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七夕に舞う! イロドール③
七夕の魔法
「いーち、にー……っ!」
「はぁ、はぁ……」
七夕当日。
陽平は風を切るようにグラウンドを駆け、疲れてしまった。
「ヨウ、スピード落ちたんじゃないか」
「しばらく動いてなかったからね~」
「……考えてみれば、無理もないよな」
アクリが心配そうにスポーツドリンクをくれる。
確かに言われたとおりで、陽平は悔しく思った。
「そろそろ終わりにしよう」
「うん」
予鈴に合わせて坂を登ろうとしたとき、
「高城くん、氷河くん」
「ひかり先輩!」
「舞台の準備ができたわよ!」
自分たちに手を振るひかりの姿が見えた。
「行こう」
「うん!」
アクリと顔を見合わせ、自ら昇降口へ向かう。
「高城陽平」
「氷河アクリ」
「レッツマジー、イロドール!!」
陽平は光の中で合流したアクリと手を合わせ、ブローチの輝きとひらひらの衣装に身を包んだ。
陽平は歓声に包まれたステージに立ち、元気よく跳ねる。
隣から伝わる息や足音もばっちりだ。
「未来をいろどるリングをこの手に」
「きらめきの世界へ誘おう」
「イロドリング、フルフル!」
陽平からアクリへと声が流れ、星のリングが瞬く。
「オレたちの魔法、受け取って!」
その光とともに数多のキャンデーを降らせてみせた。
「わぁ~っ!!」
「アメだ~!」
「きれいな色をしているな」
「甘くてとろけそう~!」
全校生徒や職員、ほか観衆から感嘆の声が上がる。
「ふたりらしく、素晴らしい演出だ」
「動きも合っててええな~!」
「橋渡しができて、ほんとによかった……」
前席で見ていたタツキや進太からも歓喜の声が上がる中、ひかりは嬉しそうな涙を流している。
「アクリ、大成功だね」
「そうだな、ヨウ」
それを見届けたふたりは笑い合い、カーテンコールを投げた。
「ご鑑賞、ありがとうございました!」
終わりの始まり
「ヨウ、お疲れ」
「お疲れさま、アクリ」
イロドリショーが終わってから、陽平は上着を羽織る。
これまたアクリが先に着替えを終えていて、
「僕の母さん、今日付けでここ辞めるんだと」
「そうなんだね」
「決定が遅いくらいだけどな」
「まあまあ~」
卒業するまで安泰だろう……と涼しげな顔をしている。
いい大人に翻弄されてきた事実はあっても、陽平は苦笑するしかなかった。
「高城くん、氷河くん、着替えているところごめんね」
「ひかり先輩! お疲れさまです」
駆けつけてきたひかりの手から冷たいスポーツドリンクが自分たちにわたり、
「会長、腕章は……?」
「外してあるわ」
「どうしてですか」
アクリの指摘もあり、陽平は問いただす。
ひかりが『よく気づいたわね』と、そっと差し出してきたのが、
「明日、ここを出るの」
退学届であった。
「え!?」
陽平は驚いた。生徒会長としてイロドリショーを支えてくれた彼女が、ここを出ていくというのだから。
(急すぎるよ!)
アクリも陽平と同じように思ったのか、
「卒業までまだ時間あるのに、早計じゃないですか」
冷静に、かつ不安そうに詰めかけている。ひかりからは『わかっているわ』と返ってくるばかりだ。
「あなたたちにこそ、この学園を引っ張っていってほしいの」
「…………」
ここまで言われたら反論できない、と陽平は思った。なぜなら、
(オレたちの仲、先輩だけが知ってるんだよね)
この学園に入学したとき、奇異な目で見られていた自分たちを救ってくれたのが彼女だから。
「ヨウ」
そこで、アクリが寂しげな顔を押しつぶすようにこう言った。
「今後は僕たちが、この学園を守っていこう」
イロドールの伝説をつくって、彼女に恩返しをしようと。
「……うん」
これも終わりの始まりだもんねと、陽平は頷く。
「ひかり先輩!」
「今までありがとうございました」
「うん」
ふたりで別れを告げると、ひかりは満面の笑顔で去っていった。
「……行っちゃった…………」
陽平はただただ泣いた。その隣でアクリも鼻をすすっていて、
「ヨウ…………」
僕たちもそろそろ……としか言うしかなかったようだ。
未来を見据えて(エピローグ)
あれから月日が過ぎ、イロドリ学園じゅうが淡い桜色に染まりゆく。
「ヨウ、仕事するか」
「うん」
二年生に進級した陽平は生徒会長になり、アクリは副会長についていた。
イロドリショーにかかわる三枚のエントリーシートを受け取ろうとしたところ、
「あ……痛かったよな、悪い」
「大丈夫」
お互いの手元がぶつかり、左薬指の宝石が輝きだす。それはすなわち、
「おふたりさん、ラブラブなとこ堪忍な~!」
進太がいうところの――パートナー同士になったことも示していた。
「進太……どうしてそこに」
「生徒会書記になったんだよね」
「せやで!」
かくいう進太も『ふたりを支えたる!』とひとり盛り上がっていて、
「……まったく、タツキ先生ときたら」
「まあまあ~、楽しいほうがいいじゃん」
アクリは呆れたような表情を浮かべている。
陽平はクスクス笑いながら、
「あっ」
折り目が比較的少ない二枚目、みずみずしい双子の写真に目をやった。
「この整った顔、おまえにそっくりだね」
「アクリ、弟がいたん?」
「まさか」
「冗談やて~」
進太がおもにからかうので、アクリが『やめてくれ……』としながらも、
「このふたりから、キラキラとしたオーラを感じる……」
エントリーシートを見てずっと微笑んでいた。
「こいつら、適任かもしれへんな~」
「声をかけてみようか」
陽平は廊下に出て、窓越しの青空を見つめる。
かつて自分たちが見せてきた栄光を、次なるイロドリショーを見せてくれたらいいな……と。
あとがき
ぽかぽかな秋もつかの間、すっかり暖房がいる季節になりましたね!
改めてどうも、夏生るいでございます。
本名義で初のショートショートとゆうことで…約3か月という短い間でしたが、おかげさまで完結いたしました!
この私、『やもり』というペンネームで劇中関連イラストを手掛けていたり、オフではものづくりのお仕事をしていたり……いろいろとハードな環境下でのプロジェクトだった故、かなり駆け足気味になったことは言うまでもないと思いますので(苦笑)
こんな拙い作品を最後までお読みくださった方々に、なんて言っていいのか……心から御礼申し上げます。
それと、ちょこっとnoteでも公開している2作目『神永マサルシリーズ』の試作品についてのお話を。
マサルさまのビジュアルが思いのほかウケたようなので、来年未明から掲載をスタートさせていただくことになりました!
イラスト(ここではヘッダー画像)のほうも引き続きやもりがつとめます。
本作と同じように月1での展開を予定しているので、これからも応援してくださいね。
それではみなさん、あと1か月お元気で!!
令和6年11月30日 アトリエやもり原作担当 夏生るい
おまけイラスト3選 ※X(Twitter)から出典
![](https://assets.st-note.com/img/1732928401-gDOCfMw19dTb5N8VjuBs3YiE.jpg?width=1200)
アクリル板にインクが降りかかっているような構図で描きました!
目の色がツートンになっているのはアドリブですが、思いのほかウケたようです。
![](https://assets.st-note.com/img/1732928622-sl1k8CHPTa0WGRLxoeJDXFi9.jpg?width=1200)
作者もたまに貰って食べます、美味しいですよね!
陽平くんも一緒に描こうとしたのですが、時間の関係上ぬいぐるみ化しました
![](https://assets.st-note.com/img/1732928872-MQBTy4NSVcHbtCJr2uji3sFP.jpg?width=1200)
陽平くんからマサルさまへバトンをつなげることを想い、SDサイズで描きました
神永家でのシーンでは毎回お手製のオレンジジュースがでてきます、いいなぁ~(笑)
©夏生るい&やもり/アトリエやもり/note