【銭湯日記】13日目
-13日目-
21時半。
今日は昨日の自分を超えてやる。
(サウナおかわりの意)
下駄箱は44番。
「こんばんは〜」と言いながら銭湯入口の暖簾をくぐり引き戸を開ける。
番台の淑女の「いらっしゃい」を耳にしながら視界が何かを捉える。いま自分が閉めたばかりの戸の内側、紙が1枚貼ってある。
明日は薬草風呂(どくだみ)です。
や、やった!お待ちかねの薬草風呂!
(また"どくだみ"だけど!)
「明日は薬草風呂ですよ」とは番台の淑女。
「毎週金曜日は薬草風呂ですか?」
「えぇ、火曜と金曜はだいたいそうです」
「へぇ、火曜と金曜でしたか。薬草風呂はどくだみの他にもあるのですか?」
「えぇ、蜜柑の皮やアロエなんかがあります」
アロエ!蜜柑の皮!!
素晴らしい。私、蜜柑の皮を浮かべたお風呂が大好き。小学生の頃は実家のお風呂で幾度かやった。甘く爽やかな香りがたまらない。
「オレンジジュースだぁ!」などと湯を勢いよく飲んで、甘くなくてガッカリしたのはいい思い出(大人になった今ならしこたま砂糖を入れられるな…)。
アロエの湯は未体験で期待が高まる。
火曜と金曜が俄然楽しみになった。
赤い暖簾をウキウキとくぐる。
マイシャンの君と私と常連さん数名の空間。
木曜日の遅い時間でもまぁまぁの人気ぶり。
常連さんたちが戻りつつあるのだろうか。
[本日のぶろ]…ジェットバス。
ここが明日には薬草風呂になるのだ…へへへ。
どくだみの香りを思い返すうちに、気がつけば浴場は私の独占状態となる。
では、はじめよう。
ド平日×仕事終わり×独占のサウナ。
バスタオル片手に意気揚揚と勝手の悪い扉を開ける。むあぁ〜~〜っと身を包まれる。
本日もほかほか90度。
天井隅のスピーカーから本日は…?
耳を澄ます。
…追わないで……追わないで…粋に別れよう……
こ、これは………哀愁の歌謡曲。
男声で「粋に別れよう」と歌う背景ではダンディなミュージック。
トレンチコート、グレーのハット、タバコの残り香、片手にはバーボン…みたいな。
そうして男は街の喧騒へと消えてゆく…みたいな。
2曲目にはいる。
耳を澄ます。
…はnぁあ~〜~~〜~〜~〜~惚れちまったぁあ〜~〜〜~(こぶし)
めちゃめちゃ惚れとる。歌い出しから鬼こぶし。もう全力で好き(その気持ち、分かる)。
桜が舞い散る小高い丘、真っ赤な着物の女、陽の光を眩しく跳ね返す金のマイク…みたいな。
最後に石油王みたいな風呂の浸かり方をして退場。本日はサウナおかわり3回で幕引き。
番台の淑女より「おやすみなさい」をいただいて帰宅。心地よいひと時。
愛らしい猫ちゃんはいない。
明日こそ頼むよ。
風呂上がりは炭酸を飲みたくなる不思議と誘惑。
たまには糖類ゼロにしようか。
この町内の街灯は氷の欠片のようで好き。