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実業家が愛した美術十選⑩ 黒田清輝「針仕事」

ヴェヴェールに浮世絵を供給した林忠正は、パリ万博の仕事で明治11(1878)年に渡仏した。その後、パリに商会を共同で設立し、日本の美術品を売りに売った。

林が独立した自店を本格的に構えたのは明治22年である。以後林は10カ月ほど日本に滞在して美術品を収集し、そのあとフランスに戻って2年ほど売りまくる生活を長く続けた。なんでも林が近日帰朝の電報を寄こしただけで、日本の美術品の価格が上昇したというからスゴイ。

黒田清輝「針仕事」
アーティゾン美術館蔵
出典:Wikimedia Commons

林は日本美術を欧州で売りさばく一方、西洋絵画の蒐集に心血を注いだ。画家から直接購入することも多く、浮世絵と交換で作品を手に入れることもあった。まだ無名だったあのクロード・モネも、自作と交換で大好きな浮世絵を林から入手している。

そのため林は画家との交流も広かった。明治日本の洋画界に決定的な影響を及ぼすラファエル・コランも友人の一人だった。また、法学を修めるためにフランスへ留学していた黒田清輝の画才を認めて画家への転向を勧め、コランを黒田に紹介したのも林である。

「針仕事」は、黒田がコランの教室に通い出したのち3年もたたずして描いたものだ。やがて林は本作を手に入れるが、思うに浮世絵との交換ではなかったに違いない。

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実業家が愛した美術十選① 孔雀明王像
実業家が愛した美術十選② 十一面観音像
実業家が愛した美術十選③ 源氏物語絵巻
実業家が愛した美術十選④ 寒山拾得図
実業家が愛した美術十選⑤ 曜変天目茶碗
実業家が愛した美術十選⑥ 花白河蒔絵硯箱
実業家が愛した美術十選⑦ 普賢菩薩騎象像
実業家が愛した美術十選⑧ ゴッホ「アルルの寝室」
実業家が愛した美術十選⑨ 歌川広重「阿波鳴門之風景」

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本稿に登場した林忠正が売りさばいた日本美術品や蒐集した西洋絵画にまつわるエピソードなどについては拙著『幻の五大美術館と明治の実業家たち』をご覧ください。

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