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旅とおしゃれ、ふたたび

3月

盲導犬の姫と歩き始めてひと冬が過ぎた頃

娘ももうすぐ春休みだし、そろそろ姫と遠出してみたいな、名古屋位がちょうどいいかな
なんて考えていたら

大阪の友人からLINE

名古屋に行くんやけど出てこーへん?

以心伝心?
なんとグッドタイミング!

行く行く!と返事をしてから24時間も経たぬ間に友人が盲導犬OKのホテルを探して予約してくれ、行くことが決定していた

この友人、1人でどこへでも行くフットワークの良い、旅の達人とでも言うべき友

とにかく目的地にたどり着く嗅覚がすごくて、はじめての場所でも地図を見ればスイスイ行けてしまうし
何ごともチャキチャキ進めてくれる

だから初めての外泊でも、心配も躊躇もなかった



さて、名古屋で何しようか

まっさきに思いついたのはお買い物

田舎で店がない、
店があっても自力で行く交通手段がない、
店に行けても目が見えにくいので欲しいものを自分で見つけられない

という三重苦の買い物難民の私

まだ娘が赤ちゃんだった頃、子供が小学生になったら1人で街に出て買い物を楽しもうと思っていたら、そのタイミングで目が見えなくなってきてしまったので
かれこれ10年以上、街でぷらぷら買い物をする楽しさを味わっていない

もう自分で服を探すことも難しくなってきたから
この友人に会ったらぜひともお洋服の見立てをお願いしたかった

彼女とは20年以上前に同じ職場で出会い、よく一緒に遊び、お買い物もした

なんとなく服の好みも近いし私の好きそうなものも知ってくれている
それに私は彼女の身に付けているものが好き
なので、彼女に任せれば間違いない

今までネットで同じようなものを何枚も買っては、安物買いの銭失いをしてきた

もはやクローゼットの中はユニホーム化してときめかない

「カネに糸目はつけない、
満足する逸品を!」

と、友人に欲しいもののイメージを詳しく伝えた


そして無事、私は友人と店員さんにおだてられながら、気持ちよく買い物ができた

いつでもなんでも、いいね、としか言わない家族の言葉より、他人のお世辞のほうがなぜか気持ちよく乗っかれる

やっぱりお買い物は女友達とするのが楽しい
買い物は体験なのだ

素敵な麻のワイドパンツと人生で二足目のカンペールの靴、そして娘の服も

そう、娘の服を一緒に選んであげることも誰かの目を借りないとできなかった

お金はそれなりに飛んでいったが、10年分の鬱憤を晴らして10年分の満足感を得られたからむしろ安いものだ

ずっと行きたかった小倉トーストの店にも行けたし
甘味処や小籠包のお店でおいしいものも堪能できた

姫も、いつもと違う私の行動になんとか機嫌よく付き合ってくれて
友人のおかげで楽しい旅デビューになった

そして同時に、見えない見えにくい人でも旅を楽しむためのヒントやコツを体験として一気に吸収できたことはものすごく大きかった

もうどこへ行くのも怖くない、といきなり海外が頭をかすめるほど心は旅に自由になれた

もう旅行は楽しくない、無理だろうと、いつの間にか固く閉めてしまっていた瓶の蓋が一気に開いて黒いガスが抜けたようだ

私のやりたいことばかりに付き合ってくれて、ホテルの部屋までプレゼントしてくれた友人

お世話ばっかりかけてしまったけれど、何より私の変化する世界を一緒に面白がってくれているようなので、何の気も使わないでいられるのがありがたい

そんなに友人が多いわけではない私だけれど
出会う人には恵まれているなぁと最近つくづく感じる

そして同時に、そんな人たちに自分は一体何ができるかなと少し切なくもなる

それは、すぐに返せなくても、同じことで返せなくても、いつも心に留めて考え続けていくことが私のこの先の人生に課された大きなテーマだと思っている

ところで、人生2足目のカンペールの靴を買ったのは、想定内であり想定外でもあった

15年以上前、初めて買ったカンペールの靴がすごく気に入って雨の日も風の日も履き倒し、最後は草履になるくらい履きつぶしてしまったので、いつかまた購入したいなと密かに夢見ていた

それで名古屋に行くと決まった時、時間があったら行きたいなと名古屋の店をチェックしていた

ホテルに着き談笑中、そのことを友人に話す前に、友人が私の履いてきた一張羅の靴を見て言った

なんかその靴すごいことになってるで

え?

自分の靴をよく見たら、合成皮革の表面がシワに沿ってはがれるどころか所々が卵の殻が剥けるようにまだらにはげ落ちていて、観るも無残なみすぼらしい状態になっていた

合成皮革の安物とはいえ、買って1 、2年、自分の中では1番大丈夫だと信じ込んでいた靴がこんなにひどかったとは…!

目の悪い人の落とし穴に完全に落ちていた自分に笑うしかない

娘に、気づいていた?と聞いたら、そんなものだと思っていた…と。

やはり家族ほどテキトーであてにならないものはない

そして翌朝一番にそのみすぼらしい靴でカンペールに行き、堂々と素敵な靴を購入し、堂々と履いてきた靴を廃棄してもらった

目が見えていたらそんなこと恥ずかしくてとてもじゃないができない

多少カッコ悪くても、えーい!と思い切れてしまうのは、目の悪さがもたらした怪我の功名かもしれない

そしてそれは姫が相棒になってから、姫の可愛さを盾に益々拍車がかかっている

視覚障害✖️オバチャン➕犬
で、図々しさ、いや、たくましさが2乗どころか3乗4乗と加速している今日この頃である

やっぱりカンペールは履きやすい、そしてかわいい

店を出た時から、いやもっと前の試着をした時点から、ずっと昔から履き込んでいたかのように私の足に吸いついて、卵殻斑文様似非革履物などなかったことのようになっている


これは躊躇なく2足目を買うように仕組まれた神様のいたずらだったのかもしれない、と過ぎて仕舞えば記憶は都合よく書き変わる

これからこのお気に入りの靴を履くたびに「身なりに気を抜くな」という天の声を聞き、電車の中でぼんやり足元を見つめるたびにこの旅のことを思い出してひとりにんまりしてしまうだろう




















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