙れ!クソ!来た!あれはッ!あのドラゴンは」
騒ぐ俺たち目掛けて一直線に向かってくる強大な存在感。おぼろげだった恐怖の輪郭が確信となって、俺たちの脳と精神をファックした。
"鏝属性アイロニングドラゴン"
ヒタ、ヒタ、と、冷たく濡れた足音を鳴らしながら、異形がこの廃屋に近づいてくるのが見える。俺たちは凝視した。いや、目を離すことができない。影を縫われたように俺は足を動かすことができない。まずい、まずいぞ。クソ、クソ、なんてことだ。入ってきた……!
その姿は、口にするのも恐ろしい。奴のなまめかしい身体がゆらゆらと揺れているのが見える。そうだ。鏝属性アイロニングドラゴンの身体は、ホットな若い女のもの。豊満で形の良いバストに、くびれたウエスト、大きく丸い尻。あれが本物の美女だったならどんなに良かったか。だが、奴の顔はその属性が示す通り、アイロンだ。自分でも何を目撃しているのか理解が追いつかないが、首から上がとても大きなアイロンなんだ。そして、女の乳頭と生殖器があるはずの場所には、歪な笑みを浮かべた歯並びが悪い人間の口。それぞれからだらりと舌が垂れ下がりヨダレを垂らす。身体は人間の女、顔はアイロン、胸と股間に口。心の底から思う。なんて醜い、おぞましいクリーチャーなんだ。
「クキキ、クキキキ」
奴の胸と股間にある口がそれぞれ不気味な笑い声を上げる。俺は喉まで出かかった悲鳴を必死で抑え込む。
「ひいっ!ひいいいいいい!」
ミスター・デイヴィッド・カーターは恐慌状態だ。無理もない。目の前に一方的に人間を殺すことができるバケモノがいるんだからな。ヤツらは、人間の天敵であるドラゴンは、どいつもこいつも特有の強烈なプレッシャーを放っている。それで近くにいる者に頭痛や嘔気を引き起こさせるほどの原始的恐怖心を呼び覚ます。そうやってドラゴンは俺たち人間に存在を無理矢理"わからせる"ことができるんだ。
「あああああ!助けてくれ!助けて!」
無様に泣き叫ぶデイヴィッド。きたねえ顔だ。一方、俺は微動だにしない。俺はべつにこいつが死んだって構わないんだ。命乞いをされようとも最初から殺すつもりだったんでな。だいたい、こいつは初対面で「おい、サンダウナー。ラップしてみせろよ」とか言ってたクズだから。俺はそういうのをよく憶えてる。憎しみを記憶してると簡単に心を冷やすことができるってのは破滅した世界の処世術だぜ。あばよ、デイヴィッド。てめーの酒は不味かったぜ。
「ハァー、ハーァー」
「ひいいいいいいい!」
アイロニングドラゴンがデイヴィッドの顔を撫で始めた。愛撫といって良いセクシーな手つきだが、このあとに起こるのは愛の営みとは反対の死の口づけ。俺は動かない。絶対に動かない。呼吸や、心臓の音すら止めてしまうように、自分の存在感を限界まで消し去る。例えば、俺は木だ。立ってるだけの木。何も考えずにただそこにある木だ。信じる力をマジにするんだ。
ギュルル!と、唐突にアイロニングドラゴンの首が反転した!その名が表す鏝の性質の通り、赤熱したアイロンのプレートが姿を見せる。そして、デイヴィッドの顔面を両手で掴み……まるでキスをするように自分のアイロンの顔を押し付けた!灼熱のプレスだ!
じゅうううううう!
「ぎぃやあああああああああ!あっ!ああああああ!」
人間が焼け焦げるにおい。デイヴィッドは生きたまま顔を焼かれている!ぶすぶすと音を立てて全身からも煙が立った!宙吊りの裸が激しくのたうつ!人肉が焼ける独特の臭気が俺の鼻孔を突き、吐きそうになるが、必死でこらえる。耐えろ。耐えるんだ。俺は木。俺は木。ポプラの枝。シカモアの下。黒いロータス。
俺はまばたきすらしない。汗も流さない。目の前でどんな光景が繰り広げられてもだ。デイヴィッドの断末魔はすぐに終わり、最後に少しだけ痙攣すると、もう二度と動かなくなった。熱と同時に電気も流されているのか、全身の肉も焼け焦げ、身体のあちこちから煙が昇って行く。その顔面は……皮膚や眼球はもちろん、骨すら焼け落ち、中から溶けた脳がどろりと……いや、見るのはもうやめよう。視界には入るが、意識の外から排除するんだ……どうにか、なんとかして……!
「クキキ、クキキ」
アイロニングドラゴンの胸と股間についた口が満足気に下品な笑い声をあげる。ふつうに考えると次は俺の番だが……奴はしばらく周囲をうろついたあと、四つん這いになり、犬のようににおいを嗅ぐような仕草をした。ぺたぺたと周囲の床を触っている。そうして鏝属性アイロニングドラゴンはひとしきり壁を撫でた後、あっさりと部屋から出て行った。何事もなかったかのように。それからはかなりの速度で走り去ったようだ。姿が完全に見えなくなったのを確認すると、俺はようやくこの廃墟から脱出した。
「ああー、腰がいてえ」
思い切り深呼吸し、伸びをする。体の中からミシミシと音が聴こえそうだ。石像になった気分。偉人の彫刻も同じポーズをやめたらこんな感じなのかもな。少しだけ笑った。
「いや、痛くはねーな。そういう気分ってだけか」
実際、腰痛はない。年齢を重ねてから無茶をすると必ず痛くなったものだが、今の俺は若造だ。若返りも悪くはない……とも言い切れない状況だが、正直なところ清々しい気分だ。クソ野郎を始末して、おまけに凶悪なドラゴンをやり過ごすことができた。最悪だが、最高にツイてる。
俺はサンダウナー。
名前は無い。本当の名など人間をやめたときに捨てた。だから、俺はただの放浪者、サンダウナーだ。それもこの破滅した世界を永遠に放浪する者……
辺りを見回す。よく晴れた天気。心地良く青空が広がり、あたりの草原を黄金に照らしている。ピクニックにはもってこいだな。俺は歩き始める。耳から聴こえるのは風が強く吹く音だけ。今更だが生き残った余韻を噛みしめる。デイヴィッドのクソ野郎みたいに鏝属性アイロニングドラゴンの"死の口づけ"を受けて惨たらしい死に様をさらすことにならなくて本当に良かった。
本当に……?本当にそうなのだろうか。
俺は不死者だ。言葉通り死ぬことができない。そうだ。もう二度と死ぬことはできない。ああ、死ねないんだ。それもこれも、ロサンゼルスで出会った竜喰いことミス・エンドレスのせいだ。あのビッチが撃たれた俺の傷をファックして、頼んでもないのに生き返らせて……鏡を見てみれば、なんとまあ!映ってるのは若い頃の俺じゃないか!大幅に若返ってやがる!死ぬたびによみがえり、死ぬほどに若返るらしい。傷もあっという間に塞がる。これは血属性ブラッディドラゴンの"呪い"だとミス・エンドレスは言っていたが……だからこそ、さっきの鏝属性アイロニングドラゴンをやり過ごすことができたともいえる。アイロニングドラゴンは音を探知するからな。人間の声はもちろん、呼吸音や心音すら探し当てることができる。そして、奴は悲鳴が大好きだ。デイヴィッドの絶叫がアイロニングドラゴンを呼び寄せたともいえるし、そのデイヴィッドの情けねえ声が俺を助けたともいえる。いつのまにか、マジで呼吸や心臓の動きを止められるほど身体能力が向上したようだ。それから……あまり考えたくないことだが、なんというか、きっと、人間らしい存在感も失われたのだろう。
どうしても暗い思考に陥る俺とは対照的に、メキシコの空はどこまでも青く晴れ渡っている。本当に良い天気だ。膝より下の高さの草木が俺の脚をくすぐる。ここはドラゴンが世界を破壊する前は荒涼とした砂漠だったそうだが、人間が滅んですぐに緑が戻ったらしい。皮肉なものだ。自然は人間の味方をしないのに、ドラゴンどもの敵にもならない。むしろ悪天候ほど危険な竜が現れる傾向がある……気がする。キャラバンによくいる終末論に取り憑かれた狂人曰く、「ドラゴンは腐り切った人間を滅ぼす地球意思」だそうだが、あながち間違ってない気もするぜ。"神が仕組んだ裁き"だとか、これがヨハネの黙示録だとかっていう説よりましだ。
俺は歩みを進める。そうだ。キャラバンだ。俺はキャラバンを目指してる。キャラバンってのは、この時代においての人間が作る集落のことだ。なぜ人類はそんなことをしてるかって、例えば、デカい街や要塞なんかを作ってしまうとドラゴンが来てしまう。ドラゴンどもは人間を殺し尽くすことを共通の目的としてるから、人口が多いほど、栄えてるほど狙われやすいんだ。実際、ニューヨークやワシントンDCなんかは神か悪魔かってぐらいの極悪なドラゴンたちが集まってるそうだし、この前行ったロサンゼルスに至ってはマジでヤバ過ぎた。だから行商人たちは移動しながらそのとき限定の小さな居住区を作る。ドラゴンに目をつけられそうになったら跡形もなくオサラバってわけだ。そんな感じのその場限りの集落でもモノはなんでもあるんだぜ。なんでもだ。食料、水、酒、それから人間の奴隷も売ってるし、ドラッグもある。だがそんなものは俺にとってはどうでも良い。俺の目当ては情報だ。主に求める情報は稼ぎ話やドラゴンの対処法だが、こんな体になってからはもう一つ用が増えた。それは、"禁断の紋章"と呼ばれるものについてだ。当然だが、直接的に禁断の紋章なんて単語を出すとその秘密を知ってる連中に始末される危険性があるから、それに関わっているであろうドラゴンの情報を探す。禁断の紋章ってやつには……今でも信じられないが……人間を、生きた状態で、人間のままドラゴンに変える力があるらしいからな。俺はこの目で見た。ロサンゼルスを一晩で滅した呪われしドラゴンたちを。呪属性ダムドゥドラゴン、憎属性ヘイトレッドドラゴン、怨属性グラッジドラゴン。思い返せば、いや、思い出したくもないが、奴らは見た目も性質もどことなく人間らしさがあったのかもしれない。人間の狂気がそのまま強大な力になったかのような禍々しさ。
「それこそが希望だ。禁断の紋章は、逆に、ドラゴンを人間に戻すこともあるかもしれないぞ」
というのはミス・エンドレスの弁だ。得意げな顔だったがどうだろうな。じゃあ、さっきの鏝属性アイロニングドラゴンはどうだってことを考えると、確かに人型ではあるがあれが元人間かというとそうでもないと思う。なんとなくだ。まあ、禁断の紋章を使って人間から生きたままドラゴンに変化したタイプの奴は例外なく恐ろしい。これは事実だろう。
ということは、つまり、俺はこの呪われた永遠の命とやらを捨て去るために、元人間のヤバ過ぎるドラゴンをどうにかしなくてはいけないってことだ。本当にまいる話だぜ。
俺は深くため息をつく。びゅう、とひときわ強い風が俺の頬を撫でた。風の音。季節が変わる。今となってはどうだって良いことだ。移り変わる気象で生を感じるなんてのもむなしい。再び周囲を見渡す。警戒を怠らない。誰もいない。人間も、ドラゴンも、動物や虫すらいない。虫がいないのはさすがにまずいな。貴重なタンパク質だ。雨も降りそうにない。食料と水がキャラバンまで保てば良いのだが。不死の体でも腹は減るし喉は乾くんだから。手に入れた情報から推測すると、もうすぐでそれらしき集落が見えるはずだ。
同じような風景を眺めながら1時間ほど歩き続ける。何かが見えた。人だ。行き倒れている女の死体を遠くに見つけた。死んでる。遠くからでも死んでいるとわかった。なぜなら、俺の見ている前でそいつの首が千切れて転がり始めたからだ。女の長い黒髪だけがまるで生き物のようにのたうつのが見える。ちょっと待て。あれは、あの動きは……まずい、まずい、まずいまずいまずいまずい!あれは人の髪でできたカラス!奴は!
"烏属性ドラゴンレイヴン"
「ゲエエエーッ!」
醜い絶叫と共に女の生首が飛び上がり、その黒髪の塊は瞬く間に増殖、人間の頭髪で巨大な烏のシルエットを作った!
「クソが!こんなところで!」
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