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図書室の本
裸足教育をやっている小学校に憧れる。
ずっと裸足で過ごせるなんて幸せ。
僕の学校はちょっと厳しくて、
靴下は大嫌いだったけれど、
履かないと先生が怒るから嫌々履いていた。
気持ち悪くて仕方ない。
だから、授業中も上靴だけはよく脱いでいた。
時々、脱いだ靴が行方不明になってしまって、足で探す。
そして「ガサガサうるさい」って怒られた。
図書室は上靴も禁止。
読書がすきな訳じゃないけれど、
靴を脱げるからお昼休みはよく遊びに行っていた。
図書室の奥の方にある貸し出し禁止の本には迷路の本が沢山あって、低学年には少し高い椅子に座って足をブラブラさせながら迷路を指でたどっていた。
ある日の昼休み、いつも通り上靴を脱いで靴箱に入れる。
いつもとは違って今日はなんだか人が多い。だから椅子じゃなくて床に直接座った。
迷路の本がある本棚の近くには沢山の人がいたから、座った場所の近くにあった本を手にとってみた。
ペラリと頁を捲った瞬間、その本に書かれていた言葉に僕は心臓がドキドキするのを感じた。
「このほんは はだしになって よんでね」
僕はゆっくりと深呼吸をして辺りを見渡した。
カウンターには名前の知らない先生と図書委員のお兄さん。周りにもたくさん人がいる。
こんな場所で靴下を脱いだら間違いなく怒られるだろう。けれど、僕は今、この本を読んでいるだけだ。
たまたま読んでいる本から、裸足になる事を要求されているだけだ。
だからきっと、大丈夫なはず。
ドキドキしながら、ゆっくりと靴下を脱いでそっと脇に置いた。
「何か言われたら、このページを見せればいい」
そう自分に言い聞かせて、僕は裸足になれた。
「気持ちいい」
足指の間を通り抜ける風が気持ちいい。やっぱり、靴下は諸悪の根源だ。
本の内容なんて視界に入ってこない。僕はただ、貪る様に図書室の床に敷かれた絨毯の感触を足の裏で楽しんでいる。至福の時間だ。
あれから毎日、あの本を目当てに図書室に向かった。
本当は裸足の時間が目当てだけど、あの本があるから僕は裸足になれるんだから、やっぱり本が目当てだ。
学校という監視の下、靴下という監獄から解放してくれた至福の本。
もしも僕が将来作家になったら、絶対に書いてやるんだ。
「このほんは はだしになって よんでね」
ってね。
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