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コロナ・ウイルス禍の下で広がる労働市場の明暗(1)

 世界的な感染拡大が報じられる中、日本の労働市場もその影響を大きく受けている。今回は日本の労働市場の現状を数回に分けて眺めていきたい。

〇 就業者 4月に一挙に前年比80万人減、8月時点でも同75万人減の大幅減少続く

 表1、図1は就業者の推移を前年比増減(万人)の形で、四半期、月次ベースで示したものである。就業者は雇用者と事業者(含む家族従業者)を合わせたものであるが、更に雇用者を「役員を含む正規雇用者」とパート、派遣などの「非正規雇用者」に分けて示している。

表1. 就業者の推移(前年比増減、万人)

就業者雇用者事業者(表)[2478]

1920就業者[2479]

図1. 就業者の推移(前年比増減、万人)

 就業者は今年1ー3月期からそれまでの前年比65万人程度の増加から鈍化を示し、4-6月期には同78万人減少に転じている。月次で眺めると、4月に同80万人減と一挙にマイナスに転じ、その後も改善幅は小さく、8月時点でも同75万人減となっている。

〇 今春以降急激な下落に転じた非正規雇用

 就業者の中身を眺めると、雇用者の落ち込み、それも非正規雇用者の落ち込みが明確である。非正規雇用者は年明け後の1-4月期には前年比で9万人へと下落を示し、4-6月期には同96万人へと急激な減少を示している。

 非正規雇用者の減少は6月には100万人の大台を超え103万人の減少、7月には131万人減を記録、8月時点では120万人減と減少幅を縮小したが依然として大きな落ち込みを示している。

〇 人手、人材確保に対し、非正規から正規雇用に振り替え正規雇用増加

 他方、役員を含む正規雇用は昨年10-12月期前年比で29万人増となり、今年1-3月期には同72万人増へと急増している。4-6月期には同19万人増へと鈍化したものの前年比プラスは継続している。
 月別に眺めると、6月は前年比で9万人増と小幅な増加となったが、その後7月同39万人増、8月41万人増と再び増加幅を拡大している。

 正規と非正規雇用の動きは真逆であり、正規雇用の増加基調の背景には人手、人材不足の下での雇用確保の手段として、非正規から正規雇用への振替が進展していると考えられる。

 とくに8月の雇用者の下落幅が前月より縮小した姿は、この動きが観察される。但し、雇用者全体としては依然として大きな落ち込みが継続している。業種間での影響が大きく違うことも考慮すると、正規雇用増加の動きが大きく進展していくとは現状考えにくい。

〇 家族従業員を含む事業者の増加

 表1と図1で更に観察されるものとして、就業者を構成する事業者(含む家族従業員)の動きがある。

 家族従業員事業者を含む事業者は昨年下半期に前年比で小幅な増減を示した後、今年1-3月期には同27万人減に落ち込み、4-6月期には同10万人減と落ち込みを示している。コロナ・ウイルス感染拡大に伴う影響で店舗、事業所閉鎖、倒産などが進展している姿である。

 但し、6月には前年比で一転して17万人増となった。7月も同16万人増、8月同4万人増と増加基調は継続しているが、鈍化傾向が観察される。

 この動きをリーマン・ショック時と比べてみると、リーマン・ショック時は家族従業員を含む事業者が雇用者の大幅減とともに大きく減少したが、今回、観察期間は短いながら6月以降家族従業員を含む事業者は逆に増加しているという状況が観察される ( 図2)。

就業者長期[2480]

図2. 就業者の推移(四半期、前年比増減、万人)

 但し、この状況はコロナ・ウイルス禍の下で一部の新規の事業者が増加しているとは思われるが、基本的には非正規から正規雇用に振り分けたと同様、ここでは非正規雇用の削減を余儀なくされる状況で、家族を従業員として活用するという姿であろう。

 この観点から眺めると、家族従業員を含む事業者の増加は、業務内容にもよるが事業規模としては中小、とくに零細事業所で起こっていると考えられる。

 これらの動きについて、続くレポートで産業別にお示しする。

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