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第2回(前半) 産業医大まるはだか!〜進路どうしよーと?編〜
この記事の読了時間は約5分です。前半の記事となります。
産医大の後輩に加え、受験生や産業医大生から見た制度や進路について知りたい方に向けた記事となります。
1.はじめに
こんにちは!産業医のたまごです!記事を開いていただきありがとうございます!
今回の記事の目標は受験生や在校生に向けて産業医大の特殊すぎる進路の紹介、産業医大生の産業医に対する考え方の変化を知ってもらうことです。
本記事で全て語るには長くなってしまったため、前半として産医大生がお世話になりつつも背負うことになる修学資金制度の概要や専門産業医コースの紹介、専門産業医コースⅡ(臨床メイン)までをお伝えします。
後半では専門産業医コースⅠと、現在の学生の進路や昔との考え方の変化、制度や修学資金、専門医などに関する学生の考えを書いていきます。
第一回を読まれていない方は下のリンクからどうぞ!
データは基本大学のホームページから見ることができるもののみ取り扱い、それ以外の部分に関しては私が大学の説明会等で見聞きした情報を主観・肌感で説明するので、産業医科大学公式の見解とは異なる部分もあることをご了承ください。
⚠️修学資金制度や運営資金の構造は非常に難解であるため、記事が間違っていたり用語が揺れている可能性があります。正確なところを確認したい場合には下記サイトを是非ご確認ください。
2.そもそもコースってなに!?
これに関しては全ての進路について説明することは難しいので、あくまで王道ルートををお伝えします。
通常の医学部では、進路選択(専攻科)や入局先を決定するのは主に研修医2年目で、大学で決定するのは初期研修病院のみになります。
しかし産業医科大学では公益財団法人産業医学振興財団による、修学資金制度の返還免除のためにお礼奉公(貸与された期間×1.5年分)をする必要があり、
その際に"産業医等"(修学資金制度の用語)として働きます。そのお礼奉公を完遂するための道筋がコースと呼ばれるものになります。
以上の事情があり、5年生で一度入局先(コース)を決定するという制度は産業医大にしかない制度となります。
初期研修病院の選択は全国どこでも選択自由です。
コースの変更や科の変更については初期研修医中に一応可能ですが、実質的な最終期限はあります。出て行く科や受け入れる科と話し合いが必要であり、科のスタンスにもよるのでここでは深くは語りません。
しかし5年生で進路決定は無茶と多くの先生もわかっているので、柔軟な対応をしてくださる先生が多いです。
2-1.修学資金について(不同意離脱問題)
入学するときに修学資金制度の契約を結ぶことになるのですが、修学資金制度の貸与規則に関しては入学年度によってマイナーチェンジされているので注意が必要です。
いわゆる”産業医等”の職種は、
産業医
産業医科大学の教職員→大学病院勤務もこれ
独立行政法人労働者安全機構(労災病院)の医師又は同機構の研究員(産業医学に関連するものに限る)
厚生労働行政機関の職員(産業医学関連に限る)→厚労省の医系技官(産業医関連)
その他財団理事長が指定する産業医学の実践・研究を行う機関 など
というのがメインです。これ以外にも色々書いてあります。
修学資金の貸与額(返還額)は最短卒業の6年間フルで借りると約2500万円ほど(年率10.0%の利息額を含めて)かかり、相当な金額となります。
さらに注意が必要なのは、この2500万円を返還したとしても、近年の他大学の地域枠の不同意離脱問題に産業医科大学も事情がだいぶ異なるのにも関わらず巻き込まれてしまい、いわゆる不同意離脱とみなされてしまった場合には各種専門医が取れなくなってしまうというリスクが存在します。
またとても大切なことなのですが、修学資金を返還する際は一括返還となります。
大事なことなのでもう一度、一括のみです。
実際のところはわかりませんが、不同意離脱問題に巻き込まれてしまった原因の一つは下記のデータが一つの根拠となるというお話をお聞きしました。
”実際学生一人あたり医師(産業医)として育成するのに、9000万円ほどかかっているのに、学生が払っているのは1100万円だけで、利息を含めた修学資金を返還したとしても全然足りないじゃないか!!!”
ということらしく、運営の原資となっている労災保険料を払ってくださっている全国の企業や労働者の方からの声があったとかなかったとか…
要するに、修学資金を返還して義務から逃れることは今はもうできません!
これについては後半の記事で学生目線の思いを紹介します。
以下不同意離脱に関するソースとなります。
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最初から修学資金を借りないという手は自分の知る限りほぼ不可能だと思いますが、正確なところは分かりません。
しかし一学生として思うのは、通常の産業医大生の進路とは1人だけ外れることになり人間関係や大学との関係が悪くなる恐れがあるため、修学資金を借りないのであれば産業医大に入学するのはおすすめできません。
2-2.いざ、コースについて
コースに関しては下記の産業医科大学キャリア形成プログラムに基づき説明します。https://www.uoeh-u.ac.jp/library/career/program.pdf
産業医科大学の学生の進路選択は、5-6年次のコース決定からスタートします。
コースは3つあります
専門産業医コースⅠ (通称コース1 産業医をメインに修練を行うコース 社会医学系専門医の取得を目指す)
専門産業医コースⅡ (通称コース2 臨床医をメインに修練を行うコース 臨床領域ごとの専門医取得を目指す)
産業医科大学大学院 (産業医的な修練はあまりなく、研究分野に進みたい人がいく。ほぼ行く人がいないので情報なし。割愛します。)
の3つのコースがあり、このコースプログラム自体は医者6年目までには終了し、その後の期間は義務年限を果たすべく、上記の”産業医等”などの返還免除対象職務に従事することになります。
どのコースでも、義務年限を終えるためには2年の専属産業医を行うことが義務付けられています。
またコース1・コース2両方に産業医科大学大学院の社会人大学院生として修士課程に進むことも可能な道も存在します。
修学資金制度の関係上、財団に対して様々な手続き等が必要であるため、基本的に産業医大の5年生は6年生の夏までに、入局説明会を経てコース決め、すなわち臨床系(コース2)、産業医系(コース1)それぞれの教室に入局届を出すことになっており、コースの申請を行います。
次にそれぞれのコースについて説明していきます。
3.専門産業医コースの詳細
3-1.専門産業医コースⅡ (臨床メイン)
産業医科大学の医局に所属し、臨床専門医の取得するを目指すコースです。
基本的な流れは一般の若手医師と変わらず、
初期研修(2年)→後期研修(3〜6年)という流れです。取れない専門医は基本的にほぼありません。
逆に一般の若手医師との最大の違いは、働く場所、という意味で自由度が減ってしまうということです。
コースⅡそのものは医者6年目の時点で終了しますが、各診療科の専門医プログラムに乗るために大学の医局に所属し続ける可能性が高くなるので、医局人事で動く事になるのは注意が必要です。
臨床メインではありますが一応"専門産業医"コースなので、本学で産業医実務研修(産業医基本講座、産業医学実務講座4ヶ月)は受講する必要があります。
また1年6ヶ月は本学にて修練することとなっています。
ここで以上をまとめて、大まかに診療科の教育の流れを書くと
初期研修(2年)→お礼奉公のカウントの始まりはここから→本学で専攻医3~4年目(ここで各診療科のいろはを学ぶ。科により関連病院勤務や外勤が始まる)→5〜7年目(1段階目の専門医取得)→8〜10年目(2段階目の専門医取得)
+2年の専属産業医で義務年限終了
診療業務と並行/休んで産業医の講習、3年目から社会人大学院も並行も可
全体をまとめたものなので診療科により実際の年次にズレがあるのはご容赦ください。
産業医科大学病院で初期研修をした場合には2年のうちの半分の1年が義務年限にカウントされるという仕組みがあり、それを使った場合には最短10年で義務年限が終わる、ということになります。
まず、1年6ヶ月の本学勤務は義務ですが、残りの期間は本来他の病院で勤務してもいいわけです。
ただし、可能かどうかは医局人事によるということと、産業医大で専門医プログラムに入っている以上簡単に産業医大との縁を切ることができないのは注意が必要です。
各診療科ごとに関連病院をいくつも持っていますが、基本は北九州の周辺がほとんどです。どこの病院を持っているかはバラバラです。一般に公表されている情報はほぼないに等しいので、進路を決める時期に開かれる医局説明会にて関連病院について質問することが大切になります。
自分の知っている情報では東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫などの大都市にも関連病院がある科もあります。医局人事に関しては思い通りにいかないこともあるとは思いますが、希望をきちんと伝えることは重要です。
また専門医の取得に関しては各都道府県のシーリング(都道府県ごとの各専門医採用定員数の制限)も関連します。福岡県には医学部が産業医大以外に、九州大学、福岡大学、久留米大学に存在するため、その年の人気によって特定の診療科に人が多くなった場合には、シーリングであぶれてしまう人が出てしまいます。
そのため科によっては、シーリングに達していない他の都道府県(大都市含む)のプログラムに産業医科大学の医局派遣という形で参加することも理論上可能ではあります。
これに関しては年によって話が全然変わるのと、診療科や教授のパワーによっても変わるので、もし産業医大の外に行きたいと思う希望があり、チャンスがあればという話にはなります。
また社会人大学院に関しても科によって対応がまちまちで、全員入るよう促してくる科もあれば、自由な科もあります。
産業医学の講習に関しても、マンパワーが足りている科は講習期間中は講習優先でいいよ!と言ってくれる科もありますが、大変なところだと講習の昼休みに病棟に帰ってきて患者さんを見て、下手すると講習後から当直…なんて科もあったりしたことがあるようです。
一旦ここまで!!!!
長くなるため残りの専門産業医コースⅠや、みんなの進路、学生から見た制度や進路についての感想は次回お伝えします。
この記事でいただいた疑問は可能な限り次の記事で回答いたしますので、Xのリプや引用で教えてくださると助かります!
お楽しみに!!
(最初の写真は福岡県福津市の宮地浜の夕陽を撮りました。産業医大から車で40分くらいの場所で見られます)