読書の記録〜『嵐の王』 カイ・マイヤーふたたび
『嵐の王』は、ドイツ人作家カイ・マイヤーの作品。
「1 魔人の地」「2 第三の願い」「3 伝説の都」の三編からなっていて、結構な時間をかけてようやく読み終わった。
カイ・マイヤーを知ったのは『鏡のなかの迷宮』との出会い。
表紙に翼のあるライオンとピラミッドが描かれていたものだから、
ついamazonで買ってしまったんだろう。
『鏡の〜』も「1 水の女王」「2 光る石」「3 ガラスの言葉」の三冊で語られている、触れ込みは児童文学、ダークファンタジーという括り。
この物語が旅につながっていったことは、別のところにも書いた通り。
そんな期待も多少こもって、同じ作者の『嵐の王』も購入。
主人公ターリクが空飛ぶ絨毯に乗っている表紙のイラストは、数年前に読んでハマった漫画『マギ』を彷彿とさせ、それはやはり「千一夜物語」がベースになっていたりするんだろうかと想像させる。
『マギ』の時から気になりつつも、白状すれば原典にはいまだ、あたっていないんだけど。
物語は「千一夜物語」に描かれたであろう中東の、実在の都市「サマルカンド」や「バグダット」を舞台に繰り広げられる。
…と、サマルカンドって、どんな都市だったっけ?と調べてみたら、なんと奈良市と姉妹都市提携を結んだらしい!
「水の女王」→「お水取り」から、すごいところにまた繋がるものだ。
アラビアって感じの玉ねぎ屋根のモスクや装飾、まるでおとぎ話の舞台そのもの。今までそんなに惹かれなかったけど、本物を見てみたくなってきてしまう。
ファンタジーとはいえ、舞台背景やその歴史を知った方がさらに物語に入り込めそう。…ともう読み終わってから思うけど、読んでる途中で調べちゃうと脱線しまくるし、下手したらネタバレになる恐れもある。
空飛ぶ絨毯といえば、ディズニー映画『アラジン』もすぐに思い浮かぶものの一つだけど、そういえば私、それすらもまともに全部見ていない。
かの有名な主題歌と、それに付随するいくつかのイメージの断片をつなぎ合わせながら、『嵐の王』も読み進めていたんだろうな。
でもよくよく考えたら、主人公ターリクはアラジンだし、ヒロインのサバテアはジャスミンだし、願いを叶えるイフリートはランプの魔神ジーニーじゃないか、と、これも今さらながら思う。
だけど、子ども向けのファンタジーとは言えない残酷な描写も多々含む『嵐の王』は、私的にはアニメーションでは耐えられないヤツ…
いやむしろそういうアニメはいっぱいあって、『鬼滅の刃』もなんであんなに人気だったのかだけは気になって、姪っ子が見てる横で第1話だけチラ見してたけどやっぱり無理で、血とか…
漫画ならなんとか、と思って読み切った。
文字だけなら、もっとなんとかなる。
サマルカンドで始まった物語も、すぐにその防壁の外へ飛び出していく。
防壁の外は魔人や魔物に支配される砂漠の地…
設定だけ見たら、これもまた日本の漫画やアニメに思い至るんだけど、それはそのまま、現代社会という檻とそこから抜け出そうともがく人々を象徴しているようでもある。
どんな時代であれどんな社会であれ、ここではないどこかの物語を求めていて、登場人物が状況を打破することでスッキリしたり、逆にそのもっと過酷な環境に比べたら自分なんてマシって思うことで救われたり。
「魔法の暴走」を現代社会に当てはめるとしたら…
作品がミヒャエル・エンデと同じくドイツ人の手によって書かれていることもなかなかに意味深だけど、深読みしすぎず純粋に物語として楽しんでももちろんいいのだ。
しかし一癖も二癖もある登場人物たちと、敵がいつ現れてもおかしくない状況にハラハラしっぱなしで、読み進めるのに大変苦労した。
本を読んでいる立場であれば、いつでも読み進めることを中断できるけど、アニメや映画だったら息もつけないような展開に、とうに挫折してただろう。
そして、主人公を筆頭に登場人物たちの性格が悪いw
みんな何かを腹に隠して探り合いながら、敵の襲撃もあるのに、いつ仲間の裏切りが起きてもおかしくない。
生きるか死ぬかの世界であれば、血の気の多さは許容範囲というか、そうでなければ生き延びることだって難しいのかもしれないけど、え、そこでなぜ小競り合いを始めるのだ?!というシーンが多々ある…
読み終わってしばらく経ってみたら、人間が本来持ってるサバイバル能力のようなものが、現代の日本では過剰に押さえつけられてるんじゃないかという気がしてきた。
どこかで強く押さえつけられてるものは、他のところに出口を求めてる。
なんだか自分のそういうものが疼いているようなこの頃。
旅番組を見ていたら、ウズベキスタンに行ってみたくなってきた。
小説はサマルカンドからバグダッドへの長い長い旅だけど、タシケントとサマルカンドを結ぶ砂漠の新幹線に乗ったなら、ターリクたちの旅の気分を少しでも味わえるだろうか。
魔人に遭遇するのはお断りだけど…