ドラクエウォーク #1 りゅうおうに狂う
9月12日、僕は勇者になった。
Apple Storeの魔界の扉が開かれたのだ。
世は、大冒険時代。
皆、現職を捨て、勇者へと転職したのであった。
僕はそのうちの一人。
いや、その者たちを先導する1人として、スマホを手に取り、魔界を徘徊する日々が始まる。
そして、魔界の敵を相手に己の技を磨く日々が続いた。
気付けば、その技は風をも置き去りにした。
時が来た。
そう思った僕は、ついに魔王狩りへと繰り出す。
りゅうおうという魔王を完璧にこの世から消滅させるには、高濃度の魂(こころ)を奪い取る必要があった。いわゆる「りゅうおうのこころS」である。
僕には自信があった。
なぜならこれがあったからだ。
自慢の剣と技でりゅうおうを次から次へとなぎ倒してゆく。
りゅうおうの声が時々聞こえてくる。
「もう勘弁してくれ」と。
しかし、僕はその手をゆるめない。
そうして辿り着いた討伐数は140体。
東でりゅうおう現れれば東へ向かい、西でりゅうおうの噂を聞けば西へ向かい、南でりゅうおうが海水浴をしていると聞けば南へ向かい、北でりゅうおうがラーメンを食らうと聞けば、北へと向かったものだ。
りゅうおうは手強かった。
なかなかSのこころを落とさない。
僕とりゅうおうとの綱引きは合コンにまで影響した。
集合時間間際にりゅうおう現れれば、りゅうおうを優先した。
二兎追うものは一兎をも追えず。
そしてその結果がこちら。
そう、Sはついに落ちることなく、りゅうおうは姿を消してしまったのだ。
こんなことがあって良いのだろうか?
費やした時間、ジェム。
犠牲にした合コン。
完敗だった。
りゅうおうは僕から全てを奪い去った。
立ち上がれ。
立ち上がれ。
ガンダム。
倒れたガンダムの気持ちが今なら少しわかる気がする。
同情するならジェムをくれ。
お金でジェムを手に入れることが出来るが、僕はそれをしない。
努力の力でお金を使う天才たちを打ち負かす。
カッコいいじゃないか。
だからこそ、りゅうおうのこころSが必要だったのだ。
しかし、叶わなかった。
時を戻せるならば、りゅうおうとは関わらない事だろう。
そして、ガチャを回すだろう。
皆さん、魔王の挑発に乗ってジェムを使い過ぎないよう、気を付けてください。
現場からは以上です。