琵琶湖周航の歌とひつじぐさ

うたごえ喫茶という場所が気になって YouTube で動画を見漁った。そのことが幅広い年代の曲を聴く機会となり、気が付けばYouTube が関連動画に昭和初期の歌をおすすめしてくるようになった。

初めて聴く曲にも風情を感じる旋律がある。ときどき懐かしい気持ちになるけれど、それは錯覚で、きっと自分の中に流れているなんらかの血が反応しているのであった。

あるとき、「懐かしい」という感覚が錯覚ではないことに気が付いた。明らかに知った旋律。と思いきや何かが違う。

琵琶湖周航の歌のオマージュかと思ったが、いま流れている曲と琵琶湖周航の歌のどちらが先にあったかわからない。そういえば私は琵琶湖周航の歌が好きだが、歌詞は冒頭しか知らない。このようなときのためのインターネットである。

曲名は「ひつじぐさ」。草食性の偶蹄類に惹かれる身としては惹かれる曲名だが、ヒツジグサというスイレン属の水草があった。
「ひつじぐさ」の歌詞は、イギリスの "Water Lilies" という詩を大正 2 年(1913年)に吉田千秋(敬称略)が訳詩したもの。旋律は、同じく吉田によって大正 4 年(1915 年)に作曲された。吉田は新潟に生まれて、24 年の生涯のあいだ新潟と東京とを行き来したらしい。滋賀県にゆかりがあるわけではないようだ。

琵琶湖周航の歌の詞は、吉田がひつじぐさを作曲した 2 年後 (大正 6 年、1917 年)に、三高水上部の部員で琵琶湖に来ていた小口太郎(敬称略)によって作られた。その詩を当時学生の間ではやっていたひつじぐさの旋律に乗せて歌ったことが琵琶湖周航の歌のはじまりらしい。今津の宿で披露された詩は加筆されて、翌年(大正 7 年、1918 年)には 6 番まである現行の形になったそうだ。小口は長野県出身である。

ひつじぐさの歌詞を読むと、ヒツジグサと水面が目に浮かぶようである。「ひつじぐさをぞ照らすなる」、「波のまにまに揺るげども」、「生えいでたりぬ ひつじぐさ」などの言い回しは大変リズムが良いので言葉を音に合わせるための工夫なのでないかと考えたが、曲の方が後にできている。

琵琶湖周航の歌には地名が出てくる。きっとそれぞれの土地の印象的な場面が切り取られているのだと思う。まだピンとこない部分が私にはたくさんある。歌詞すべてに「あの情景か」と思うときが来たら、そのときが私が真に滋賀県民となるときだ。

吉田千秋は 7 カ国語を使い、やまとことばや方言の研究もし、現東京農業大学の学生であったらしい。ハーモニカやヴァイオリンも弾いたらしい。小口太郎は「有線及び無線多重電信電話法」の特許を出願した方のようだ。あふれる才能に驚く。伝記があれば読みたい。
そこから派生して、普段自分が顔を合わせている人たちも、私がよく知らないだけで、伝記を書いたら厚い人たちなのでないかと思ったりする。

年代順に並べるならばタイトルは「ひつじぐさと琵琶湖周航の歌」だ。
ひつじぐさは、詩が先で歌があとということを思い浮かべて曲を聴きたいし、琵琶湖周航の歌は、音楽を現実の景色と照らし合わせて体感したい。大げさだが、生きていくうえでの楽しみが 2 つできた。YouTube のおすすめ機能に感謝している。

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以下は今回拝見したページです。とても興味深い内容です。
・三文楽士の音楽室 琵琶湖周航の歌 
 http://sunlake.org/music/biwako/index.htm

歌が誕生した経緯、作詞者と作曲者それぞれの経歴などが大変具体的に書かれています。

・新潟市秋葉区 吉田千秋について
 https://www.city.niigata.lg.jp/akiha/about/kankou/culture/motto/chiaki.html

ひつじぐさ作曲者の吉田千秋の生涯について書かれており、その人となりを想像することができます。略歴の年表があります。吉田の描いた絵手紙やカルタの写真を見ることができます。

・高島市 「琵琶湖周航の歌」の基礎知識
 https://www.city.takashima.lg.jp/soshiki/shiminseikatsubu/imazushisho/4/1/506.html

歌詞と曲が作られた時系列がわかりやすく示されています。琵琶湖周航の歌を歌った歌手や、歌に関連した碑の所在などが整理されています。琵琶湖哀歌との違いについても触れています。

・世界の民謡・童謡
 https://www.worldfolksong.com/songbook/england/water-lilies.html

ひつじぐさの歌詞と原詩を比べながら読むことができます。

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