私のファムファタルの話
私は異性愛者だけど、過去には恋人より親密だった女の子達がいた。その時々、私が男だったらこの子の恋人になってたんだろうな〜とぼんやり思っていたけど、その数多の女の子達に私はずっと1人の女の子の面影を探していたんだと思う。
その子とは小学生の頃から顔見知りだったけど、仲良くなったのは13歳の頃。髪が長くて中学生で既に170㎝近い身長と40㎏の体重、白くて細い身体で、トミーフェブラリーに似た顔立ちだったからここではトミーちゃんとする。(トミーフェブラリーのCDを貸してくれたのが最初の頃の交流だったから記憶が上書きされてるのかもしれない。)
トミーちゃんはサブカル女子の走りみたいな子で、私にロリィタやブライスを教えてくれたし一緒に作詞の投稿掲示板に詞を投稿したし、私をギターショップやCDショップに連れて行ってくれた。
それまで引きこもってピカチュウ元気でちゅうやらゼルダやら牧場物語ばっかりしてシャーマンキングやNARUTOの二次創作を読み漁っていた私にはロングヘアを揺らして長い足で難波や心斎橋を闊歩する彼女が眩しすぎた。初めてメイド喫茶に行ったのもトミーちゃんとだった。いつか一緒にメイド喫茶で働きたいと本気で思っていた。
私は今キャスキッドソンの財布を使っているけどこれも彼女が教えてくれた素敵なものの一つで、コロナで破産申請したキャスキッドソンのニュースを聞いて慌てて購入したものだ。
彼女は可愛くて傲慢で不遜で我儘だった。B級映画も大好きな彼女は映画に出てくるちょっと不良の女の子の振る舞いをあえてしていたのかもしれない。
そんな彼女の厨二病らしい願いは『怒りで廊下のガラスを割れるようになること』だった。今思い返しても最高に可愛い…
ちゃおやりぼんで掲載されているちゃちなおまじないは私達に相応しくないとばかりにインターネットで黒魔術やらなんやらを検索しまくってバレンタインには媚薬の作り方を調べたりしたし、満月の夜にはそれぞれ家を抜け出して川に星を見に行ったし帰り道は24時間営業のスーパーで売り物の蒸しパンに指で穴をあけて帰った。
朝帰りした私は両親にこっぴどく叱られたけど大人にはこの尊さはわかるまいと思っていた。
でもある日彼女は学校に来なくなった。
インターネットで知り合った大学生と付き合い始めたことも知っていたし、3人で遊んだりもしたしそれぞれからそれぞれの相談を受けてもいたけど、気がついたら2人は駆け落ちして私の傍からいなくなっていた。
学校の先生から何か知っていることはないかを聞かれたけど、何も知らないことが屈辱だった。
ちょっと悪くて可愛いトミーちゃんがいなくなった後の私は垢抜けないメガネのオタクぼっちでしかなくなってしまった。
その後もちょこちょこ連絡があったり顔を合わせる機会がないわけではなかったけど、東京に行って何かのオフ会に参加したりアマチュアの作るゲームに声優として声をあてたりして、私がいなくてもトミーちゃんはずっと可愛くて傲慢で不遜で我儘だった。私が東京に憧れ始めたきっかけは間違いなくトミーちゃんだ。
高校生の頃に顔を合わせたのを最後にトミーちゃんとはぱったり縁が切れた。高校生の私はずっと変わらない彼女と話をするのが苦痛なくらいには大人になり始めていた。
風の噂で20代前半くらいに女の子を産んだことを聞いた。今現在のトミーちゃんがどうかはわからないけど、品行方正な親になった彼女にも会いたくないし親になっても変わらず傲慢で不遜な彼女にも会いたくない。
でもそのお嬢さんが14歳になる頃、その姿を垣間見ることができたら良いのにと思う。
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