ずっと変わらないものとほんのちょっと変わったもの
ずっと使っている腕時計がある。
中学生のころ、閉店セールでたたき売りされていた腕時計で、親に買ってもらったやつだ。確か5000円もしなかった。
大人になってこれまでに何度か他の腕時計を買ったこともあるけれど、どうもしっくりこなくて必ずこれに戻る。
特段いい時計なわけでもない。でも、電池を入れ替えてかれこれ20年使っている。
これの電池を入れ替えるのに、いつも通っている時計屋がある。
この時計を使い始めてからずっとだ。
無愛想で強面の時計屋で、ほとんど喋らない。きっと近所のホームセンターの方が安い。
でもなぜか、この時計の電池交換はここでやらないと落ち着かない。
安い時計をずっと使い続けて、何度も電池交換にくるものだから、通い始めて何年か経った頃に一度店のオヤジさんにボソッと話しかけられたことがある。「ずっとこれを使ってるんだね」
無愛想で無口なオヤジさんだったから、話しかけられてびっくりした。「はい」としか返事できなかった。
「最近はみんなすぐ時計を買い換えるからなぁ、大事に使えよ」
東京を出てから数年が経ち、この時計もとっくに電池が切れていたけどずっと持ち歩いていた。
四月の半ば、個展のために上京するとなった時にふと、時計屋のオヤジさんを思い出した。
しばらくしていなかった腕時計、電池交換してもらおう。まだ時計屋はあるだろうか。
商店街を抜けたところに店が見えた。店に入るとオヤジさんが俯いて小さな腕時計の修理をしている。腕時計を差し出して、「電池交換お願いします」と言うとオヤジさんは私の顔も見ずに時計を受け取り、無言で手早く蓋をあけた。時計の中身をちらりと見て、電池を入れ替える。あっという間だった。「前にも来たね」代金を支払おうとした私が財布から顔をあげると、不器用に微笑んだオヤジさんがいた。