AI時代に蘇るアナログ手法:プロファイリングでChatGPTを最適化する実践ガイド
0.はじめに
ここ数年、生成系AIや対話型AIの進化は目覚ましく、ChatGPTをはじめとしたAIが業務や日常の中に組み込まれることは当然予想される未来となっています。
ただ、法務領域において守秘義務や個人情報保護を徹底する中で、抽象化した資料や一般論をAIにぶつけ、何かしらの洞察を得る——そんな使い方が主流かもしれません。
そんな中、実際に「ChatGPT o1 pro」を使っていて気づくのが、こちら側がいかに的確な“コンテキスト”を提示できるかによって、生成される回答の質に大きな差があるという点です。
特に意思決定支援やQAサポートをChatGPTに期待する場合、匿名化を施したうえで社内決裁者やキーパーソンの趣味嗜好・懸念点・評価基準まで“プロファイル”して提示すると、回答の精度がグッと引き上がることに気づきました。
本稿では、この「プロファイリング」というテクニックについて、その背景と有用性、実践的なインプット方法までを幅広く考察したいと思います。
1.背景:ChatGPT活用とその限界
ある程度使っている方は共管すると思うのですが、単純な質問をすると一般的な回答以上のものが返ってこないですよね。
たとえば新規プロジェクト承認を得るためのプレゼン資料構成をChatGPTに尋ねると、定石的なアドバイスは得られます。だが、それはあくまで一般論。
そこに「決裁者X部長が定量データ重視で、過去にコストカット成功事例を高く評価していた」という情報を加えると、「コスト削減に関連する数値根拠を強調する」という、より意思決定者の嗜好に即した提案が得られます。
つまり、AIは与えられた条件に忠実だが、条件設定が雑だと出力も平凡になりがちなのです。ここで「プロファイリング」の考え方が生きてきます。
2.なぜプロファイリングが有効なのか
プロファイリングとは、本来は捜査手法やマーケティングリサーチで用いられる、人や組織の性格・傾向・行動パターンを把握する手法です。
ビジネスにおいては、「誰がどんな指標で評価するか」「どんなコミュニケーションスタイルを好むか」を理解することで、提案や説明の説得力を飛躍的に高められます。
これをChatGPTに応用すれば、AIは提示されたプロファイルを前提条件として回答を生成するため、あらゆる提案やQ&Aがより「対象者にフィット」したものへとシフトします。
たとえば、あなたが新規投資プロジェクトの承認を取り付けたい場合、
A執行役員はリスク回避型で、海外事例を嫌い、国内実績重視。
B部長はスピーディーな展開を好み、多少荒削りでもインパクトを優先。
C顧問はエビデンス重視で学術論文や第三者評価を欠かさない。
こんな前提をChatGPTに読み込ませると、AIはその嗜好を踏まえた提案資料の構成、想定Q&A、クリティカルな突っ込みへの返答例まで出してくれます。
3.プロファイリングで押さえるべき項目例
では、具体的にどんな項目を押さえておくべきでしょうか。私の使っているフォーマットを紹介します。
こうした情報を整理し、ChatGPTへのインプット段階で「前提条件」として提示すると、AIはこの条件群をメタデータのように活用して回答を生成します。
4.情報収集テクニック:さりげないヒアリングからアナログ交流まで
ここで問題になるのが、どうやってこの「プロファイリング情報」を収集するか、という点です。公式なヒアリングで「あなたは何を重視しますか?」と尋ねるのは不自然ですし、相手も警戒するでしょう。
ここで有効なのが、日常会話や雑談、さらにはオフラインの社交場です。たとえば、
部内ミーティング中の何気ないコメントから嗜好傾向をキャッチする。
メールやチャットで「この間のコスト削減施策、どう評価されていましたかね?」とさりげなく問いかける。
コーヒーブレイクや昼食時、あるいは業務終了後に軽く交わす雑談で、興味領域(スポーツ、海外事情、法令遵守意識、エビデンス重視度)を少しずつ引き出す。
さらに、私が近年気づいたのは、オンライン主流の時代において、あえて「懇親会」や「飲み会」といったアナログな場が不可欠な情報ソースになる矛盾的な構図です。詳細は後述しますが、こうしたラフな場で得た断片的な情報が、プロファイルを埋めるピースとなり得ます。
なお、プロファイリングはされる側が良い気分にならないことが多いので、こっそりやりましょうね笑
5.ChatGPTへの具体的なインプット方法
ではプロファイル情報をどうChatGPTに提示すればよいのでしょうか。ポイントは「求めるアウトプット」「前提」「参考となるインプット」です。
ChatGPTにとって、これらプロファイルは回答生成時の重要な「布石」となります。プロファイルなしで「承認に向けたプレゼン方法は?」と問うのと、プロファイルを明示して問うのとでは、得られる回答の実用度が段違いです。
6.超アナログな「飲み会」の逆説的価値
かつて飲み会は「非効率」「時代遅れ」とされがちでしたが、実はこのような場だからこそ、本音や嗜好が露わになることがあります。新製品アイデアに対して「実はあの執行役員は過去に失敗した海外案件にトラウマがあるんだよ」という微妙な情報が、公式の場では決して表に出てこない。この些細な情報が、ChatGPTに投げ込むプロファイル要素として極めて有効なのです。
ある意味で、AI時代になればなるほど、“デジタル化しにくい情報”を得るためのアナログ手段が貴重なインプット源になっているのです。「超アナログ」な手法が帰ってきた事実に、少しおかしみすら感じますが、割と古典的な手法が生きる矛盾は、逆に時代の本質を示しているのかもしれません。
7.まとめと展望
本稿では、ChatGPT o1proを使う中で私が気づいた「プロファイリング」を行うテクニックについて論じてきました。要点を振り返ります。
ChatGPTを有効活用するためには、単なる質問ではなく、関係者や決裁者のプロファイル情報を事前に投入することが有用。
プロファイリング項目としては、ポジションや評価基準、コミュニケーションスタイル、組織政治や個人的嗜好まで多岐にわたる。
情報収集は、日常的なやりとりやオフラインコミュニケーションでさりげなく行う。
得たプロファイル情報を前提条件としてChatGPTにインプットすると、回答の実用性・精度が飛躍的に向上する。
AI時代だからこそ、飲み会などの“超アナログ”な場・手法が逆に価値を持つ
これらのポイントを念頭におくと、ChatGPTは単なるQAマシンではなく、組織内「コンテキスト最適化パートナー」として機能し始めます。
業務の最前線では、リアルな情報を的確に反映することで、意思決定やプロジェクト推進がよりスムーズになり、リスクマネジメントやチーム間調整も容易になるでしょう。
最後に、「プロファイリング」という行為自体が、もともと非デジタル的で、(あまりこの言葉は好きじゃないのですが)典型的な「JTC」的行動ですよね。
AIによる自動化が進むなか、人間の観察力や雑談力が再評価されるこの状況は、ちょっとした時代の皮肉とも言えます。ここに新たな可能性が眠っていると考えると、私たちに残された業務範囲は、まだまだ大きいのかもしれませんね~。