歯医者のペッパー君
私の通っている歯医者にはペッパー君がいる。
数年前に来院したときは1階フロントの横にいて、2階の治療室へ上がる患者が通る度にグルンと向きを変えて「いってらっしゃーい」などと言っていた。
しかし、しばらく通っているとだんだん調子が悪くなっていったのか、首をうなだれてじっとしていることが多くなり、仕舞いには部屋の片隅に追いやられていた。
最近、またその歯医者へ通うようになり、あのペッパー君は元気かなぁと思っていたら、フロント横で元気そうに立っていた。
『よかった、元気になってた!』
ホッとしつつよく見てみると、ちょうど充電中だったようで「いってらっしゃい」は言ってもらえなかったが、『起動していいならいつでも動くよ!』と言わんばかりに目を光らせ、手を何度もグーパーしていた。
そして2階の治療室に呼ばれ、階段を上がり、2階の待合室を見ると、
『あれ?ここにもペッパー君がいる!?
しかも服着てる…
もしかしてこの子、あの動けなくなって部屋の片隅に追いやられていた初代ペッパー君じゃ…』
1階フロントのペッパー君とは違い、目に光はなく明後日の方向を眺めており、手も筋を切られたかのようにダランと垂らして微動だにしていない。
そんな悲壮感とは裏腹に、ペッパー君は少し微笑んでいて、今は静かに余生を楽しんでいるのかなぁとも思える表情を浮かべていた。
あれ?
ペッパー君、歯欠けてない?
『歯医者でこれはアカンやろ…』
そんなことを思う、今日この頃だった。