空白期間
辞めますって伝えたのが、2022年11月4日。
実際に辞めたのが、2022年12月9日。
次の会社に入社するのは、2023年1月16日。
この2ヶ月を振り返る。
2022年11月4日〜15日
会社からの引き留め期間。数えてみると、計18人と各1時間ずつぐらい面談した。背中を押してくれるのではと期待していた先輩方からは意外とシビアな反応だったり、各々持っているファンドのイメージとかキャリアの考え方を知る上で勉強になった。イメージに関してはワンマン社長の印象とか、日本社会においてなかなか受け入れられない難しさとか、実態は今後働き始めたらどうせ見えてくる・自分で判断するものだから、先輩たちの発言自体に転職の決意が左右されることはなかったけど、第三者的な目線は今後見えにくくなっていくものでもあるから、外からの見られ方を知れてよかったと思う。そして、社会の風当たりが厳しくても仕事をする覚悟を決める上でも、知れてよかった。
2022年11月16日〜22日
退職関連の連絡をひたすらに待ち続ける期間。振り返っても何をしていたかあまり鮮明に思い出せないぐらい、殆ど何もしていない。少し調べ物をしたりはしたけど、虚無を感じる時間が結構あった。いつ会社から連絡が来るかもわからない、あまり急かして最後に波風が立ってしまうのは嫌、ひたすら次の会社の社長や上司に心配され続け、板挟み状態。こういう非効率的なもどかしい状態が今後の人生においてあまりないといいなと思う。
2022年11月23日〜27日
母と姉が香港へ遊びに来た。到着してから3日間は外食はできず、せっかく遊びに来てくれたのにテイクアウトばかり。それでも飲茶とか火鍋とかは家で食べれたし、いつか家族が遊びに来てくれたら泊まりたいと思っていた憧れのペニンシュラにも泊まることができた。二人に私の生活圏を案内できるのはやっぱり嬉しくて、同時にホームシック度合いが増した。今まで生活圏内に家族がいないこと、綺麗な景色や体験を好きな人たちに共有できないことに意外とストレスを溜めてたんだなと実感させられた。少し歪んでいるかも知れないけど、旅行を二人にプレゼントできるぐらい金銭的な余裕があったことで、この数年齷齪働いてよかったと思えた。
2022年11月28日〜12月1日
ホームシック度合いが増した結果、家族が帰る日の朝に一緒に日本に帰国することを決めた。まだ退職手続きは終わってなかったけど(この時点では引越しが必要になるのかよくわからない状態)、遅すぎる事務手続きを待ち続けるのが嫌になって帰った。結果的にはよかった。帰っても何一つ困ることはなかったし、待ち続けてもあまり意味はなかった。この間は3人ぐらいと会って食事をした。1人は3年半ぐらい付き合った彼氏と別れたかと思いきやもう次の人と付き合うという話をしていて(だからこそ別れられるのかも知れないけど)、同じ時間が流れているのが不思議な気持ちだった。他の2人は会社の同期で、今の部署で専門性をしっかりと身に付けている2人が羨ましかった。私には到達し得なかった領域なので、嫉妬した。
2022年12月2日〜8日
数年ぶりにフランスへ行った。学生時代以来のフランスは思っていた以上に覚えていた通りというか、3−4年ぶりなのに安心感すらあって、その感覚になれたことがなんだかとても嬉しかった。初めて行ったエクス=アン=プロヴァンスでは、そこの大学院に通っている親友とマルシェで野菜を買って、チーズ屋さんでチーズを買い、スーパーで安いワインを買って、チーズフォンデュを作って、南仏のロゼを飲んだ。今回初めてフランスでレンタカーをして、シャトー=ラ=コスタという近隣のワイナリーに行ったりアヴィニヨンにまで遊びに行った。初めての海外ドライブは冷や冷やしたけど、どちらも行けてよかった。特にワイナリーは南仏の野外空間に沢山アート作品が置いてある中を2−3時間かけて歩いて回れるようになっていて心が浄化される最高な空間だった。その後に行ったパリも、親友とひたすら懐かしい通りを歩いたり、大好きなクリュニー美術館に行ったり、新しくできた百貨店のボンマルシェを散策したり、久しぶりに一人でホステルに泊まったり、古着屋さんを探して歩いたり、なんだか大学生に戻ったような感覚で、ちゃんとあの時の自分がまだ確かにここにいることに安心した。
2022年12月9日〜19日
実家にいた。自分の部屋をひたすら掃除した。この数年で使わなかった不要なものは捨て、ニトリで収納ボックスを買い、断捨離と整理整頓。外出は、母と千住真理子さんが出てるクリスマスコンサートに行ったり、母・姉と東京バレエ団のくるみ割り人形を観に行ったり。ワタリウムの加藤泉展にも行けたし(ルアーヴルに大きな野外作品を展示していると知って嬉しかった)、ファーガスマカフリーの元永定正展も行けた。姉とその彼氏の家でM-1の鑑賞会もした。M-1の結果には納得できなかった。「嫌味の多い漫才がまだ世の中に受け入れられていてよかった」みたいな審査員のコメントには少し落胆してしまった。今の世の中がどうかではなく今後どうなっていくべきかベースで物事が決まる世の中だったらいいのに、とお笑いに限らず思う。
2022年12月20日〜26日
京都に滞在した。日本に帰国してからすぐに会いに行かなかったことに拗ねていたらしい人は、相変わらず忙しそうに仕事してたけど、恐らく少し無理をしつつも毎日早く帰ろうとしてくれて、嬉しかった。とはいえ、一人で京都で彷徨いてる時間も楽しくて、沢山彷徨った結果、この1週間でかなり京都の地理がわかるようになった気がして嬉しい。行きたいと思いつつも諦めていた具体展を見に中之島美術館と国立国際美術館に行けたのも偶然の中の嬉しさがあった。夕方に高島屋で安くなってたあんこうを買って家であんこう鍋をしたり、「いってらっしゃい」を言えたり、毎晩「今日のご飯はどうする?」って連絡を入れられる束の間の同棲ごっこも、また楽しかった。クリスマスイヴは、キッチンパパで美味しいお米を食べ、媚薬香水作りをして、スーパーやらパン屋さんやら花屋さんに寄りながら食材と花を買い集め、夜はせっせとビーフシチューを作ってくれる姿を見て、幸福度が高かった。クリスマスの夜にもせっせと年賀状を作ってくれて、改めて、何かを作っている姿が非常に魅惑的で尊いなと感じた。
2022年12月27日〜28日
大学の同級生たちと忘年会があった。同級生カップルが結婚していたり、各々仕事が忙しそうな人たちばかりだったけど、みんなで食事している時の空気感は変わらず、それが嬉しかった。この数年で自分の中身含め色んなことが変わってしまったような気がしていたけど、意外と根っこの部分はそう簡単に変わらないのかも知れない。次の日に会った大学時代の友人たちは帰国の度に会ってくれているからそこまで久しぶりじゃなく、話は大して盛り上がらなかったけど、心から安心できる人たちがちゃんとここにいることはまたとても幸せなことだ。
2022年12月29日〜2023年1月1日
新潟〜群馬旅から、実家の巡礼をした。新潟では久しぶりに会う友人と3人で地元の居酒屋で楽しく色んなお酒を飲んで、次の日には写真を沢山撮ってもらった。写真を撮られるのは苦手だけど、振り返ってみると好きな写真が増えて嬉しい。次の日は新潟の秘湯らしい有形文化財の木造温泉宿に泊まった。妙に天井の高い部屋で、狭いながらにとても雰囲気の良い旅館だった。大晦日は朝早く起きて瓢湖という湖で白鳥が大勢飛び立つところを鑑賞した。思いのほか不安定に飛んでいて、不思議だった。ものすごい感動とかではなかったけど、思い出に残る時間だった。その日は群馬の水上温泉で混浴の露天大浴場がある宿に泊まった。ものすごい寒い中でお風呂の間を移動したり、雪深い谷に位置する露天風呂に入るのは楽しかった。紅白とゆく年くる年を見ながらひとりはせっせと年賀状の版画を彫ってて、なんとない年越しだったけど、それがよかった。実家の巡礼については、私が相手の実家で飲みすぎて記憶を飛ばしたことを除けば良い意味で何事もなく終わってよかった。真相はわからないけど、お互いに安心できる相手がいることを親にお伝えできることは新年早々少し親孝行ができたのかな。
2023年1月2日〜4日
中高時代の友人と初詣に行った浅草寺でおみくじの凶を引いた。ただのおみくじだからと思うようにするけど、これから新しい会社で頑張っていこうと思っている最中、なんだかんだでダメージを受けた。でも久しぶりに2人とカラオケに行き、中高時代にハマっていたアイドルの歌を歌って、カラオケから出て歌いながら帰路に着いたのは思い出。次の日は、新宿でパートナーの親友と3人で食事をした。実家巡礼と同様、紹介してもらえることが嬉しい。その日は新宿に泊まり、次の日は一緒に東京都現代美術館のDIOR展を見た。OMAの会場構成は気合の入れ方が凄かったけど、DIORは別にそこまで好きじゃなかった。最後は神田の場末居酒屋で飲んで、東京駅で新幹線に乗っていく人を見送った。今回は特に12月末からかけてかなり長い時間一緒にいたので、感情が持ってかれそうになる中で必死に心を引き戻した。関係性も少しはっきりしたことだし、1年間はこの関係を続けてみたい。結局は個人同士でお互い縛り付けるタイプでもないから、関係性をはっきりさせたとて何も変わらないのかも知れないと思うけど、少なくとも私の方はもう少し感情の比重を上げてみたいなと思った。
2023年1月5日〜
ひたすらおせちを食べる数日を経て、久しぶりの友人に中目黒で会ったり、家族で鶴岡八幡宮へお参りに行ったり、横浜へ新しい通勤用バッグを買いに行ったり、パートナーとリモートで一緒にハリーポッターを見たりしながらこの数日が過ぎていった。今日は新しい会社の東京オフィスの人と会ったり、あと数名友人知人と会う予定がある。明日は前の会社の先輩とランチ・ディナーの予定が入っていて、長い白昼夢のような時間が終わろうとしている感覚がある。少しずつ仕事モードに切り替えていく。
簡潔に、それでも感情の起伏は全て着実に記録しておきたいと思った結果、こんな長文のノートになってしまった。
敢えて総括するとすれば、この2ヶ月を経て、振り出しに戻った感覚がある。とはいえこの歳だし、周りも自分も環境は着実に変わっていっていて、前進しているんだとは思うんだけど、心の中はかなりリセットされた。会社を辞めた時はだいぶ擦り切れたねずみ色だったのが、白い艶々の心に戻ったような感覚。そして、いつでもちゃんとその状態に戻れるんじゃないかなと希望を持てたのもこの2ヶ月の収穫。ここから新しい会社で何があるのか正直全く想像つかないし、準備・勉強しようと思っていたものは何一つとしてできていない状態だけど、それでもこの2ヶ月があったから暫くは自分の好きな自分の状態で、前向きにがんばっていけるんじゃないかと思える。少なくとも今この瞬間、素直にそれでよかったって思えている幸せを噛み締めてる。