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チチとウナギ 前半

あたしは、家族の団らんが何よりも嫌いだった

なぜなら、父 (チチ) がすぐに怒るからだ

我が家では、
小さいころから何度お膳がひっくり返ったかわからない

お味噌汁がぬるい
子どもの箸の持ち方が悪いなど

ほんの少しでも気にいらないことがあると
すぐに頭に血が上がるチチ

だから、家族は彼に対して腫物に触るような扱いしかできなかった


「あなたの嫌いな食べ物は」

「うなぎです」

「えーっ。どうして? 美味しいのに」

小さいころから何度も交わされた会話

3歳のとき家族旅行に行き
ご当地で有名なうなぎ屋に入った

そのとき私は熱を出していたので
うなぎなんて食べられる状態ではなかったらしい

しかし、

チチにうなぎを食べることを強要され
ほんの少しだけ口に運んだ

それが精いっぱいだった

だが、そんな私を見てチチは苛立ち

「旅行に連れてきてやって
美味しいものを食べさせてやっているのに
なんだその態度は・・・

もっと旨そうに食べろ!!」

と怒鳴り、

なんと
小さい子どもの頭から
うなぎを浴びせたのだ

あたしが何も言えずにもじもじしているうちに

チチは怒って一人で店を出て
乗ってきた車で帰ってしまった

その場に残された家族3人は

帰る手段をなくし

母がアニと熱を出したあたしの手を引いて
とぼとぼと宿まで戻ったそうだ

正直なところ

この話は母から我が家の言い伝えのように聞かされたものなので
これが本当なのかは定かではない

しかし
この事件以降

あたしは、うなぎを食べることができなくなったのは事実である

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