ステレオのギミック
わが生家の隣は、従兄の家だった。
1つ2つの歳の差など無きに等しく、
いつもツルんでいた幼き日々。
「…ぉ~っと、耳に五寸釘かぁっ!?」――
反則技何でもアリの流血プロレス、
昭和なデス・マッチ――絶叫のアナ実況。
夏の夜のゴールデン・タイムに2人して、
キャッキャ騒いで観ていたのは従兄ン家だ。
さらに四つ足、金襴張り観音開き扉仕様の
でかい木の箱が謎だったのも、従兄ン家。
「…ボクにも触らせてくれないョ」
――と、従兄も唇トンガらせる昭和な謎箱。
ふふ、正体は〈デカいステレオ〉。
一度、内緒で扉を観音開いた。
ちっちゃな裸電球が内部を厳かに照らす。
まるで洞窟を覗いているかの気分に…。
ウチのは、コロムビア製ステレオだった。
コドモなら中に入れそうなスピーカーが、
上開きプレーヤー本体を両側から挟む。
『剣の舞』『白鳥の湖』やら
お気に入りは数あった。
いちばんは、男児のメカ好き傾向に洩れず、
“針”を盤に載せるギミック。
“針”を所定の位置まで手で運び、
レバー操作で油圧の如く着盤、って仕組み。
飛行機の離発着、みたいな脳感遊戯。
“針”の離発着をしたいが為にレコードを聴く、
と言っても過言では…(いや、過言…だ)。