FORK vs K-rush
6/4深夜放送のフリースタイル日本統一・関東死闘編で、チーム神奈川のFORKさんとチーム埼玉のK-rushさんによる最終決戦があったので、感想をまとめました。下線部はリンク付き。約1万3千字。
筆者はFORKさんのファンなので、見方にかなり偏りがあります。K-rushさんについては調べながら書きましたが間違いあればご指摘ください。
※FORKさん(ICE BAHN)関連のnoteを35本、計17万字ほど書いています。過去のnoteも是非!
▶︎1月の日本統一FORK vs 埼玉(7千字)
▶︎FORK vs 呂布(1万4千字)
▶︎FORK vs DOTAMA (7千字)
▶︎ICE BAHNバトル一覧
◆スタイルウォーズ
「何をかっこいいかと思うことでそれぞれ違う。価値観によって、プレースタイルが変わる。良し悪しではなくて。」
試合を見ていて、イチロー選手のこの言葉を思い出した。
FORKさんのファンである私が見ても、K-rushさんはカッコいいラッパーだ。
K-rushさんになら、負けても「良い試合が見られた」と清々しい気持ちになれただろう。
FORKさんは負けないけど。
クールとホット。スマートさと泥臭さ。ベテランと若手。余裕とハングリーさ。タイプが逆の2人。そこにスタイルウォーズの良さがあった。
◆リベンジ
そもそもこのように思いながら見ていたのには理由がある。
2人は1/9放送(収録は昨年8/9)のフリースタイル日本統一#13で、それぞれチーム神奈川・チーム埼玉の代表として対戦していた。
知る限り、この時が初対戦でいいはず。
私はこの試合を少なくとも100回以上は見た。この回、FORKさんはK-rushさん、晋平太さん、TKさんと対戦する。どれもとんでもなくベストバウトなので、毎日BGMとしてリピート再生していた。
FORKさんは「バトルも1つの作品」と捉えてラップしている(音楽ナタリー, 2023/11/22)。言葉に違わず、ただの娯楽として消費することができない。本人は「聴く方にとっちゃ娯楽で良い」(Loose Blues)とも言っているが。
何回見ても飽きない。まだまだ見たい。
当然FORKさんかっこいい!と思いながら見ていたが、見ているうちにK-rushさんのことも好きになってきた。マジでカッコいい。対戦相手3人ともカマしてたから、ベストバウトになったんだなあとしみじみ思う。
筆者は3/4、関東死闘編の収録を現地で観覧した。そこでK-rushさんは、最初の埼玉vs東京の段階から「神奈川にリベンジしたい」と話していた。前回、K-rushさんは句潤さんに勝ってFORKさんに負けているから、「リベンジ」はFORKさんのことだと解釈した。若手に目指される存在なのは、FORKさんのファンとして嬉しい。
K-rushさんは、チーム栃木のDOTAMA戦でも「次の神奈川早く出させろっつってんだよ(中略)早くやらせろリベンジマッチをな」と締めくくっていた。
総当たり戦だからそんな焦らずともいずれ当たるけど…FORKさん大将だし、埼玉は崇勲さんとTENGGさんもいるから、順番的に「リベンジ」できるかな?と思いながら見ていた。
そしたら本当に順番が巡ってきた。
素直に「良かった」と思って見た。
放送を見たら、崇勲さんが「俺最後で行こうかと思ってたけど、やっぱさっきの見るとK-rushをケツにした方が良いかなっていう。その方がドラマがあるかなって」と話していた。やはり狙って最後にしたんだな。崇勲さんとFORKさんの試合もいつか見たい。
◆KUREIさん
前回の試合でも、今回の試合でも、FORKさんのバースに「兄貴」が出てくる。
(前回は「お前の兄貴もどうせいいよ兄弟愛 問題ない 似たような顔だな」)
これはフリースタイルダンジョンでFORKさんとも対戦したMC KUREIさんのこと。
▶︎兄に言及するK-rushさん(戦極ライマーズ=KUREIさん、SAMさん、9forさん)
K-rush vs KUREI/Dis4U MCBATTLE -Episode7-(2023.4.16) 兄弟対決。この試合のK-rushさんとんでもなくカッコいいから見てほしい。
ダンジョン出演時のKUREIさんのことは強烈に覚えている。FORKさんへの深い愛を感じたから。
ちなみにK-rushさんも2017年のFORKさんと魅RIンさんの試合を見て
◆K-rushさん
K-rushさんは1998年8月25日生まれの25歳。
2023/12/26のUMB準優勝のほか、
2024/2/18のDis4U優勝(チーム戦)、
2024/4/13の戦極BATTLE ROYALE優勝、
2024/6/1の戦極第33章優勝(西の3on3、チーム戦)など、この半年は特に目覚ましい活躍を見せている。
この放送回は、そんな好調な中の3/4の収録だった。
関東死闘編では栃木戦で4タテしており、調子の良さが現れていた。
魅力を挙げれば、力強い声質。泥臭く熱いバイブス。disるんだけどリスペクトを感じるところ。B BOYらしいアティチュード、などだろうか。self boastちゃんとするけど、謙虚な人柄もみえるので好感が持てる。
ラッパーとしての本質はやはりリリックにある。そこで、何曲か紹介したい。
CONNECTION feat. 晋平太
KoK2022のksmnビート、ひたすらカッコいい!K-rushさんは「ブームとやらにも礼を言う 散らかしてくれてありがとう」がBBOYらしくていい。晋平太さん踏み方綺麗すぎてエグい。
【本人が解説】晋平太 vs K-rush:KING OF KINGS 2022 を本人たちが解説したらバトルをした2人ならではのコメントが撮れた
Journey
city light (feat. 舟平)
夢路
「綺麗事が一番汚い ありのままでいい」「夢見ながら夢見させる」とかこれもBBOYイズム詰まってていい
◆リスペクト
中でも、「リスペクト」に焦点を当てたい。
リスペクトは、ヒップホップにおいてもMCバトルにおいても絶対に大事だと思う。そこに異を唱える人は稀だろう。
そしてリスペクトと言うのは容易くても、言行一致しないとリアルじゃないと思う。
K-rushさんは、#28のMetal忍者さんとの試合で「相手のことを否定するだけじゃまぁ簡単だよな 俺は自分のスタイルでお前のこと刺しに行くよ」と言っていた。句潤さんとの試合でも「アンタを全面否定する事ないよ」と言っている。
実際、そのスタイルだと思う。簡単に否定するだけのラップをしていない。
同回のMAKAさんとの試合では「アンタはラップが上手いけど」「短所もないけど」とちょっとMAKAさんのことを認めるようなことを言っている。
今回、FORKさんとの試合では「神奈川のあんたらはおしゃれだから」と、これもちょっと褒めている。
文脈的にはいずれも言わなくても成り立つ部分だったので、素直で真っ直ぐな人なんだなと感じた。こういうのは演出できない。言葉の細部に滲んでくる。
タイプは違うけど、FORKさんもK-rushさんも、言葉に小ざかしい演出がない。
(FORKさんはあまのじゃくなところもあるけど、)2人とも人として筋が通っている。そういう人はカッコつけなくてもカッコいいから刺さる。
◆全部ライムに絡む
KENさんは「FORK君はライムで拾ってってさらにパンチラインで落とすってことをやり続けてる」と評していたけど、FORKさんは韻がポンポン思い付いてすごいとかいうことではなく…逆に、ICE BAHNは3人とも、韻踏まなきゃラップできない。
押韻禁止してフリースタイルさせてみてほしい。K-rushさんはできるかもしれないけど、FORKさんはできない。以下、TIMELINEのインタビューで明言している(2017/11/27)。
(後半は「負ける気がしねぇ」のリリックと重なる内容。「どうやるかとはどうありたいか イコールどうあるべきかを問うマスメディアに ただの思い付きを降りてきたと美化して聞かす そこに尽きる」)
つい韻踏んで着地してしまう、韻が降りてきてしまう、そこがFORKさんの強みだ。仮に韻踏まないラップバトルがあれば弱いけど、現行の韻踏むラップバトルだと負けない。
ICE BAHNは昔から一貫して「韻の地位を高めたい」と言っている。
言っているだけじゃなく、長年ラップでその姿勢を見せている。
リリックでもフリースタイルでも、貫く姿勢は変わらない。
だから、KENさんのコメントは聞いていて嬉しかった。放送でカットされてたけど、「FORK君は全部ライムに絡む」という表現をしていた。現地で聞いていてその通りだと思った。全部ライムに絡む。
◆全文感想
ビートは東京弐捨伍時。先攻はFORKさん。
「何のストーリー?俺は知らねぇ素通り」は今のFORKさんらしさが出ていて、説明すると長くなるから後述。
ここでは自身の口癖の「知らねぇ」の入れ方も見事。ちなみにFORKさんの口癖は「知らねぇ」「分かるか?」で、自分は何も知らねぇ割に分かるか確認してくる。代表曲LOYALTYの玉露さんバースでも、「分かるか?」の部分はFORKさんが言っている。
「神奈川のあんたらはおしゃれだから」を聞いて、私は地方住みだから東京も神奈川も埼玉も全部「首都圏」という一緒くたのイメージなんだけど、神奈川っておしゃれなんだ?と知った。笑
コロンボを演じている俳優はピーターフォークで、同じフォークさん。でも、かけてる訳じゃなく、韻を優先しただけだろうな。もういいってくらいココは重ねてる。
コンプラ部分。FORKさん下ネタ入りやすいんだけど、娘さん成長したらどうなるのかな。玉露さんを見る限り、変わらなそうだな。
「泥臭さ」も「ハングリーさ」もFORKさんからは感じない要素(ちなみに見せてないだけ。昨年のmy name isでKITさんがFORKさんについて「絶対負けたくないというのが誰よりも強い」と描写してたように、ハングリーじゃないわけない)。元からスタイルにホットとクールの対比があるから、会話の対立軸としてそこを持ってくるのはいい。
ハングリーから番組とハンズフリーには行くかもしれないけど、「パン作り」には普通行かない。しかも実際、フリースタイルダンジョン7th season(2020/1/21)見ながら「なんでトップライマー集めてパン作りしてるんだ??」と思っていたから、「ラッパー達がパン作りする面白図」が頭の中にビジュアライズされて、すごいパンチラインだなと思った。収録現場で聞いて笑ってしまった。これは晋平太さんとの試合の「お惣菜」と「存在感」同様、ダサいワードチョイスで鮮やかに踏むというFORKさんらしさが出たライン(「ダサい言葉ほどライムは美しい」は、ICE BAHNの根幹)。
▶︎パン作り回はコレ
今回はK-rushさん負けたけど、毎回そうなるかはちょっと分からない。K-rushさんの熱さの方が人の心を動かしやすい気もする。
筆者はDonatelloさんのスタイルがかなり好きで、関東死闘編に限れば、ベストバウトもMVPも圧倒的にDonatelloさんだと思っている。
ただ、K'iLLさん、TENGGさん、崇勲さんが明確に負けたとは思わなかった。むしろ負けに値しないカッコ良さだった。
私は神奈川を応援する身だが、仮に埼玉が勝っていたとしても、今回の判定はそうかと受け入れていただろう。
◆優勝
筆者はFORKさんの優勝を現場で見届けるの夢だったので、FORKさんが勝ってチームが優勝するのは願ったり叶ったりだった。栃木との一戦だけだったら、帰りの新幹線で泣いていたと思う。
最後のFORKさんの「もっといろんな奴が出て来て盛り上がったらいいなって思ってます」を聞いて、SANTA君、SHEEFさん、Donatelloさんの起用理由が薄っすらうかがえた。
最初のシーズンでFORKさんは「俺が二人に声をかけた」と言っていた。関東死闘編もそうなんだと思う。
最初も今回も句潤さんがいたのは、実力もあるけど、FORKさんに無いものを持っている(=句潤さんの武器はフローだ)からだろう。句潤さん、勝ち星つかなくとも全試合カマしてた。
SANTA君とDonatelloさんはまだ若手だし、SHEEFさんはキャリアはあるがバトルのキャリアはほぼ無い。3人とも純粋にカッコいいMCだけど、神奈川にはバトルが強いMCはたくさんいるから、カッコいい以外のところで、何か意図を感じる。例えばシーンがマンネリ化してほしくないとか、スターが生まれる番組になればいいとか、普段バトル出なくてもカッコいいMCいっぱいいるの知ってほしいとか。
FORKさんが今のシーンをどう見ているかと、どうなってほしいかが分かるヒントが得られると思い、本人に確かめたかったが…収録後に3回FORKさんと話す機会あったけど聞けなかった。自分チキンすぎて、めちゃくちゃ緊張して無理だった…。
◆良し悪しではない
冒頭で引用したイチロー選手は、成功や打率を追わず、相対評価よりも絶対評価を追っていた。
FORKさんも、昔から周囲の評価に振り回されず、自分の中の評価軸で動いている人だ。
まず、数字は追っていない。
そして影響を受けた先輩は多くいても、この人みたいなラッパーになりたいという存在は、FORKさんの心の中にいないんじゃないかと思う。この人みたいな、ではなく、自分の中の理想のMC像を追っているように見える(これも聞きたかったけど聞けなかった)。
2018年12月、ダンジョンのミステリオさんとの試合でFORKさんが負けた時、ヘッズが「誤審。FORKさんの勝ちだ」と荒れていたさなかのツイート。
(私はダンジョンリアタイしていないが、関連ツイートを漁って当時の世論の雰囲気は把握している。叩かれていたジャッジの方も好きなので、蒸し返したくはないが…。)
MCバトルの勝ち負けについて、FORKさんは若い頃から「MCとしての優劣を付けるものではない」と述べている。
以下、FORKさんが優勝したUMB2006を特集した「blast」2007年3月号から引用。
このFORKさん、まだ26歳。カッコいい。
バトルについて、「箔が落ちるのをビビって出てない」(FSLのSAMさんの言葉)は有り得ない。外面的に付加されたものに意味を感じているように見えない。加えて、何があってもMCとして本当に大切なもの(ICE BAHNの仲間)は失わないから、関係ないと思う。
4/27にICE BAHNのレギュラーイベント(横浜Clean Up)を訪ねた際、シーンやバトルヘッズについて釈然としない点をFORKさんに話したところ、極めて冷静に返された。考え方が深くて、ラッパーとしても人としても、マジで44歳の今が一番カッコいいなと思った。
「形はどうあれ反響があるのは良い事」は、他者に寛大でないと言えない。私はまだまだ器が小さいと感じる。私もFORKさんのようでありたい。
◆引き算
ここからはK-rushさんとの決勝に限らず、日本統一のFORKさんの6試合(vs K-rushさんx2、晋平太さん、TKさん、呂布さん、DOTAMA)を見て思ったことを書きたい。
「HIPHOPはやり方じゃねぇあり方 そこがセンスの在処だと分かればありがたい」みたいに文章を崩さず細かく踏むのも、
「お惣菜」「パン作り」みたいなダサい言葉で鮮やかに踏むのも、FORKさんらしさが出ていた。
多分世間的にはこっちが評価されている。
だがここでは、「シンプルなワードチョイスと短い韻で平凡な踏み方をしながら、鮮やかなパンチラインを生む」ことを取り上げたい。
以下のラインが分かりやすい例だ。
言葉に一切無駄がない。本当に美しい。
やっていることもすごい。
まずこれら、韻自体が短い。
そして▷犬▷いる▷気持ち▷2文字▷ストーリー▷素通りーいずれも、単体だとワード自体の印象が弱い。シンプルな、なんてことない単語。ワードチョイスの妙は無い。
▷犬・いる▷気持ち・2文字▷ストーリー・素通りーで組み合わせても、まだ凡庸に感じる。新鮮な踏み方ではない。逆に平凡な踏み方と言える。
しかし、ライム全体を見ると頭に残る。アガる。
言葉の運び方だけでパンチラインをつくっている。
ワード自体、踏み方自体のパンチ力に頼らず、その使い方だけでライムを美しく魅せるという点において、FORKさんは他の追随を許さない。バトルだけでなく、リリックでも共通している。
2017年から今にかけて、どんどん引き算に磨きがかかっている。
上記3例においては、
①長い韻、数を踏むことを引く
②印象的な言葉で踏むことを引く
③これとこれで踏むんだ?という驚きを引く
ことでパンチラインになっている。(各項目については後述)
捨てて削ぎ落として、何が残るか?
FORKさんがずっと追い求めてきた、ライムの美しさに尽きる。
要は使い方、その味が美味いかだ…ってダンジョンのSURRYさんとの試合で言った通り。
引き算は、バトルの言葉使いだけにとどまらない。
FORKさんというMC自体、色々捨てながら選び取っている人だと思う。
「ライム追い求め安易なフロウ でも武器はこれしかないだろ」(12cm)ってリリックの通り、フローよりライムを選んでるのは確か。
無駄口を叩かない。社交辞令言わない。
何の服でも着るわけじゃない(willは横浜のブランドだし、North Faceは地元の友人が働いてる)。
そしてソロでの道を捨て、crewを選び取っている。
何にでも手を出すわけじゃない(女性関係は分からないが)。
選んで手元に残したものは少なくても、それを最大限活かして魅せるところがすごい。
ライムしかないと言われても、ライムだけで良いと思えてしまう。
ソロ待望論があっても、結局ICE BAHNが一番カッコいいと思わせてくれる。
しかも全部、ひけらかすような下品さがなく、
生き方と姿勢で見せている。
◇長い韻、数を踏むことを引く
本人どこまで意図的か確認したかったけど聞けなかったので、私の印象に基づく推論になるが、前述した3例についてもう少し。
近年は会話が噛み合うことを優先してるから、「文脈がガッチリ維持できて相手の言ってることに言い返せればケツ2文字でも韻踏めばいい」(FREAKOUT!, 2022/06/27)とは前から言っていた。
UMB2006の頃と比較すれば分かりやすいが、足し算はもうしていない。踏む文字数も、何個踏んだかも、少なくなっている。数を踏んでいない時に「FORK調子悪い」と言われがちなのがもどかしいが、「RHYME至上主義」は数を踏むことよりも魅せたいライムを際立たせることを意味していると思う。
UMB2006のFORKさん(26歳)を見れば明らかなように、やろうと思えば、どんな言葉でも無限に踏める。引き出しはある。でも44歳のFORKさんはそれはやろうと思えない。「これはアリ、これはナシ」のナシの部分が他のMCより多い。何でも踏むわけじゃない。自分がやりたい踏み方を守る。自分で決めたハードルが高い。セルフ縛りプレイで戦っている。マシンガンを持った相手にも、刀一本で勝っているように見える。なんでそんな戦い方するのかなと思うけど、美学だろう。
◇印象的な言葉で踏むことを引く
印象的な言葉って何?の例として、KoK2023のSAMさんvs裂固君から少し引用したい。
SAMさんはリザレクション、アトラクションとか、「あの日のいずれも今夜実現 来いよ豊洲ド派手に行くぜ」とか即興でもリリックになりそうな表現をしている。▷あの日のいずれ▷来いよ▷ド派手に、とか言葉だけでも印象が強い。裂固君は松尾芭蕉、楽勝だよ、夢中に押韻、宇宙飛行士とか、ワードチョイスも踏み方も印象が強い。
FORKさんはリリックもそうだけど、ワードチョイス自体はシンプルで印象が弱い。もしくは少しダサい。今回でいうと「パンづくり」、前回でいうと「お惣菜」がダサい印象の言葉だと思う。
カッコいい言葉を使ってカッコ良く踏まないのがFORKさん…というかICE BAHN。ふざける部分を残す。これは「2.5枚目の美学を熟知 ダサい言葉ほどライムは美しい」(Code Name)と歌う通り、本人の美学。
同じCode Nameで「ありふれた事がどこか特別に」と言っているが、▷犬▷いる▷気持ち▷2文字▷ストーリー▷素通りーいずれもありふれた言葉なのに、FORKさんのライムでは全部新鮮なものに塗り替えられていく。豊富な知識や語彙力、センスがある人はハナから私と距離が遠い。他方、FORKさんが使う言葉は全部自分の掌にあるものなのに、私はこの形では絶対出力できない。
◇これとこれで踏むんだという驚きを引く
「お惣菜」と「存在感」、「ハングリー」と「パン作り」等はこれとこれで踏むんだ!という驚きがあるものの、
ストーリー、素通りは踏み方としてはそんなに珍しいものではない。
実際、4/29開催のSPOTLIGHT関東編では、L.B.R.LさんとCIMAさんがこの踏み方をしていた。一大会で2回出るのは、踏み方として多い方だと思う。
L.B.R.Lさんは「その通り時は過ぎるからな 俺は不条理で無条理なストーリーを素通りさせないために…」(vs MOL53さん)
CIMAさんは「ENTERから続くストーリー素通りはできねえ」(決勝アカペラ)
どちらも文脈に乗っていて、スッと耳に入る。
ただ一番頭に残るのは、今回のFORKさんのライムじゃないか?
FORKさんはそもそも踏んでる韻と韻だけじゃなく前後の文脈含めて「ライム」としてひとくくりで考えてるから、この単語とこの単語で踏むのすごいとか、何個踏んだとか、そういう切り取り方だと魅力が伝わらない。
FORKさんは「韻を踏む」という言葉と「ライムする」という言葉を使い分けている非常に面倒くさい(こだわりが強い)人。
だから、RHYME至上主義の「ライム」は、踏んでる韻と韻の部分(何と何で踏んだか)だけじゃなく、文章の言葉運び全体を指す。
よく「相当冷める」と「そっと収める」、「固有名詞」と「こーゆー目して」で踏めるのがFORKさんの魅力と言われることがあるが…。相手に語りかける口調とかもよく言われるけど、まあそれはそうだけど、本質はそこじゃないと思う。
2018/12/31の玉露さんのブログ。
誰が=UMB2006(26歳)の時点であそこまで踏めたFORKさん(44歳)が、
何を=自分にとってのヒップホップとは何か、BBOYとしての美学、ライムの美しさを、
どう言うか=シンプルでありふれた語彙と時にダサくもある表現、引き算による無駄のない言葉運びで、ライムを引き立てて実証している。
そしてそれ即ち、オリジナリティの追求である。
どう言うかの部分に関して。ダサい言葉をわざわざ選ぶことについてはTIMELINEのインタビューが分かりやすい(2017/12/01)。ICE BAHNにとってのヒップホップが何かも、ここからうかがえる。
(主語が「俺」ではなく「俺たち」であるように、crew共通の方針。後半「ヒストリア」のフックのリリックと重なることを言っていて感動した)
5/25にbridgeでライブを見た後に玉露さんと話していたら、「ヒップホップはオリジナルだからカッコいいんであって、カッコいいからカッコいいってのは違うと思うんだよね。だからオリジナルであれば、そいつがどうなろうがカッコいい」と話していた。ICE BAHNらしさが詰まっている。
ありふれたシンプルな語彙、ダサいワードチョイス。FORKさんからは「この材料でカッコ良くライムできるの俺だけっしょ」みたいな姿勢を、かねがねリリックからもフリースタイルからも感じる。 なんでそんなことをやってるかと言うと、「それが一番ヒップホップだと思ってるから」だと思う。 自分の美意識丸ごと聞かせるそれがB式(あまのじゃく)。
ICE BAHNは韻が固いからカッコいいのかというと、それはスタート地点の話。ICE BAHNが韻固いのは当たり前で、それは1stアルバムを出した2003年時点で完成されている。2024年のICE BAHNのカッコ良さは、三者三様のオリジナリティがライムをどう引き立てているか。MCとしての在り方を含め、筋の通ったBの美学に目を向けてほしい。
◇アクセントも引く?
あともう一つ気になった踏み方(こんなことするっけ?って思ったやつ)は、TKさんとの試合の
「あんなに強いグータッチ初めてだよ やられた瞬間に 『何だ?コイツ』って思っちゃったよ」。
あんな ana なんだ ana
強いグー uoiu コイツ oiu
グータッチuai 瞬間に u(n)a(n)i
って踏んでるけど、アクセントを付けず平板な言い方をしていて、サラッと話してるだけに聞こえるから、初見では踏んでることに気付かない。素人考えでは、そこ捨てたら客と審査員が初見で気付かないのでは?と思ったけど、なんであんなサラッと言ったのかな。「ハマるとこだけフィットすりゃいい」(インディーズのジョーズ)という考え方をそもそもする人だけど、後で気付いた時の面白さ優先したのかな?これも質問しようと思いできなかった。
◆赤の女王仮説
「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」。
ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」に出てくる赤の女王の台詞を引用し、生物の進化の仮説の比喩として、しばしば語られることだ。
(いくら抗菌薬をつくっても細菌が耐性を獲得し生き残るように、生物は生き残るため進化し続けるということ。)
FORKさんがラップを始めたのは1997年、17歳の秋。バトルに出始めたのは2001年夏。2003年には早くもBBP3位、2006年には26歳でUMB優勝を成し遂げた。2017年からダンジョンに出演。41歳の時にはKoK2021で優勝し、時を経て獲った日本一で、ずっとトップにいることを証明した。現在44歳(つい先日、史上初めて新人年から23年連続勝利を達成した石川雅規投手と同い年)。
昨年、音楽ナタリーのKENさんとの対談で、FORKさんは下記の通り話していた(2023/11/20)。
FORKさんの考える「さらに違う方向」が何か、私はまだ分からない。本人に尋ねても、手の内を明かすことはしないだろうから、試合を見ながら答え合わせしていくしかないだろう。
MCとしての根幹を成すRHYME至上主義はずっと変わらない。
ただ、44歳の今も進化しようとしている。
私は00年代からの映像や記事を追っている。(FORKさんが30秒しか出てこないDVDとかも買って集めている。)本稿で色々引用してる通り、内容覚えるくらいどれも何回も見ている。
UMB2006も、ダンジョンも、優勝した真アドレナリンもKoKも、何回も見た。
その上で言える。今が一番カッコいい。
ふぁんくさんは2013年11月5日時点で、「最近のFORK氏は玄人向けな気がしなくもない」とツイートしていた(ENTERで対戦した時)。
個人的には、2013年で玄人向けなら、今のFORKさんがやってることとは…?と思う。
FORKさんが目指す所は、FORKさんにしか見えていない。他の人が見たことがないものを見据えていると思う。先頭に立つまで走るのは苦しくて辛い。でも先頭に立った時の景色は、そこに立った人にしか見えない。
▶︎これほどFORKさんを好きな筆者が本人に会うとどうなるかは、この記事をお読みください。
▶︎チーム神奈川の紹介映像ロケ地のバーを訪問しました。レポはこちらから。①の方では、SANTA君がいた初回の紹介映像ロケ地(中華街)も訪れています。番組ファンは是非。
▶︎note更新予定
①5/24渋谷R LoungeのIBライブレポ
②5/25横浜bridgeのIBライブレポ
③ICE BAHN本人談話…を執筆中です。
IB4人とも私がnoteを書いていると知っていて、ライブで会った時に聞いた話を「書きたい」と言ったら「なんでも書いて」とのことだったので、記事化する予定です。話を聞いたのはKITさんと玉露さんがメインですが、こんな感じでFORKさんにも触れています↓
↑順番に書いているので掲載はまだ先になりますが、後日ぜひ読みに来てくださいませ。