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【 詞 と 詩 】 美しい名前

美しい名前

名を呼ばれ
首をすくめる彼
親知らずが痛むのかい?
拳が飛んでくることを予期するようだと
思っても口にはしなかった

昼下がりを集める窓のそば
あてがわれた僕は彼を知るべく歩み寄る
挨拶に一言添えた途端
白い壁へと放られるネームプレート
子知らずがこしらえた悲しみよ

どうすれば伝わる
近すぎるあまりのすれ違いを
自分の在りかが分からぬ者に
その名前が美しいこと

感謝するときは名を呼ぼう
おこりたい時はその訳を
信頼するときは名を呼ぼう
うんざりした時はその訳を

君と僕は似ている
気づいたのはその笑みに慣れた頃
たったの一言がいまだ君の機嫌を根こそぎに
思い上がりにはうんざりするよね

「生まれてきてくれてありがとう」

どうすれば伝わる
見えているものが違う
君は君が君だと分かり君となる
産声は祝福されていた
どうでもいいことかもしれないけれど
もう少しだけ付き合って
その音が美しいこと
それが君の

――――――――――


明日の叙景、ボーカルの布です。
聴く「詞」と読む「詩」という二つの側面を持つ歌詞について、ゆるく書いていきます。
今回は2nd Album「アイランド」より「美しい名前」について。

この曲はアルバム制作が終盤に差し掛かった頃、THE BACK HORNの「美しい名前」を聴いてて「曲名これにして歌詞書こう」と思ったのが始まりでした。
コンセプトが何もない中、ただぽつんと「美しい名前」というタイトルだけが打ち込まれたメモを見つめていると、浮かんだのは「名前とは押し付けられたものであり、自分を縛るもの」という発想でした。

「幸せな子になるように幸子と名付けよう」というように名前とは親の願いの結晶でもありつつ、あり方を決める基準(役割を与えもの?)にもなり得ると感じます。
名は体を表すともいいますし、名前を呼ばれることでより当事者意識が湧いたりもします。
名前を掌握されるということは、自分の深部を掴まれるようなものなのかもしれません。

そもそも名前は霊的なものと結び付けられることがありますね。
幼名の文化はその最たるものでしょう。

創作物においても、夢枕獏の「陰陽師」における「呪(しゅ)」の概念をはじめ「千と千尋の神隠し」や「夏目友人帳」など枚挙にいとまがありません。
ちなみに西洋でもグリム童話の「ルンペルシュチルツヒェン」では名前がキーとなります。
青空文庫でサクッと無料で読める。短いよ。

しかし、なんだかんだ「美しい名前」も「歌姫とそこにあれ」で取り上げたレヴィナスの「イリヤ」の影響下にある気がします。
他者とは、決して認識を共有できず、理解することのかなわない不気味な存在です。
だから縛りつけることはできませんし、縛り付けてはなりません。
でも、だからこそつなぎとめたくなってしまうこともあるのでしょう。

また、冒頭で「名前とは押し付けられたものであり、自分を縛るもの」と書きましたが、そこから転じて名前を「命・魂」の比喩として扱っております。
そういえば命名という言葉もありますね。名前を付けるとは命を吹き込むことに近いのかもしれません。
この歌詞はそういったことも踏まえて「押し付けられた生(名前)を肯定できるか?」と問う内容になっております。

ちなみに補足として一点、この歌詞には親子というモチーフがありますが、「君」と「僕」は親子ではなく、もう少し遠い関係です。
ネタバレが過ぎるのでこれ以上は書けませんが、色々と解釈していただけたら嬉しいです。

最後におまけがてら雑談。
お気に入りのフレーズは「親知らず」と「子知らず」なのですが、親子のすれ違いを表す言葉としても、臼歯を表す言葉としても、趣深くて暗いのが魅力的です。
歌詞にも曲にも関係ありませんが、合唱曲の「親知らず子知らず」は好きな合唱曲ベスト3に入ります。

……このえぐい歌詞をこの表情で歌うとか、上のアートワークちょっとストロングスタイルすぎる。
ちなみに、ベスト3の残り2曲は「あなたへ――旅立ちに寄せるメッセージ」と「COSMOS」です。
合唱の授業は好きじゃなかったのですが、合唱曲の情緒あふれるメロディと胸を締め付ける歌詞には夢中になったものでした。

それでは次回は「忘却過ぎし」について書きたいと思います。
またチェックしてくださいね!

▫ライブ情報

2024.11.27(水)名古屋鶴舞DAYTRIP
Solo Concert “Island in Full” -extra-
LivePocket
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zaiko
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2024.11.28(木)大阪Yogibo META VALLEY
Namba Culture Terminal 2024 -1st Anniversary-
with OGAHM / OLPHEUS / SheeSawHarm / VISION OF FATIMA / 雲雀
イープラス
https://eplus.jp/sf/word/0000159672

2024.11.30(土)川崎 CLUB CITTA'
MIXED HELL 2024
with PassCode / 花冷え。 / JILUKA / VMO / kokeshi / KANDARIVAS / Launcher No.8 (Opening Act)
イープラス
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