『サラバ!』/西加奈子
今回は直木賞受賞作である、西加奈子さんの「サラバ!」を読んでみました。
タイトルも然ることながら、この装丁もカラフルで目を惹かれました。
刊行されたのは2014年、もう10年近くも前の作品なんですね!
単行本は上下2巻、文庫本は上中下3巻とわりと長編作品です。
長編なだけに、私も気合いを入れて読み始めましたが、、
内容はとても読みやすくあっという間に全て読み終えてしまいました。
物語はすべて、主人公である僕「歩(あゆむ)」の語り口調で書かれていて、
歩がこの世に生を受けた瞬間の記述から始まります。
話の内容は主に歩の家族にまつわる話で、
主に変わり者の姉「貴子」に“自分自身の人生を振り回されている”
と感じている様子が描写されています。
正直、文庫本の上巻〜中巻の半ばまでの内容は単調で、
歩の成長過程で起きたさまざまな出来事についての描写が多く、
この物語はどこに向かっているんだろう?と思いながら読みました。
下巻に入ると歩は大人になり社会に出て30代に突入します。
そこからこれまでの伏線回収が一気に始まる感じがして、
面白みが増して「こういうことを言いたかったのか!」と
目から鱗が落ちたような気分で読み進められて楽しかったです。
この本で私が一番気に入った記述は、
生まれて以降ずっと滅茶苦茶な行動をしていると思っていた姉が、
自分のアイデンティティを失いかけている歩に対してかけた言葉です。
物語を読むとわかりますが、
この姉自身も、“自分が信じられるもの”を探して生きている人でした。
その姉が、やっと自分自身が信じられるものを見つけ、
それまでとは別人のように「まとも」で「安定した人」になっていたことに
歩は驚くのですが、それでも、やはりそれまで振り回された自分を置いて、
さっさとまともになってしまった姉に対し憎しみに近い感情を抱くのも
無理はないのかなと感じました。
また少し時間を置いて読み返したいなと思う作品です。
この作品とは関係ないですが、
西加奈子さんが最近書かれた「くもをさがす」では、
自身が乳がんと診断され治療を受ける話が綴られています。
まだ読んでいないのですが、近々読みたいなと思っている本です。