おみやげってなんだろう
10日間ほどの北海道滞在が終わり、バスと電車に揺られて空港に向かった日曜日。今回の滞在は、江別市の大麻銀座商店街にあるゲストハウスで「共同売店がある暮らし」展をすることと、滞在先を中心とした暮らしを体感することが主なもので、結果ほとんど観光らしいことはしていないことに、改めて空港で気づいた。楽しみ方はまだまだあるけど、やり残したことがあるくらいが、きっとまた来たくなるからちょうどいいはず。なにより、普通では体験できないことをこの短期間でたくさん体験させてもらった。
空港内に立ち並ぶみやげもの屋が開店準備を始めた時間帯、チェックインまでの少しの時間であちこちを散策していろんなものを物色したけれど、なんだか違和感を感じて思った。「おみやげ」ってなんだろう?
誰に?何を?何のために?を考えながら白いなんちゃらを手に取ったり海鮮の瓶詰めをじっと見つめていてふと思い出す。
私のリュックにはアップルパイが入っている。
アップルパイ
それは出発前日の夜、滞在中お世話になった商店街の橋本さんがくれたものだ。橋本さんは、江別市の大麻銀座商店街というところで大学生たちが何かにつけて活動拠点にしているcommunity HUB「江別港」の代表。大学生たちを中心とした若者と地域をつなぐ様々なプロジェクトがここを中心に動いているらしい。私は今回、観光協会や商店街の研修事業のイベントなどでご一緒させてもらって、彼の日々の激務っぷりを垣間見た。
1日1日、おそらく行政関連の書類仕事や個性豊かな商店街のあれこれをとりまとめたり、学生たちの面倒も見つつ自分の店もやるという激務に追われているはず。だけどある日、夜遅くの会議を終えたあと、彼は3月の卒業シーズンで江別港に集まる大学生たちのために、これからアップルパイを焼くのだという。え、今から?
調べてみたらパイ生地を作るには、材料を練ったあとどうやら2時間ほど寝かさないといけないらしい。今から生地を練って冷蔵庫に入れたら、一旦家に帰ってまたアップルパイを焼きにくるのか。完成するのはおそらく夜中の3時ごろになるだろう。
江別港に集まる学生たちは幸せだなと思った。完成したのが何時だったのか定かではないけれど、へとへとになりながらも未来を担う彼らのために作ったそのパイには、きっと橋本さんの、地域のこれからや行き交う人たちへの色んな想いが込められているはずだ。そんなアップルパイを、私は出発前日にお裾分けしてもらった。
手にした量産型ビジネスのお菓子の箱と、背中のリュックに入っているアップルパイの存在感の重さの違い。
もちろん市販のおみやげ品の開発にも沢山の人が関わっていて関係者の想いが乗っていると思うけれど、私にとっては圧倒的に価値が異なるように感じられて、市販のおみやげにはほとんど手が伸びなかった(自分用の塩辛は買った)。だって、私のリュックには橋本さんのアップルパイが入っているから。
人に語りたくなるストーリーを纏った時、ものには存在以上の価値がある。
暮らしを見つめることに重きをおいた滞在は、こういう胸熱な体験ができるから面白い。