セキュリティ芸人の2023年を振り返る
セキュリティ芸人のアスースン・オンラインです。
2024年が半分終わろうとしていますが、2023年は伝説級の年だったので、しっかり振り返っておこうと思います。
(ほぼ毎年「今年は伝説だったな」と思っているただのポジティブな人なので、ボジョレーヌーヴォーとほとんど変わらないんですが、10年に1度の逸品です。)
というのも、2022年では、周りから「セキュリティ芸人って何だよ」という印象でしたが、2023年を終えた頃には、「動画で見たことある!」とか「そういう芸人もいるのか」くらいの温度感になっているんです!
ほら!こんな感じで取材されて記事になっちゃってるんですよ〜!
無名の平凡なエンジニアが業界でプチブレイクするまでの1年を振り返っていきましょう!
おもしろいエンジニアにおれはなるっ!
社会人2年目のことです。
ゲームプログラマとしての仕事には慣れてきたものの、自分のスタイルは何なのかをずっと探していました。
人を楽しませることが好きで、これまで色々とやってきたのですが、テレビで見る芸人さんのように「その人にしかできないスタイルで生き生きとしたい」と感じていました。
自分のスタイルは何なのか。
結婚式の余興で「愛を込めて花束を」をオカリナで演奏したり、人工的なVtuberを作ったり、色々と迷走挑戦していました。
おもしろいエンジニアになりたいという漠然とした思いだけがありました。
「何か大会に出てみたら?」という会社の上司のアドバイスを受け、お笑いが好きな自分は、ピン芸の大会「R-1グランプリ」に出ることにしました。
ボケとして参加しました。
皆さんも想像してみて欲しいです、会社の同僚がR-1グランプリに出ていることを。それだけで面白いんです。
まさかの1回戦通過。誰も予想していない展開で、自分が一番驚いていました。
有給で2回戦に挑み、敗退。
この先の人生で、あの2回戦ほど滑る経験はないでしょう。
おかげで、どんな場所に登壇しても、緊張しにくくなりました。
R-1グランプリで披露したネタは、「パスワード」や「画像認証」などの一般の方でもわかるセキュリティネタであり、もっとセキュリティ上級者向けのネタもどこかで披露したいなと思っていた矢先のことでした。
セキュリティ・キャンプフォーラムで披露する機会をいただけたのです。
この動画をYouTube様が大変お気に召されたようでして、皆様のおすすめに載りまくり、1日に何万再生もされる事態に。(ところどころうっすら滑ってるからやめてよ〜と思いながら)
この動画のおかげでチャンネル登録者1万人を突破しました。
YouTube「脆弱エンジニアの日常」始動
プログラミルクボーイをご存知の方もいると思いますが、元々YouTubeは気まぐれでやっていました。
登録者が増えたので、チャンネル名を変えて、もう少し頻度多めに活動することにしました。
エンジニア向けのエンタメ動画という方向性は当時のまま変わっていません!
2023年に投稿した動画は、34本(+ショート 29本)でした。
そんなに作っていたのか…。よく通勤電車の中で編集したりしていましたね。
中でもエンジニアならではのエンタメになっている肝入り作品をコンセプトとともに振り返っていきましょう!
ターミナルトーク
大人気シリーズ!シェルのbash(バッシュ)とお話できる人気アトラクションの『ターミナルトーク』です。
bash「ついでにシェルコマンドも覚えて帰ってくれ〜! 」
誕生のきっかけは、父親にされた質問「未来のお笑いってバーチャルになるのか?」でした。
「芸人がバーチャルになっても間とか振る舞いがリアルに叶うことはなく、おもしろくならない」と答えました。
しかし、あとからよくよく考えてみたら、某テーマパークでウミガメ系Vtuberがバーチャルの世界でも笑いをとっていることに気づきました。
もしかしたらこれが未来のお笑いの先駆けなのかと思い、コンピュータ系Vtuberの『ターミナルトーク』が誕生しました。
自分の着想やシナリオ・シェル芸スキルが活かされた作品になったと思います!
シリーズとなっていて、現在、第6回までご覧いただけます。
echo / pwd / bc / sed / shuf
date / sleep / history / grep / function
cd / ls / mv / cat / logout / source
whoami / open / du / convert / rm / mogrify
curl / jq / tail / cut / less
tree / fold / tr / sort / find
このターミナルトークですが、編集であとから動かしているわけではなく、ライブパフォーマンスで画面録画しています。
いつかライブで披露できるようにと、bash本体はElectronでデスクトップアプリとして作成しました。
2024年の話になりますが、技術系イベントでターミナルトークライブを披露しています。
16384人達成まで素因数分解ライブ
チャンネル登録者16384人達成までチャンネル登録者数を素因数分解表示するというライブをしていました。
YouTubeには登録者数が表示されるページがあるのですが、その登録者数を取得して素因数分解するjavascriptを書いて実行しています。
配信時間は24時間を超えました。
達成まであと450人の時に開始したので、一週間ぐらいかかる覚悟ではいました!笑
「どうして16384人?」と思っている方は、動画を見ればスッキリすると思います!
セキュリティ芸人が理不尽なパスワード作成ゲーム実況
情報セキュリティスペシャリストである自分が『The Password Game』というパスワードを作るゲームの実況をしたというものです。
パスワード作成時のルール「数字を含めること」「5文字以上でなければならない」などを全て満たすパスワードを作っていくこのゲーム。
ただとにかくルールが理不尽なものばかり。
ルールも30個近くあります。鬼畜ゲーです。途中ゲームオーバーになります。
「人のパスワードにペット飼わせるなよ」という謎ツッコミが誕生します。
そして、ちゃんとクリアしているところまで含めて評判が良いです。
東工大院生の日常会話切り抜きシリーズ
正規表現を微分する話
LispのガベコレをC言語で実装した話
マインスイーパははNP完全な話
そんなギークな話をラジオの切り抜きのノリで動画にしたシリーズ。
この会話に台本はありません。
全て言語ニキの頭の中にあり、このような話を何も見ずに延々としてくれます。
このような会話は大学の図書館でよく繰り広げられていました。大学の友達からは「実質チズケじゃん」と言われました。(チズケ=東工大図書館の通称)
自分の掲げている目標として、IT界のさかなクン的存在になるというのをよく言っています。
大学時代の学科の友達である言語ニキは、自分が描くIT界のさかなクン的存在に匹敵するくらい、情報工学オタクです。
「分かりやすくアウトプットする自分」と「情報工学知識が豊富な言語ニキ」が組めば、IT界のさかなクンになれる、そんな気がしています。
NAND回路からCPUを作るゲーム実況
『Turing Complete』という神ゲーを実況しました。
NANDという回路から与えられた回路を実現するというパズルゲームで、NANDからANDやXORを作って加算器を作ります。
それらを組み合わせていくとCPUが完成するという素晴らしいゲームです。(もちろんその先もある)
全ての論理演算はNAND回路の組み合わせで実現できることを体感できるゲームとなっていて、非常に面白いんです!
大学院生の日常会話シリーズに登場した情報工学オタクの「言語ニキ」と「D進くん」と一緒に実況プレイしています。
CPUのアーキテクチャについて全く詳しくない自分がプレイヤーとなっています。
そのおかげで、「わからない視聴者目線」に寄り添いながら「詳しめの解説」を得られる、情報工学教養コンテンツになっていました!
このゲームの感想として、情報工学科を学ぶ前に遊んでいれば、情報工学をもっと興味を持って学べたなあと思います。
しかし、このゲームは情報工学を学んでいないと、無理ゲーなくらい難しいです。
ですので、情報工学を学ぶ前の学生さんに、この動画が届いてくれると嬉しいなと思っています!
ちなみに、この動画の編集でちゃんとしたテロップをつけるために、大学時代の教科書を読み返してます。
勉強になるように、全動画にチャプターを設定してあり、動画の最後のまとめを見て振り返ることができます。
脆弱性ショート
深刻な脆弱性が発生する度にショートを作らないといけないので、頼むから脆弱性発生しないで欲しいです。
Discord「お笑いエンジニア」創設
SecHack365という人材育成プログラムに参加してた頃のチャットツールに「セキュリティお笑い」と「YouTubeの共有先」というチャンネルを立てて、セキュリティ系のネタの発信と収集をしていました。
これをもっと一般化してみようということで誕生したdiscordです。
Discordに参加する導線がYouTubeのページからしかないおかげか、とても民度が高いです。
自分の知り得なかったはずのエンジニア系の動画やエンジニアお笑いネタが集まるとても良い場所です。
M-1グランプリ2023出場
目まぐるしい日々でも、おもしろくなることを怠ってはいけません。
大学時代の友達に誘われたため、コンビを組んで出ることにしました。
R-1と同じノリでいけるかと思いきや、めちゃくちゃ難しい挑戦でした。
フリップという絵面がない分、言葉だけで表現しないといけないのです。
「強度えぐいパスワード」や「人でもわからない画像認証」が使えません。
「ホワイトボードにSSHの公開鍵」も言葉だけだとかなりインパクト弱いです。
また、導入が難しすぎました。
セキュリティ意識低い人(ボケ)の会社での1日の行いに対して、セキュリティ意識高い人(ツッコミ)が指摘するという設定。
初対面のお客さん相手に、この設定を最初の10〜20秒程度で伝えるのが困難でした。ネタ時間が2分なので30秒は使いすぎです。
サンドウィッチマンの導入がいかに素晴らしい発明であるかを実感しました。
4分くらいの長さのネタができて、それを優先度をつけて2分に縮める。
たくさんのボケのレパートリーの中から、なぜそれを残したかを言語化して相方に伝える。
仕事かと思いました。
当日はミスなくベストのパフォーマンスを出せたんですが、お客さんをつかみきれず、1回戦敗退しました。
結果はともあれ、ここでの台本作りの考え方が、この先の創作活動に大きな影響を与えてくれました。
シナリオライターを尊敬するきっかけにもなりました。
セキュリティ・キャンプのショート動画制作
「セキュリティ・キャンプで番組っぽいの作れないかな?」
というようなお声がかかり、広報担当として、セキュリティ・キャンプ全国大会に参加させていただきました。
セキュリティ・キャンプ系YouTuberになることに
ポスターなどでは伝わらない魅力を伝えようと考えた結果、参加者目線でセキュリティ・キャンプを楽しんでいるショート動画の形式にしました。
セキュリティ・キャンプの内容はとても濃いです。
技術的に難しすぎるので、ただの動画にしても再生されにくいです。
長くても1分以内というショートの形式に魅力を要約することで、「何やってるかわからないけど、楽しそうだからOK」というような、見れる内容に仕立てました。
複数の講義が並列で開催されているので、縦横無尽に飛び回って撮影していました。とても勉強になり、楽しみながら挑んでいました!
NOC見学の様子も動画にしておいたので、修了生の人が見ても楽しめる内容になっていると思います。
「自作OSあるある」「ホワイトボードにアセンブリ」「原著を読め」などの尖ったタイトルのショートを見れるのはここだけです!
日本で唯一攻撃が許されている喫茶店「脆弱カフェ」
セキュリティ・キャンプにお邪魔したついでにLTで新ネタもやっておきました(もはやメインという説もある)
日本で唯一攻撃が許されている喫茶店「脆弱カフェ」で、いろんなハッカーが攻撃しにきていて店がとんでもないことになっているというコントです。
強度えぐいパスワード付箋ステッカー
イベント「サインください!」などと言われることがあるのですが、サイン(署名)は脆弱なので渡せません。
サイン代わりに渡せるものということで、ネタに出てくる「強度えぐいな!管理ずさんだけどパスワード頑丈すぎるだろ!」のやつになれる付箋のステッカーを作りました。
売る予定はないです。セキュリティイベントで追っかけしてください。
(※追いかけるには応募課題必須の高倍率を突破してセキュリティ・キャンプやSecHack365に参加する必要がある高難度追っかけ芸人)
屋号「アスースン・オフライン」で開業
開業しました。今年の目標達成です。
これで個人事務所の芸人ラランドサーヤやさらば森田に近づいた気分です。
職業は「芸人」、屋号は「アスースン・オフライン」です。
この先ビッグなことをやっていくための決意です。
Eテレのような番組を作っていきたいです。
世界への挑戦
国際ハッカーイベントで英語でネタを披露してきました。
これまで学んできた全てをお笑いにぶつける男です。
果たして、セキュリティ芸人は世界に通用するのか?
ジャパニーズお笑いはウケないかと思っていましが、思ったより笑いを頂戴しました。
"LAN cable hair style?" そんなウケる?
大喜利CTFを開催する
セキュリティの実践力もつけていきたいので、セキュリティコンテストのCTFを開催することにしました。
動画に出てくるネタを深掘りした問題がメインでした。
「脆弱エンジニアの日常」チャンネルを見てくれている人向けの実績解除システムみたいなもんです。
自分ならではの色を出すために、IPPONという大喜利のジャンル問題を用意しています。
開催は終了していますが、動画で問題と解説(+みんなの大喜利回答)が残っています。
自分のスタイルは何なのか
2023年は、自分の方向性が定まり、突き進んでいく年でした。
セキュリティ芸人としては、一般の人のセキュリティのリテラシを向上させたい。
個人としては、情報工学の面白さをより多くの人にわかってもらい、エンジニアを楽しんで欲しい。
そのために、情報工学のエンタメコンテンツを制作しています。
どんなに難しい技術でも、テレビっ子でお笑い好きな目線を活かして、わかりやすくタメになる形でお届けしているつもりです。
夢の実現のためには、現役のエンジニアである必要があるし、おもしろい人がたくさんいるゲーム・エンタメ業界で働いている今が理に叶っているんだと思います。
仕事で得たエンタメのノウハウを趣味に活かし、
趣味で得たエンジニアのスキルを仕事に活かす。
相乗効果的な状態にいる。
そんなスタイルです。
以上、2023年振り返りでした。濃密だな〜!
「セキュリティ芸人の誕生」や「R-1グランプリの挑戦」については記事を書いてあるので、よかったらそちらもご覧ください!
セキュリティ芸人
アスースン・オンライン