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切り株タンプの前世
切り株タンプの前世は、立派なモミの木だった。
ハンサムで背も高く、香りも品があって森一番の人気者、スター的存在だった。だが、皆から憧れの眼差しを向けられても、モミの木はツンとすましていた。
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ところがあるとき、モミの木は人間の娘に恋をしてしまった。小さな村の牧師の娘に。
その娘には願いがあった。教会があまりに粗末で隙間風もひどかったので、新しい教会を建てたかったのだ。だが、村にそんな資金はない。
娘の願いを知ったモミの木は、教会の建材になることを神に申し出た。森の仲間たちは驚いて止めたが、モミの木の決心は揺るがない。モミの木は切り倒され、教会となった。
新しい教会が完成すると、村人たちはとても喜んだ。もちろん、一番喜んだのは牧師の娘である。毎朝、ピカピカに床や窓を磨いて手入れをしてくれた。教会は、以前にも増して村人の憩いの場となった。モミの木は、とても幸せだった。愛を知ったのだ。
それから数年後、娘は花嫁となった。モミの木の心は悲しみでキリリと痛んだが、花嫁は式の際に靴を脱いでモミの床を優しく歩き、モミの木への感謝を表してくれた。モミの木も、香りを放ち祝福を贈った。
その晩のこと。森の中に取り残されていたモミの木の切り株に、流れ星が降ってきた。それを目撃したミズナラの話では、切り株は一瞬黄金色に燃えたそうだ。
翌朝になると、切り株の精タンプが生まれていた。タンプは、自由に動けるようになったのだ。
ある新月の夜のお茶のときに、そんな話をしてくれたよ。
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