FORK vs DOTAMA
4/23深夜放送されたフリースタイル日本統一の関東死闘編で、チーム神奈川とチーム栃木の大将戦としてFORKさんとDOTAMAさんが対戦したので、感想を書きました。下線部はリンク付き。約7千字。
筆者はFORKさんのヘッズなのでDOTAMAさんのファンの方は閲覧に注意なさって下さい。
※FORKさん(ICE BAHN)関連のnoteを色々書いています。過去のnoteも是非!
▶︎FORKさんの好きなところ(1万1千字)
▶︎解説FORK vs 呂布(1万4千字)
▶︎日本統一FORK vs 埼玉感想(7千字)
◆初めて生で
筆者がICE BAHNヘッズになったのは昨年1月。FSLも前回の日本統一も都合が付かず、この収録の日(3/4)、初めてFORKさんの試合を現場で見るという栄に浴することができた。(会場では、玉露さんにも初めて会えたので嬉しかった。)
FORKさんは現在44歳。ダンジョンに出て、KoK2021も獲った。個人のプロップス的にもcrewのシーンへの浸透度的にも、バトルに出る意義は薄れている。2022年のスポラは韻踏と仲良いから別として、FSLと日本統一は、自分やcrewのためというより、シーンのために出ている気がする。FSLにも日本統一にも、「MCが目指す場になればいい」というようなことを言っていたから。
あと何回FORKさんのバトルが見られるかな。そしてそのうち自分が現場に行けるのは何回かな。
そうして楽しみにしていた初めての試合。現場で抱いた気持ちを、どう言葉にしたらいいものか。
◆対戦歴
私の知る限り、DOTAMAさんとはチーム戦でしか当たったことがない。しかも4回やって3回負けている。
個人戦で当たったのは、今回が初めででは?
①2013/12/29 AsONE準決勝@渋谷WWW
◯ICE BAHN vs 今日の2MC(NAIKA MC×DOTAMA)
AsONEの第一回目。ICE BAHNは初代王者。
この試合でDOTAMAさんは「初めましてICE BAHNさん、やるのは初めて」から始めているので、これが初対戦でいいだろう。
DOTAMAさんは39歳で5歳下。自伝本によると2003年のBBPからバトルに継続的に出ているそう(その年はFORKさん3位)。FORKさんは2001年BBPからバトルに出ているので、バトル歴でいえば2年しか変わらない。
関東死闘編でDOTAMAさんの言っていた「昔チーム戦で戦った時、ICE BAHNのことを音源がダサいキングギドラって言ったけど」はこの試合なので、この試合だけは是非見返してほしい。「音源がパッとしないブッダブランド、音源がパッとしないキングギドラ、笑いがパッとしないダチョウ倶楽部、笑いがパッとしないロバート」ととりあえずトリオdisをしている。ICE BAHNに対して、「言いたい事」がそれなんだろう。(2013年は7月に名盤RHYME GUARDをリリースした年。)
「ちゃんとやれ」とKITさんが前に出て言う珍しい試合。この試合のDOTAMAさんは、ナイカさんにマイクを渡さず煽り倒してきている。
②2016/05/29戦極MCBATTLE第14章×AsONE@リキッドルーム
●ICE BAHN+TSUBOI vs 今日の2MC(DOTAMA×NAIKA MC)
2013の借りは返させてもらう、とDOTAMAさんが言っているから、これが2度目の対戦でいいはず。このバトルの見どころは、FORKさん独自の「Q&A」という様式のフリースタイル。
③2017/01/25フリースタイルダンジョン3rd season Rec3-3
●ICE BAHN vs DOTAMA,CHICO CARLITO&ACE
ICE BAHNとして唯一ダンジョンのバトルに出た試合。見返したら審査員席にカルデラビスタさんがいて胸熱。
④2017 MONSTERS WAR (4th Rec 5-4辺り)
●FORK, SIMON JAP, サ上 vs 輪入道,DOTAMA&MU-TON
三銃士と30代後半が一番ジューシー、コックピットとフォーク1個が上手すぎた試合。見返したけどFORKさん上手すぎる。若きムートンさんもいい。タッグシット。
◆怒れる頭
DOTAMAさんの音源は元々買っていたけど、その他バトルやトークは追っていない。(筆者はアンチサブスクなので、音源は一つ一つ買っている。)
このたびのFORKさんとの試合を見て「なんでこんな言葉を使うのかな?」と疑問だったので、持っていなかった音源を買うとともに、自伝本の「怒れる頭」(2018年5月発行)を買って読んだ。
P76の高校の文化祭のエピソード。HammerHead(ドラムソフト)で組んだ音に乗せて「宣戦布告」という自作曲を披露した、という記述に驚いた。ハンマーヘッド=ICE BAHNのレーベル名、宣戦布告=FORKさんがICE BAHN加入前にCDで出した曲名だから。なんたる偶然。
DOTAMAさんの歩みについてもさることながら、バトルの中枢にいるMCがバトルの功罪をどう見ているかという点が、非常に分かりやすく記された本だった。日高大地さんのnote「MCバトルの毒と薬」と似ている。
その上で、DOTAMAさんに思うこと。
掌をカメラの方に向けて自撮りしてるから、いつも手相が気になる。右手のますかけ線すごい。
ヒップホップの文脈において、DOTAMAさんは毀誉褒貶相半ばする人物といえよう。ただ、バトルでのdisを「性格悪い」などと評する人は、言葉を額面通り受け取りすぎている。「disの極みメガネ」の異名を持ち、「悪役」としてセルフパロディまでしている人だ。DOTAMAさんのdisが露悪的で性格悪いのは大前提。それが顕著に表れたのがダンジョン5th seasonのACEさんとの試合だったと思う(生まれなきゃよかったんだよ、ってやつ)。
(↑ちなみに筆者はDOTAMAさんの曲の中で悪役が一番好き。ビートがカッコいい。)
「印象操作かイジメの豪華版 でもそれ見て皆も笑ってんじゃん」と歌詞にもあるけど、DOTAMAさんのdisはキャラクターだし、エンタメ。貫けばスタイル。歌詞を熟読し、「my name is」も見たが、その程度の俄知識では腹の底は分からなかった。ただ、怒らせようと思って言っているのかな?と感じた。記者や警察官、弁護士など、わざと怒らせて相手のボロを出そうとしてくる人は結構いる。
(DOTAMAさんとFORKさんのツーショット。本人のTwitterより。FORKさんがダンジョン出始めの頃。2017年2月)
「フリースタイルモンスター」のFORKさんとCIMAさんとの試合中、モンスタールームでDOTAMAさんが爆沸きしていたの見ている。だからあそこまでdisられたとて、FORKさんへのリスペクトが無いとは思わない。
◆フォームは崩さない
ここで、晋平太さんによるFORKさん評。
フォームは崩さない。FORKは崩れない。ダイヤモンドは砕けない。
ハラハラしながら見ていたが、FORKさんはマイペースに韻を踏んでいた。
FORKさんが最後までFORKさんでいてくれて良かった。
1ターン目、「頭ハゲてんだろキャップ取れよ」に正面からアンサーしなかった時点で、FORKさんは相手の土俵に乗る気はないんだなと感じた。昨年インスタライブで帽子を取ってほしいとヘッズから要望があった時、即座に取っていたので。ヘッズには抵抗無く見せるけどDOTAMAさんの話は無視したのは、バトルでする会話としては取るに足らないことだし、ムキになってアンサーする方がカッコ悪いと判断したのだと思った。
ただ3月のDOTAMAさんとの試合収録後、Yahooの様子が穏やかではない。
時計マークは自分が調べた検索履歴(可惜夜=私の筆名)。
虫眼鏡マークはYahooの検索候補で、よく調べられている関連ワード。
絶対現場いたヘッズ達が調べたからでしょ。(収録前も「帽子」はあったけどこの言葉はなかったはず。)
ちなみにGoogleユーザーには、FORKさんはおしゃれな印象を持たれている。
Googleに倣い、一日一回は「FORK ラッパー 服」でYahoo検索し、ビッグデータを正したい。
◆嫌味がない
FORKさんの3ターン目。普段ここまで言わない。元から言おうと決めていたことではないだろう。DOTAMAさんのバースによって引き出され、言わざるを得なかった言葉だと感じた。
再び晋平太さんの言葉を借りる。
これがまさに、私のFORKさんの印象だ。リリックでもそうだけど、全てに美学が表れている。
DOTAMAさんは元々のバトルスタイルからして、そこに反していると思う。
DOTAMAさんの自伝本から少し引用する。
この辺り、FORKさんは頷かないだろう。
FORKさんは試合後、「かねがねDOTAMAのことは嫌いじゃないですけど、DOTAMAのバトルは嫌いです。やるのも見るのも嫌いです」と話していた。そうだろうと思う。FORKさんがここまで言う試合後コメントは記憶にない。
1、2ターン目とも相手にせず、窘めるようなことを言っているのに3ターン目があれだったので、FORKさんも強く返さざるを得ない。ただ、思ったこと全てを口に出さず、だいぶ言葉を選んでいるのが分かる。品格がある。リリックでもそうだけど、FORKさんは何の言葉でもラップに載せるわけじゃない(何でも踏むんじゃなくてコレはアリ、コレはナシという、自分に課している制約が他のMCより多いと感じる)。使わない言葉にも、美学が表れている人だと思う。下ネタは制約ないんだけど…。
◆全文感想
KENさんが「DOTAMAくんは負けたくない気持ち伝わってきた」と言っていた通り、DOTAMAさんは最初からギアを上げて切り込んできた。
「俺だってあぐらかいてる訳じゃねぇんだよ、あんたが勝手にカッコつけてヒップホップぶってるけど俺は俺のヒップホップがある」
DOTAMAさんは自らこう言っているけど、FORKさんは別にあぐらかいているとは思ってないし言わなかったと思う。でも「お前相手に何言えばいいんだよ」とか素直に言うMCが多い中、DOTAMAさんは力技で争点を提示してくるからすごい。相手を理解しないとできない。
「勝手にヒエラルキー作って一番上にいるおっさんだろ、頭ハゲてんだろキャップ取れよこの野郎」
権力側にいる、は最近よく言われるし、今後も言われるだろうな。帽子の中身が気になるのは9割のヘッズが同じ気持ちだと思う。バトルのトピックとしては見た記憶がないけど、仮に言われてもアンサーは返していないと思う。
権力側、という話と帽子取れ、と二つトピックが提示されている(しかもどちらも答えるのに労力いらない、FORKさんにとって言われ慣れた話な)のにフル無視している。DOTAMAさんも攻め方を変えるかと思ったが…。
「目が冷たい奴ほどハートはあったかいって話だぜ、俺を失明?怖いのあんたの方だろうがよ、サードアイを開眼させてやるよ俺の音楽で ライムセーバー俺からしたら退屈な奴ですわ」
これは細かくアンサーもしているし韻も落としていてDOTAMAさんらしいバース。
ライムセーバー、だいぶ迷惑と、見落としてる、ミュートしてるは現地で爆沸きした。とてもFORKさんらしい踏み方で展開しているので、ここでも崩れない。
「昔チーム戦で戦った時にICE BAHNのことを音源がダサいキングギドラって言ったけど、今あんた音源出してないキングギドラになっちゃってるんじゃないですか?アンタ自身は音源出してない般若さんなんだよ、音源活動全然してねえだろバカ」
MCネームの通り怒りが活動の源と明言しているし、新曲出せよ、というベテランへの怒りが腹の中にあるのは分かる。DOTAMAさんの言ったことは他のMCからも言われるだろう。「酷いとこまで言い過ぎ」「大事なところ見落としてる」と再三窘められた上でのこの物言いが、次につながる。
音源活動から人間性の話に持ってったと思うと同時に、受けたダメージの分最後に全部相手に返した…と思った。5-0という結果、そしてDOTAMAさんの試合後コメントの「完敗でした」、「気持ちと2文字でこんな盛り上がるの?」というKENさんのコメントを聞いて、茫然自失状態からやっと我に返った。
◆元会社員
FORKさん対DOTAMAさんは、見てみたいカードではあった。
ただ別の展開を期待していた。
DOTAMAさんは音楽をやるため、2012年に会社員を辞めている。
そして実際、音楽に100%を注いでいる人だ。
それを真っ直ぐに、正攻法で言われたら、FORKさんは何て返すかを聞いてみたかった。
FORKさんは昨春の「my name is」のインタビューで、それ言われたらこう答えようみたいなのあるけど…と話していた。だけどその答えを聞いたことがない。聞けるのは、DOTAMAさんしか適任がいないと思っていた。
DOTAMAさんは音源リリースも主催ライブもこまめだし、いまだにバトルも頻出するし、他にも配信とか、地道に活動をしている。ソロだから、責任も評価も全て一人で背負っている。
週刊誌の記者から、駅のホームでは常に脚に力を入れて立っていると聞いたことがある(恨まれすぎているから)。
誰かを批判することができるのは、同じように自分も批判される覚悟を持った人間だけだ。
言葉を使う仕事の人間は、言葉の影響力をよく理解している。吐いた唾は呑めぬ。吐く言葉は勿論、吐かない言葉も選ぶ。そこに矜持がある。
これは比喩だけど、「殺すつもりなら殺される可能性もある」(怒れる頭、P207)。
なかなかあそこまで毒を吐く覚悟は持てない。その是非は別として。
MCバトルは試合なので、disは単なる悪口ではなく戦術になる。disらないタイプのMCもいるけど、ERONEさんは「やっぱ服装でも何でもいいから、disはないとダメ。バトルなんやから」と言っていて、まあそうかなと思っている。泥仕合じゃない限りはそうかな。大好きなMCがdisられても、“バトルなんやから”さもありなん…と普段は私だって気にも留めない。
◆「釈迦と悪口男」
神も仏も信じないが、法話を一つ。
皆に慕われている釈迦を、衆人の前で面罵する男がいた。男は釈迦が逆上し言い返す醜い姿を、大勢の人に見せることを望んでいた。でも釈迦は言い返さず、こう言った。
「もし他人に贈り物をしようとして、その相手が受け取らなかった時、その贈り物は一体誰のものだろうか?」
「私は悪口を少しも受け取らなかった。だからあなたが言った悪口は、全てあなたが受け取ることになる」
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皆から慕われている釈迦をMC、悪口男を自分になぞらえ、収録を見てから今日まで考えていた。
「戦う人間にも観る人間にも必要なのは、リスペクトと同時に、相手を傷つける言葉を吐くという『覚悟』と『責任』」(怒れる頭、P208)
言辞施や和顔愛語ともいうが、聖書でも、似たような意味合いのことは随所でいわれている。私の気持ちは言葉にはしない。
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