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第五話 国語の先生

おはようございます。さかがみ文具店に商品を納品しております問屋の営業担当です(^_^)/。今日はさかがみ文具店によく来ていた国語の先生の話です。
実は、さかがみ文具店のそばにはいくつか学校があります。前にも話した美術系の専門学校以外にも小学校があります。

アンドー先生

一番近くにあるのは、上里中小学校です。かみさとなか小学校です。かみざとちゅうしょうがっこう、ではありません。ややこしい。
ここにアンドー先生という、国語を専門にしている先生がいました。小学校で教科主任のような形は珍しいのですが、前年度から来た校長が「国語はすべての基本」と言って、国語の教科主任を置いたらしいです。先進的です。
その国語の先生は、とても明るい先生で「私が〇〇を教えた」と、ある音楽家の名前をいつも言っていたそうです。確かに、その方の書く歌詞はきれいだったりするなあ。

さて、このアンドー先生、子どもたちに漢字練習を強いたり、よくある読書感想文などを宿題に出したりしない、変わった先生だったそうです。親の中には、「おかしな先生だ!」とクレームを入れる人もいたらしいですが、校長が抑えていたそうです。自分が呼んできた先生ですから、自由にやってもらわないといけないですものね。
で、アンドー先生は、国語の授業でやるのはたったのふたつ。こんな型破りな先生がいるんだなあと、驚きました。

ひとつは、作文です。ただし、内容は自由。自分の好きなことを書いて良いんです。アニメのキャラクタのことでもいいし、昨日の晩御飯のことでもいいし、YouTubeで見たペットの動画のことでも構いません。でも、条件があって、これまでに習った漢字や表現などは必ず使うこと。できれば、自分で調べて、できるだけ漢字で書いたり、事実を書いたり、意見を書いたりすること。そして、インターネットで調べないこと。
先生はこの作文をきちんと読んで、より良い表現や漢字の修正などをして生徒に返してあげるそうです。これは並の労力じゃないでしょうね。
もうひとつは、議論すること。授業中に、誰かの作文を取り上げて、意見を聞きます。いくつか意見が出たら、クラスを2つか、3つに割って議論するというのです。すごい!普通なら、許されないだろ(笑)(架空なんで(笑)。でも、私の小学五年生のときの担任がこんなのをやっていて、保護者からクレームを何度も受けてました(笑))

でも、これを始めてから、一年経って、なぜか算数の文章問題の正解率が上がるという不思議現象が起きていたらしいです。校長の狙い通りでした。

さとるくんの作文

ある日、国語の授業でさとるくんの作文が取り上げられました。さとるくんを覚えている人は、さかがみ文具店のコアなファンですね。第二話を読んでね。

さとるくんは、こんなタイトルの作文を書いていました。
「戦争をやめてほしい」
切実な内容そうです。アンドー先生は、この作文を取り上げた理由をこういったそうです。
「戦争は皆さんの身近にあります。昨日は校庭で木村くん対三井くんの戦争がありました」と。
「せんせー!あれはかけっこの競争だよ!戦争じゃない」
「おー!確かに!じゃあ、戦争と競争の違いは何?」
実は、さとるくんはそのあたりのことについて、作文に書いていました。ざっと、要約すると、

戦争は人殺しだから、絶対だめだと思う。でも、きっと、お互いに相手のことをみんな殺してやろうと思っていないと思う。
それなら、かけっことか、腕相撲とかで競争すればいいのに。

さとるくんの作文

議論と模造紙

「戦争は人殺しだからだめ!」
「かけっこは人を殺さないから良い」
「でも、かけっこで負けると悲しい」
「競争することがよくないんじゃない?」
など、いろいろな意見が出ました。

こんなとき、アンドー先生は答えを決めなかったそうです。子どもたちが考えること、それが大事なんです、と言うんです。びっくりです。そして、先生は何をしているかと言うと、必死こいて子どもたちの意見を大きな模造紙にまとめていたんだそうです。
だから、アンドー先生は、いつも模造紙を山程買い込みんでいたそうです。確かに、その頃、模造紙をたくさん納品していた気がします。なお、模造紙には、紙用マッキーがぴったりです(笑)。アンドー先生、御用達でした。

アンドー先生は、授業時間が終わるとその模造紙を廊下や教室の空きスペースに一定期間張り出しておいたそうです。すると、他のクラスの子がそれを見て、何か話したり、人によっては鉛筆でなにか追記したりしていたそうです。なかなか、良い文具の使い方だなあと私は思います。
アンドー先生に一度、ある模造紙を見せてもらったんですが、それには「なぜ空が青いか」について書いてありました。科学的なことを図書館の本で調べてきて追記する子もいれば、空の青さは人によって見え方が違う、なんて哲学的なことを意見として言う子もいたようです。子どもってすごい。

子どもとの距離

こんなアンドー先生なので、子どもとの距離がすごく近い先生で、さかがみ文具店に来たときに子どもたちに会うと、ほぼ間違いなく子どもの方から先生に近寄っていきます。
「せんせー、また模造紙買うの?」
「そうよ、みんなが楽しそうだから」
「せんせーの授業、疲れるけど楽しいよ!」
なんて会話がなされます。
そんなときこそ、先生は模造紙とマッキーを買っていきましたよ。

実は店長夫婦の長男も上里中小学校に通っていて、アンドー先生の授業を受けています。店長夫妻も、子どもからの話でアンドー先生と子どもの距離が近いことを知っています。そして、アンドー先生をとても信頼していました。いいお客様ですしね(笑)

突然の退職

ところが、ある年の3月中旬に事件が起こります。その3月末でアンドー先生は退職するというのです。大事件です!
実はアンドー先生、以前から高校の教師になりたくて模索を続けていたんだそうです。このことは店長も知っていたみたいです。それで、この度、私立の高校から声がかかって(免許の問題はクリアしていたようです)、その高校に入ることになったのだとか。

これが子どもたちに伝えられたとき、アンドー先生は手続きのために既に学校から早退していて、学校にはいませんでした。翌日に終業式を控えていました。
何人かの生徒が職員室に押しかけて、校長先生を捕まえて抗議したらしいです。こんなところで、国語の授業の議論が役に立つとは!(笑)。しかし、校長は決まってしまったことだからと話すだけで埒が明きませんでした。そこで、生徒たちは暴挙に出ました。

なんと、店長のお子さん(当時6年生)が中心になって総勢10名で、自転車を一時間ほど飛ばし、アンドー先生の家に押しかけるという事態が発生!
「俺、店のノートを見れば、アンドー先生の住所わかる!」
と店長のお子さんが言ったのがきっかけになったようです。よしいこう!
この10名は親に黙って居なくなり、夜の19時を過ぎても帰って来なかったため、警察沙汰になりました。

結局、19時半過ぎに店長のところにアンドー先生から電話があり、子どもたちはこちらに来ていて無事だとわかりました。子どもたちは全員泣きながら、先生にやめないで欲しいと懇願し続けたようです。泣き疲れた子どもたちは、先生の奥様に食事をごちそうになり、その間にそれぞれの家の親が先生のところに子どもを迎えに来ました。大事件でした。

その後

その後、10名のうちの1名が事件の4年後にアンドー先生が教鞭を取る高校に入学したそうです。アンドー先生は相変わらずの授業をしており、高校生相手に議論を展開していたそうです。ただ、変わったのは、先生の髪にだいぶ白いものが入ったことだそうです。

相変わらず、模造紙とマッキーを使っていて、でも書くのは先生ではなく、生徒になっているそうです。考えることを楽しむ、それを生徒たちは学んでいて、充実した国語を学んでいるそうです。

副店長に聞いたんですけど、その当時、店長はマッキーのところに
「意見がぶつかったら、マッキーでまとめよう!」
とかよくわからないPOPをつけていたそうです。おかげで売上は上がらなかったそうです。

(お話は全体としてフィクションですが、一部本当の話です)

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