良いデザインには、良い意図がある| ATQの「知っておこう」vol.3
月曜担当、ATQデザイナーのトラです!
今回はスイス生まれの書体デザイン界の巨匠、アドリアン・フルティガー(Adrian Johann Frutiger)(1928–2015)と、彼の代表作であるUnivers・Frutigerの2つの書体から、デザインの意図を汲み取るフォント選びについて語っていきます。
前回に引き続きフォントのお話です。前回記事をまだ読んでいない方は是非一緒に読んでみてください!
アドリアン・フルティガー
アドリアン・フルティガーは、20世紀後半の書体デザインの大きな影響を与えた、スイスの書体デザイナーであり、書体に興味があるデザイナーなら誰しもが名前を知っていると思います。
彼は1928年にスイスのアルプスの麓にあるインターラーケン近郊で、機織り職人の子として生まれました。
子供の頃から自分でさまざまな文字を自作して過ごしており、大学卒業後にパリのドベルニ・アンド・ペイニョ社でフォント開発を担当するようになり、後世に名を残す名作書体を次々に制作しています。
今回は彼の代表作Univers・Frutigerの制作背景と制作意図を紐解いていきます。
Univers:1957年
Universは12のファミリーで構成されており、世界で初めてフォントのファミリー化を取り入れた書体です。
ー 制作背景
Universが生まれたのは1957年。第二次世界大戦が終結して、日本は高度経済成長期に入っているような時代になります。
印刷の世界では、オフセット印刷が普及し始めます。これにより、高速で印刷することが可能になりました。印刷技術の向上とともに、組版にもスピードアップが求められるようになります。
また、1950年代は金属活字から写植活字へと移行していく期間でした。金属活字とは、文字が刻印された金型を組み替えて組版を行う印刷方法。写植活字は、金型の代わりにレンズや印画紙を使って文字を組む技術です。
写植技術により、文字の大きさや、文字組みの自由度が大きく向上しました。これらの背景からより多くの太さや、文字幅を揃えた書体=ファミリーの重要性が増したと考えられ、Universのルーツにも納得が行きます。
ー 制作意図
Universの制作にあたってフルティガーは「Futuraのような書体」を依頼されていました。
しかし、フルティガーはFuturaをあまり好んでいませんでした。研究の末に『幾何学的で魅力に乏しい書体』と酷評し、ローマン体がもつ生命力や自然な形状を取り入れた書体の開発が必要だと説得し、そこで制作されたのがUniversになります
まとめると以下のようになるかと思います。
余談ですが、Universの名前は英語の「universe」と比較すると「e」が足りなく思うかもしれません。これはフランス語のスペルとなっているからです。
フルティガーの祖国であるスイスではドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語が公用語であり、出所地のインターラーケンは、フランス語圏の地方です。また、彼のキャリアもパリから始まっており、フルティガーにとってフランス語は身近な存在だったのかもしれないです。
Frutiger:1975年
2つ目は、フルティガーが自身の名前を名付けた書体『Frutiger』です。
ー 制作背景
Frutigerは1960年代末期に誕生した書体で、パリのシャルル・ド・ゴール国際空港のサイン(標識)に使用する書体を作成して欲しいと依頼され制作されました
ー 制作意図
「文字が矢印のように明快である」がコンセプトとして掲げられており、遠くから見たときの視認性に優れるように設計されています。
そのため、各文字が誤読しにくい形状になっており、ユニバーサルデザインのような側面を多く持っています。
特にカウンター(文字の内側に含まれる空間)が広く、数字はより強調されたデザインをしています。
サインの他にも看板や、大型広告など大きく表示する必要性がある場面や、悪条件下での視認性が重要視される場面では候補に上がってくるのではないでしょうか。
ちなみに、FrutigerはJRや京阪のサインなど多くの場面で使用されていて、実は身近な馴染みのある書体だったりします。
街中などで探してみると意外とたくさん見つけられるかも?
最後に
良いデザインには、必ず良い意図が込められています。今回は書体の世界から、このことについて読み解いていきました。
バックグラウンドや制作意図を汲み取ることで、自身のデザインコンセプトと関連性や親和性のある書体をセレクトできるようになり、フォント選定が「なんとなく」や「それっぽい」ではなくなります。
書体を含めて自分のデザイン意図の一部になっていくと思います。
書体に限らず、正しい知識を身につけることで、デザインに対する自信や、表現の幅広さに活かすことができるようになりと思いますので、一緒に精進していきましょう!
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