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デフレ危機に直面する日本経済 = 構造的な問題を抱える日本に振りかかるパンデミック =

                       2021年 8月25日

 新型コロナ感染拡大から1年半、ここにきて変異株が世界経済に蔓延してきている。今回、米国経済と対比する形で日本経済の状況を示してみたい。状況は、日本経済の先行きに大きなリスクが待ち受けている。

〇 新型コロナ感染拡大から1年半、未だ感染前に戻れぬ日本

 コロナ感染拡大から1年半、日本の実質経済成長率は前期比年率で1.3%となり、前期1-3月期マイナス3.7%からの戻りとしては低調なものであった。

 米国ではトランプ大統領から政権を奪取したバイデン新大統領が、ワクチン接種の拡大、失業給付の大幅増額などの財政支援策を受け、実質GDPは今年1-3月期前期比年率6.3%と前期の同4.5%から回復力を加速、続く4-6月期には同6.5%と一段と拡大している。

 コロナ・ウイルスのパンデミック深化の下、世界最大の感染者数に見舞われた米国経済の回復力に対して、感染者数の少なさを自慢げにしてきた日本の回復力の弱さが際立つ。

 日米の実質GDPの位置を感染拡大前の2019年10-12月期を100として眺めると、今年4-6月期、日本は98.5で感染拡大前の水準回復どころか、それを1.5%下回る水準に止まる。他方、米国は同100.8と感染拡大前の水準を回復してきている。

〇 ダイナミズムに欠ける日本に振りかかる新型コロナ

 この状況をリーマン・ショック直前のピークからの推移で眺めると、ショック直前の実質GDP水準を取り戻すのに米国より2年半遅れた日本であるが、今年4-6月期は感染拡大前の水準を僅か1.9%上回る水準に低迷、対して米国は同22.8%上回っている ( 表 1、図1 )。

表1. 日米 : 実質GDPの推移(前期比年率年比、%、基準時点=100)

日米GDP(リーマン)[3366]

日米リーマン[3367]

図1. 日米 : 実質GDPの推移(リーマン・ショック直前ピーク=100)

 米国のコロナ感染拡大での経済の落ち込みは日本より大きなものであったが、その回復力、その勢いと比較すると、日本経済の弱さ、ダイナミズムの無さが浮かび上がる。

〇 日本の国内需要低迷

 それではコロナ禍の日米経済の姿を実質GDP項目、国内需要、海外需要である輸出等、そして海外からの供給としての輸入等にわけて眺めてみよう。図2、表2は新型コロナ感染拡大前の2019年10-12月を100として、各項目の実質水準を指数化したものである。

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図2. 日米 : 実質GDP項目の推移(2019年10-12月期=100)

表2. 日米 : 実質GDP項目の推移(2019年10-12月期=100)

日米需要項目[3368]

 コロナ禍での米国経済の回復は国内需要が牽引していることが鮮明である。米国国内需要は年明け後101.2と感染拡大前の水準を取り戻し、4-6月期には102.8と感染前の水準を2.8%上回っている。

 一方、日本の国内需要の拡大には腰折れ、足踏みの姿が観察される。昨年4-6月期の落ち込みは米国89.9に対し、日本は94.7と米国より落ち込みは小幅に止まったものの、その後昨年10-12月期時点でも回復水準は米国を下回る。更に年明け後は再び減少に転じ、4-6月期は98.8と前期より増加したものの、昨年10-12月期の水準を取り戻しただけで、感染前の水準から1.2%低い水準に低迷している。

〇 日本の海外需要拡大続けるも、感染前の水準を上回らず

 次に海外需要である輸出等について眺めると、日米ともにコロナ禍で海外旅行客の急減、航空、海上輸送などサービス輸出の急減に見舞われている。

 このような状況の下、米国の輸出等は昨年10-12月期89.3に回復したものの、その後は低迷している。サービス輸出はもちろん、主要輸出先であるメキシコ、カナダをはじめ欧州でのコロナ感染拡大が輸出需要回復を抑え込んでいる。

 他方、日本の輸出等は米国や中国向けを中心に回復基調を続けている。但し、コンテナ船の調達困難などもあり、今年4―6月期においても99.3と国内需要の水準を上回るものの、感染拡大前の水準を上回ることはできていない。

〇 海外供給が増加

 これら需要の推移の下、海外供給、すなわち輸入等について眺めると、輸出同様サービス分野での問題を抱えながらも、米国では昨年10-12月期に感染前の水準を回復、その後も拡大を続け、今年4-6月期には感染拡大前の水準を3.5%上回っている。

 海外需要が低迷する中、日本からの輸入拡大など海外供給の拡大は、国内生産活動、すなわち実質GDPの感染前水準が国内需要回復より1四半期遅れに表れているように、国内需要の回復力の強さが輸入を牽引している。この動きには後でお示しする半導体不足を反映した民間在庫投資に明確に表れている。

 国内需要が低迷する日本においても海外供給は増加を続け、今年4-6月期には感染拡大前の水準を上回った。この背景には、マスク、医療器具やワクチンの輸入増がある。すなわち、国内生産で賄うことができない需要増によるものである。

〇 民間需要の強弱が日米経済の違いを生み出す

 コロナ禍における日米経済の違いは国内需要動きに鮮明に表れているが、国内需要を家計部門需要(民間消費支出、民間住宅投資)、企業部門(民間設備投資)、そして政府部門(政府支出)に分けで眺めると、より鮮明となる。図3、表3は感染前の水準を100として各需要の推移を示したものである。

国内需要[3364]

図3. 日米 : 実質国内需要の推移(2019年10-12月期=100)

表3. 日米 : 実質国内需要の推移(2019年10-12月期=100)

日米内需[3360]

 一目して、米国において家計、企業部門が拡大していることが分かる。対して、日本はこれら民間部門需要が低迷しており、民間需要の強弱が日米経済の違いを生み出している。

〇 見劣りする日本のコロナ支援

 コロナ禍において政府部門による喚起は米国が日本より1四半期早く実施されているが、その後の水準は日本の方が高い水準を示している。

 日本の政府部門の支出水準が米国より高いにもかかわらず、日本の民間部門、特に家計部門の需要は低迷している。その背景には、米国の政府支援策は個人、家計を主軸とした経常支出であるのに対し、日本は個人に10万円給付は一度支給されたものの、経常支出としてはコロナ感染防止のマスク、医療防具、感染システム構築や事業者、医療従事者支援などが主であり、その支援額、時期は米国と比較にならない支援策である。

 日本の政府支出水準が米国より高い背景には、災害復旧のための公的投資があり、経常支出主導の米国とは民間需要喚起に大きな差が出ていることに注意すべきである。

〇 縮小続ける日本の民間消費支出、日本経済の先行きに大きなリスク

 図4は日米の実質民間消費支出の実質総需要に占める構成比であるが、米国では長期にわたり58%を上回り、今年4-6月期では59.6%に上昇する一方、日本では消費税率が引き上げられた2014年以降継続的に低下を辿ってきており、4-6月期では45.0%と過去最低の水準にまで低下してきている。

民間消費支出構成比[3369]

図4. 日米 : 実質民間消費支出の推移(対実質総需要構成比、%)

 消費税率が8%から10%に引き上げられたのは正に新型コロナ・ウイルス感染拡大直前のことである。ウイルス感染拡大を受けた外出規制、緊急事態宣言などにより民間消費支出が低迷しただけではなく、消費活動基盤が既に消費税率引き上げで弱まっている状態の中で、新型コロナ感染拡大が更に消費活動を抑制していることを政府は理解すべきである。

 新型コロナ・ウイルス感染拡大に対する財政支援が不十分で、かつ更なる介護保険料引き上げで家計はもとより、企業にも大きな負担である。新型コロナ・ウイルス感染のパンデミックにより世界的に財政赤字は拡大している。このような状況下で政府は消費税の増収で財政赤字が改善したと喧伝しているが、民間消費支出比率が過去最低に沈んでいく日本において、先行きの経済に大きなリスクがある。税金を生み出す国民を救うことが感染拡大阻止と同じく急務であり、国会を開催し、所得税率改正など小手先でなく抜本的な税制改正を含む財政策を実施すべきである。

〇 米国在庫、設備投資に半導体不足の兆候

 これまで日本経済と対比させる形で米国経済の立ち直りの力強さを示してきたが、その米国の先行きにも不透明感が漂い始めてきている。

 米国経済に先行きの国内生産に不透明感を示す要因が観察される。図5は実質民間在庫変動の対実質増需要に対する構成比である。いわゆる、在庫率である。表3と合わせてご覧頂きたい。

在庫投資[3365]

図5. 日米 : 実質民間在庫投資の推移(対実質総需要構成比、%)

 米国の民間在庫投資構成比は、感染拡大の昨年4-6月期マイナス1.3%とリーマン・ショック時と同程度の落ち込みを示した後、昨年末まで上昇している。しかし、年明け後再び急激な減少に転じてきている。

 同時期、米国の国内需要は拡大を続けており、民間在庫変動の減少は国内生産や輸入が国内需要の回復に対応できていないことを示唆しており、物価上昇の一因ともなっている。通常であれば、この状況を受け7-9月期以降在庫積み増しに向けた国内生産活動の拡大に寄与する大きな要因となろう。

 しかし、年明け後の急激な民間在庫変動の急減の背景には、世界的な半導体供給不足による国内外の製品生産停滞があり、米国国内需要拡大の下で国内での製品生産や製品輸入で賄いきれない状態の下、生産在庫、流通在庫が急速に減少してきていると推察される。

 半導体不足は今年4-6月期の米国民間設備投資にも表れている。コロナ禍でも知的投資を軸に堅調な拡大を持続してきた民間設備投資であるが、ここにきて、PCなど情報機器、そして輸送機械が鈍化に転じた。鈍化分野から半導体不足がその背景にあることは明らかである。

 世界的な半導体不足は来年春まで続くとの見通しも出てきており、先行き注意が必要である。

 同様に日本の民間在庫変動の動きを眺めると、コロナ禍での民間在庫変動はリーマン・ショック時とは異なり小幅な調整であり、年明け後も大きな変動は観察されていない。この意味するところは、米国と異なり日本の国内需要が弱いということである。

 すなわち、先行き、在庫積み増しなどによる国内生産活動喚起のエネルギーは弱いということである。加えて、日本でも半導体不足による輸送機械や医療機器の生産停止も出始めてきており、先行きの国内需要のみならず、輸出にも下向き圧力が生まれそうである。

〇 米国雇用者所得拡大、日本は停滞

 最後に日米の所得と物価について簡単に眺めてみよう。所得としては民間消費支出など家計部門需要の源泉である雇用者所得、そして国全体の所得としての名目GDP、物価面ではGDPデフレータについて、感染前の水準を基準に推移を図6、表4に示した。

雇用者所得(西米)[3362]

図6. 日米 : 所得と物価の推移(2019年10-12月期=100)

表4. 日米 : 所得と物価の推移(2019年10-12月期=100)

雇用者所得[3363]

 図6は図3で示した日米国内需要の推移を転写したような動きである。米国の雇用者所得は昨年10-12月期に103.1と感染前水準を一挙に3.1%上回り、その後も拡大を続け、今年4-6月期には105.9と感染拡大前を6%近く上回っており、家計部門の需要拡大を生み出している。

 他方、日本の雇用者所得は昨年4-6月期以降の回復力は弱く、年明け後の1-3月期99.9と感染拡大前の水準にほぼ到達したものの、4-6月期には98.2と再び感染前水準を1.8%下回った。雇用者所得の停滞が家計部門需要の動きに投影されている。

〇 米国はインフレ懸念、日本はデフレ懸念

 国全体の所得を名目GDPの動きで眺めると、米国では雇用者所得の拡大より1四半期遅れて年明け後感染拡大前の水準を上回り、4-6月期には感染拡大前を4.7%上回るところまで急拡大してきた。但し、雇用者所得の拡大は名目GDPを上回っており、雇用者所得回復主導の所得増といえる。

 総合的な物価を示すGDPデフレータの推移を眺めると、米国では昨年7-9月期には感染拡大前の水準を上回り、その後も上昇基調を続け、今年4-6月期には感染前を3.9%上回ってきており、インフレ懸念を醸成させてきている。

 他方、日本は国内需要の推移でも示されたように、米国の状況とは異なり、所得の回復に停滞が観察される。名目GDPは昨年10-12月期99.1をピークに年明け後98台で推移している。これを反映する形で、GDPデフレータは昨年7-9月期100.6を記録したもののその後低下基調に入り、今年4-6月期には感染拡大前の水準を下回る状況となっている。所得の伸びも鈍化し、物価も低下基調というデフレ的な色彩を生み出してきており、米国と対照的な状況である。

 新型コロナ・ウイルスの変異株が拡大してきており、感染再拡大のうねりが世界を覆い始めており、感染拡大1年半経過しても世界経済の先行きに不透明感が漂う。

 このような状況の下、米国と比較しながら眺めてきた日本の姿は明確に国のコロナ対策の違いにある。世界的に感染者数が少ないと海外から言われたことに安住し、財政赤字拡大を恐れ、コロナ対策が近視眼的で、かつ後追いの結果である。

 同時に、日本経済が抱える問題に光を当てずに来た状況で、新型コロナのパンデミックがさらに一段の所得低下と所得格差を生み出していることに気付かないのか。日本、すなわち国民が危機に直面している。

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