【銭湯日記】5日目
-5日目-
20時半。
5日目ともなるとお風呂セットの準備も機敏。
土曜日の新規銭湯開拓は止めにした。結局、通いの銭湯が近所でいちばん評判が良さそうなのだ。
雨降りの銭湯へは足取りも重い。
下駄箱は安定の44番。
「いらっしゃい」
いつもならここで「領収証をいただけますか?」と言うのだけど、番台の淑女は既に承知なのだ。
「領収証はお帰りまでにご用意しておきます」
常連感がでできたな…ふふ。
透けた赤い暖簾をくぐり高速脱衣。
浴場の奥のカラン、マイシャンの君の姿はない。そろそろ君の定時の頃なのだが、流石に日曜日は違うのか?
浴場独占、ソーシャルディスタンス極まる。
[本日の風呂]…なんと本日はジャグジー…。
何度見てもジャグジー…3日連続ジャグジーのち1日十薬(どくだみ)のち…ジャグジー(飽)。
もしかして金曜日だけ[本日の風呂]は本日の風呂たるのか?またジャグジーな1週間なのだろうか…。
それにしてもなんだか肌寒い。いつもは驚くほど輝いているはずの場内の幾つもの鏡が、本日は白んでいる。日曜日はそれほど来客がないのだろう。浴槽内の湯は静かにいる。浴場全体が冷え冷えとする。
いちばん深いノーマル風呂に浸かる。
気持ちぬるい。
タイル壁に描かれた富士山を見やる。今になってこの富士山がラベンダー色であることに気がついた。ラベンダー富士。
深い浴槽の底を見ていると隅の方、壁に沿って縦横30cm、奥行15cmほどあろう窪みに目が止まる。私の位置からは奥がどうなっているのかまで見えない。
ここで私は先日観た映画『シックスヘッド・ジョーズ』を思い出した。
この作品、まずパッケージによる出オチ感が凄い。オススメする時には「もみじ饅頭のサメ」と一言添えたい。
そして私は生まれついてのビビりである。どのくらいビビりかというと、サメ映画を観た日は風呂に入るのが恐い……ほど筋金入りの想像力豊かすぎるビビりであった。
・奥の見えない窪み
・揺れる水面に遮られる光、底に現れる影
・人気のない肌寒い浴場
・思い出されるサメ(もみじ饅頭)
これらの条件が揃ってしまえば、内なるビビりが黙っちゃあいない。そろそろ出よう…そろそろ…と帰りたそうに誘ってくる。
なんだか芯まで暖まるどころか冷えて退場。
やれやれと着衣。
番台の淑女より領収証を受け取る。淑女の心地よい「おやすみなさい、おおきに」に応えながら傘をさして帰路につく。
あの愛らしい猫ちゃんは今夜…いない。
寂しく帰宅。
キューティクルは失われつつあるかもしれない。小さな悲鳴をあげる髪。やはり風呂上がりのトリートメントだけでは無理があったか…シャンプーとトリートメントをカゴに入れて通うか……まだめんどくさいが勝つ。