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ブルターニュ:モルレー

「夏のバカンスには良いところです。大西洋岸よりは案外静かですよ。ただ、おそらくはモルレーの街ではなく、少し北の街を話されているのでしょう。確かにモルレーからも船はありますが、おっしゃりたいのはもしかするとロスコフでしょうか。」
いや、海ではなく高架橋が見たいのだと言うと、顎髭をさすりながら彼はこう続けた。
「血塗られた歴史です。確かに美しい鉄道橋ですが、それ自体はさして古くはない。いや、新しい方が良いのです。教会を見下ろすような鉄道橋です。むしろその教会を訪ねられたらどうでしょう。危なっかしい鉄道橋よりもきっと落ち着きます。」

 モルレー(Morlaix)の街のハイライトは、谷底にある。モルレー川が街の中心を貫き、その流れはまもなく英国側に面するモルレー湾に注ぐのだが、その谷を越えるために鉄道橋があるのであって、街は鉄道を見上げる形となっている。モルレー川は川とは言っても湾まで繋がる海の一部みたいなもので、街の下流側にはたくさんのヨットが係留されている。夏には華やかな雰囲気も感じる事ができるだろう。ただ、このモルレー川が街を戦果に巻き込む原因となる。
 16世紀、イギリス(イングランド)とフランスは敵対関係にあって度々大きな戦争が起こった。特にイングランドが神聖ローマ帝国と結んだのちは関係がかなり悪化し、イングランド艦隊がシェルブールを攻撃して後現れたのがこのモルレー沖だった。イングランド軍はモルレー川を伝って街に侵入し、掠奪の限りをつくしたらしい。
 時代は下って20世紀、やはりモルレーは戦果にみまわれる。第二次世界大戦半ばの1942年、フランスの北西半分はナチスドイツ占領下にあり、首都パリからノルマンジーそしてブルターニュと、イギリスや大西洋側の港町は完全に封鎖されていた。連合軍による有名なノルマンジー上陸作戦は、このフランス奪還作戦の一部である。当時の大西洋に向いた主要な軍港といえば、サンナゼールとブレストという事になる。そして、フランス中心部からブレストに向かう鉄道が通る街のひとつこそモルレーである。モルレーの鉄道橋を落とせば復旧は容易ではない。補給を断つためにも、モルレーは破壊される必要があった。

 モルレー駅は当然だが丘の上にある。鉄道橋のすぐ近くに駅があるのである。そこから狭い坂を少し下って鉄道橋の下を反対側に渡っても良いが、まずは下まで降りて鉄道橋を見上げた方が良いかもしれない。旧市街にはまだ少しだけ伝統的な木組の家も残っているし、鉄道橋を見上げる風景こそがモルレーらしい風景そのものだからである。
 ブレストからなら車で1時間もかからない。鉄道ではなく、レンタカーでも良さそうだ。街中にも駐車場がある。

鉄道橋は当たり前のように街中を横断する
街に降りる道もどこか風情がある
裏町に入れば普通の田舎町

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