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ブルターニュ:ブロセリアンドの森

「あぁ、ブロセリアンドの森ですね。今はパンポンの森と呼ばれています。とても美しい森です。興味をお持ちですか。遠方からの方には珍しいですね。これまでブロセリアンドの森のことを聞かれたことはほとんどありませんでした。まぁ、わざわざ遠くから訪ねるような場所ではないと思いますよ。もっと他にたくさん良い場所があります。そうだ、教会巡りなどいかがですか。この近くにもなかなか美しい小さな教会がたくさんあります。」
彼はそう言ってコーヒーを一口飲むと、遠くに見える教会の尖塔を目で示した。
「そうですか、どうしてもブロセリアンドの森が見たいのですね。であれば必ず陽の高いうちにお訪ねなさい。たくさんの人がハイキングコースを歩いています。道に迷うことはないでしょう。決して陽が落ちる頃まで森で過ごさないように。夜は冷えますから。」

 パンポン(Paimpont)の森へは、ブルターニュの玄関口レンヌからバスが通っている。約1時間ほどで着くが、本数も多くないし、バスを降りてからはタクシーか自転車となる。名所が20km四方ほどの範囲に分散している上に坂もあるので、よほど健脚でないと自転車は大変だろう。可能であればレンヌからレンタカーが良い。
 パンポンでは、どこに行ってもアーサー王伝説を感じることができる。古い城もいくつか残っていて、中に入れば何某かのディスプレイで楽しませてくれるし、パンポンのお土産屋さんではドラゴンのフィギュアなどが買えるかもしれない。アーサー王と円卓の騎士は、ブルターニュにとってなくてなならない要素の一つなのだ。
 もしあなたが大人なら(きっとそうに違いない)、マーリンの魔法や古い城に展示された甲冑よりも森の中を散策する方を好むだろう。「帰らずの谷」(Le val sans retour)は、よく整備された10km以上続くハイキングコースとなっている。もちろん不実な男性が足を踏み入れれば254人目の囚われの身となる可能性があるのだろうが、最近はそんな話をとんと聞かない。駐車場から歩き始めて1kmも行かないうちに、近年の山火事を思い起こすために作られた「黄金の木」(L'Arbre d'Or)があり、まもなく視界が開けマーリンの場所(Siège de Merlin)が現れる。ここだけで帰ってくるなら1時間あれば十分だろう。ベースとなる街にはカフェやクレパリーもあって、小さな観光地となっている。
 玄関口のパンポンにもたくさんのカフェやお店がある。立派な教会の向こうにあるパンポン池の周囲はゆっくり散策できるし、教会横のポルトデシークレット(la Porte des Secrets)は、多少子供向きかもしれないがブロセリアンドの魔法を知る小さなテーマパークのようでもある。お土産屋さんにも事欠かない。コーヒー豆の焙煎をしている会社も近くにあって、案外小さなリゾートのようである。
 もちろん英語など通じない。若い人なら英語を話すことも多いだろうが、アジアやアメリカ大陸から観光に来るような場所でもないからあまりあてにしてはいけない。それでも時間があれば立ち寄ってみてもよい。魔法使いと妖精にだけは注意して。

潔白なら井戸を覗き込んでも大丈夫
パンポン池
パンポンの門と外側のレストラン

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