![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/152680379/rectangle_large_type_2_0e583e9158cc2283c1f49ba9196eb9b8.jpeg?width=1200)
青春の出会いから別れまでのドキュメンタリー映像を見ているような「きみの色」 ネタバレ感想
ラストマイルを見た後だったため、見に行こうか迷っていたのですが、たまたま空き時間ができたので、観に行ったら「これ映画館で見といてよかったああ」となりました。
ラストマイルの裏でこんなに繊細なアニメーション映画をやるのかと面食らってしまいました。
ただ、映画館で見る映画としては、人を選ぶ映画かもしれないので、予告を一度見てみて、映画の雰囲気や曲が好きとなった方は映画館で見ることをお勧めします!
ここからネタバレありです。
日常系を映画にする
おそらく、この映画は日常系と分類される作品だと思います。
日常系とは、大きな出来事などが特段起きることなく、ただ日常を切り取り描く作品のことです。
ただ、ながら見できる1クールのテレビアニメとは異なり、およそ2hという枠の中で、大きな出来事が起きない一方で、見ている人飽きさせないように作らなければいけないので、そこが映画の日常系としての難しさだと思います。
何かを大きな出来事を起こすチャンスはたくさんあった。だが、、、
この作品では、わざわざ日常系にする必要がないくらい、思春期ならではの大きな出来事が起きうるところは、かなりあったように思えます。
例えば、
・キミが寮に潜り込んだとき、もう少しハラハラ感を演出
・雪で帰れなかったときの先生との電話
・親とのすれ違い
など、映画なのだからもう少し仰々しく描いてもそんなに違和感はないと思います。
特に、1番驚いたのは、キミとルイが親に対して内緒にしていたことを打ち明けるシーンです。ここも、なんというか重々しさがないというか、なんともサラッとしている。
それに、キミはなぜ学校を辞めたのか、なぜキミは祖母に育てられているのか、なぜルイは片親なのか、キミの兄、ルイの兄?のことなど、説明されていないことが多くあります。
ただ、そこがあまり気にならないような作り込みがありました。
作品通して、とつ子視点で描かれる物語
思い返してみると、この作品はずっととつ子視点で描かれています。唯一、とつ子視点ではないのは、ルイとキミが母親と祖母に秘密を打ち明けるシーンと、キミとシスターの本屋での会話のシーンだと思います。
しかし、先ほども述べた通り、そこもあまり重々しい感じ、泣かせにくる感じではなく、サラッとダイジェストのように流れていった印象があります。
そして、この作品がとつ子視点で描かれるからこそ、ルイとキミがとつ子に語っていないことに関しては、結局謎のままですし、だからといって、そこが気になることはありません。
なぜなら、とつ子は「話したくないことを無理に聞いたりしない」けど、信頼関係を築ける「ゆるさ」があるからだと思います。
作品全体に流れる「ゆるさ」
おそらく、日常系だから、という理由もあるのでしょうが、やはりその「ゆるさ」を生み出しているのは、とつ子だと思います。
とつ子の、あのなんともいえない緩さ、かといって芯がないわけではなく、自分の気持ちには嘘をつかない。だからこそ、3人が出会ったとき、咄嗟にバンドをやってます。と嘘をついてしまう。しかし、それも決して見ている人を嫌な気持ちにさせないもので、この3人でバンドをやってみたいと素直に思った故の嘘だったからです。
そのとつ子の「ゆるいけど、芯がある」感じは、作品に通底しているように思えます。
曖昧な関係性
その点で言えば、3人の関係性も結構「ゆるい」ですよね。キミはルイのことが気になってはいそうだけど、最後までその気持ちを語ることはありませんし、とつ子はキミのことが好きそうですが、恋愛なのか友達なのかわからないというよりも、恋愛でも友達でもなさそうという方が適切ですね。
ただ、とつ子に関してはキミの色が好きなのかもしれませんね。前半はずっと、キミの色に見惚れていましたから。
キミに関しても、ルイとの別れの際、キミは真っ先に走り出して、頑張れと叫びます。これは「反省文」の「あいまいな境界のない さけぶ心の声まで飛ばして 私はあなたを愛している」という歌詞の通り、キミの「好き」を表現しているのかもしれません。
ルイはルイで、唯一の男性キャラですが、結構フェミニンな感じで性を感じないようなキャラ設定になってるんですね。だからこそ、2人と久々に会った時に、2人に向かってハグで再開を喜べる。現実の男子高校生が女子高生2人にハグしているところなんて見たことがありません笑
いずれにしても3人の心情や関係性が、はっきりと示されてはいないため、表情や演出からそうなのかもなと読み取るしかありません。
現代のリアルな高校生
とつ子は幼い頃からバレイを習いキミと同じ女子校に進学、ルイは親が医者でルイ自身も医者を目指しているという状況から、3人ともお金持ちとまではいかずとも、比較的裕福な家で育っていますよね。
だからと言って、親がスパルタというわけではなく、かなり優しそうな保護者のもとで育っているように見えます。
そんな中、ルイとキミは母親、もしくは祖母に育てらる=あまり迷惑かけられないという状況から、本当のことを言えない。
だからこそ、反抗期と呼べるような反抗的な態度ではない、むしろ反抗できないという状況だと思います。
「信じる」
3人とも、人に言えない秘密を抱えています。そして、それをもって反抗するわけでもなく、悶々とした日々を過ごしているように見えます。
・ルイは親の医者業を継ぐ必要はあるし、継ぎたくないわけではないが、音楽が好きでバンドをやっていることを親に打ち明けられない。
・キミは、学校を辞め、本屋で働きながらギターの練習をしていることを親に打ち明けられない。
・とつ子はとつ子で、「変えることのできないものについて、それを受け入れるだけの心の平穏をお与えください」と何度も教会で祈るように、自身の「色が見える」力の人とは違う点に悩んでいた(はっきり言及されいているわけではないためわかりませんが)。
おそらく、ルイとキミに共通しているのは、「親に否定されるかも」という恐怖で打ち明けられていないということだと思います。そして、とつ子も「変だと思われるから」という理由であまり人に言っていない自身の色のことを2人に打ち明けます。これも「否定されるかも」という恐怖でしょう。
舞台がキリシタン系の女子校で、その中でも、とつ子はかなり信心深い様子が見てとれます。
あえて、そういう設定にしているのは、この作品が「信じる」というのをテーマにしているからだと、僕は思いました。
そして、音楽で繋がった3人は、お互いを信じ、秘密を語り合います。
そして、自身の葛藤と「向き合い」、ルイとキミも親に本当のことを話します。
変えることのできないものについて、それを受け入れるだけの心の平穏をお与えください
学校を辞めた、こっそりバンドやっている、嘘をついた、人の色が見える、音楽が好き、これらはどれも変えることができないものです。
変えることができないことを受け入れるだけの心の平穏は、音楽で昇華することによって3人は手に入れることができたのだと思います。
終盤にシスター先生は、「自分のことを歌ってみればいいのではないでしょうか?」(かなりうろ覚えです)といったり、「自分の幸せを歌うことも、悩みや葛藤、反抗を歌うことも聖歌(これもかなりうろ覚え)」的なことをいったりしています。
これは、シスター日吉子なりの自分の中にある感情との向き合い方へのアドバイスだったのでしょう。
彼女は昔「GOD almighty」というロックバンドをやっていたというのが終盤明らかになりますが、だからこそ3人に対して共感できる部分があったのかもしれませんね。
ラストのバンド演奏 不思議と出てくる涙
この作品の一番の盛り上がりはおそらくこの演奏シーンでしょう。
これまで、ずっと盛り上がりそうなところでも極力盛り上がりを抑えに押さえていましたから。
以下、曲の感想です。
1曲目の「反省文〜善きもの美しきもの真実なるもの〜」はイントロのギターの入りがカッコ良すぎる。ロックバンドをやっていたシスター日吉子が好きなのも納得です。
2曲目の「あるく」これかなり好きです。曲の持つ落ち着いてどこか儚いオーラと、映像がかなりマッチしていて、思わず涙が出そうでした。そしてなにより、テルミンのまるで女性が歌っているかのような音が、かなり綺麗ですきです。
3曲目「水金地火木土天アーメン」これはもうこの映画のテーマソングですよね。とつ子の持つ明るさが曲に表れているし、「キミの色」「ルイ腺」という歌詞の通り、とつ子から見た2人(特にキミ)の歌でもあります。先の2曲とは異なり、かなり今風の歌で、ヨルシカとかずとまよとかを連想しました。ついつい「どってんアーメン」と口づさんでしまいます(笑)
この映画を見ている人たちは、この3曲、特に「水金地火木土天アーメン」が出来上がる過程と、3人がバンドとして出来上がっていく様子をずっと見てきたわけです。これは言うなれば、この3曲が出来上がるまでの過程を撮影する密着ドキュメンタリーですよね。
そのため、フルで聴くのは初めてでも、不思議と思い入れがあって、3人のここまでの軌跡が思い浮かんで、ツーと涙が出てきてしまいます。
賛否両論のミスチル
僕はミスチル好きですし、今回のエンディングの曲も大好きです。
しかし、SNSなどで感想を見てみると、ミスチルじゃなくて3人(しろねこ堂)の曲で締めて欲しかったという感想も見かけました。
難しいですよね。私も、もっとこの3人の曲が聴きたいと思いました。エンディングもこのうみねこ堂の曲だったら、もっと作品の余韻に浸れたかもしれません。ただ、小中学生がほとんど夏休みがおわる8月末公開で、完全オリジナル脚本となると、プローモーションなどの観点から難しい側面もあるのではないでしょうか(これはかなり野暮な推測です)
しかし、ミスチルのこの曲も、音楽監督の牛尾さんが関わっているため、局長は映画ととてもマッチしていたし、歌詞だって
「絡まった靴紐は 解くのを諦めて 忘れて遊んでいたら 知らぬ間に解けてた」は、自分の色が見えないことが悩みだったがバンドをやることを通して最終的には自分の色が見えたとつ子にピタリの歌詞ですし、
「心はずっと不安定で カーテンのように揺れるけど 吹き抜ける風の心地よさを感じて ただいまを楽しんでいたい」
というところも、思春期の迷いや葛藤などの不安さと、青春の刹那的なところをよく表現できていて、この作品にぴったりだと思っています。
総括 出会いから別れまで「青春の刹那さ」
この作品には説明がほとんどありませんし、先ほども述べたように、とつ子の視点中心で描かれるため、とつ子よりもルイとキミに関してはよりわからないことが多いです。
ただ、その分、表情、色、演出(スノーボールのシーンなど)、音、アニメーションだからこそできる表現で、説明されている箇所も多いと思いました。
また、2時間の映画で、3人の出会いから別れまでをしっかり描ききっていて、それがより青春の刹那的な感じがよく表れていたし、かといって、別れのシーンやエンディング後の映像は、3人の人生がまだこれからも続いていく感じがして、感動しました。
だからこそ、本当にドキュメンター映像を見ているような気分で、だけど、美しくて繊細で優しい気持ちになれる不思議な映画でした。
Ps.前情報をあまり調べずにいったので、声優陣本当に驚きました。
キミ役の髙石あかりさんはベイビーワルキューレのイメージしかなかったので、こんな役もできるんだと思ったし、シスター役のガッキーにも、友達役のやす子にも気づかないくらい自然な演技でした。